第17話 あの時、押し切れなかっただけに・・・

 そりゃあ、大宮さんの場合は外からの第三者としての目で見られているというのが第一にありますし、それに加えて、あの方の20歳前後の頃の印象がやたら強いというのもおありでしょうから、そう見えておられるのではないですか? 

 私の場合は40代手前の頃から今に至るまでのベテラン保母さんとしての接触しかありませんが、どうしてもこの手の仕事と言いますのは、子どもと年齢が離れていくほどに、そのギャップが大きくなっていくものです。

 小学校や中学校の先生なんかでも、そうじゃないですか。

 そのギャップを技術で埋めるか、あるいは教頭や校長等の管理職に転じていくことで教員人生に軌道修正をかける方が多いですよね。

 それにしても、あの全面移転の折に身を引いていただければ、こちらにしても無駄な労力を使わずに済んだと思うだけに、あの時理事会であの提案を押し切れなかったことが悔やまれます。


 少し間をおいて、大宮氏が再度尋ねてきた。

 この室内に一時充満した珈琲の香りは、徐々に、薄まってきた。


「お気持ちは十二分に理解できるが、現実、山上先生は今もお勤めでしょうが。結局は、君がやらねばならん仕事ではないか。ひょっと大槻君、東先生と移転前に、今まで以上にないやり合いをしたように思えてならないが、そこは、どうなの?」

「確かにその件でもやり合いました。怒鳴り合いに近いやりとりもありましたね」

「そんなところだろうと思っていたよ。大槻君のことだから、東先生に問題を先送りばかりするなとか、そんなことを申し上げたのではないか?」

「大宮さん御指摘くらいのことは、もう、前座段階で申上げましたよ(苦笑)」

「その程度が前座なら、真打となれば相当な話になったのだろうな、さぞやさぞや」

「そりゃあそうですよ。山上先生がおられるだけで、無駄な世代間ギャップが職員間でも児童相手でも発生していますから。正直、無駄な労力を割かせる要因をよくもまあ、教員上がりというか教員くずれのあの爺さん、ほったらかしにして逃げやがってと、言葉は確かに難でしょうけど、そこまで言いたくもなりますよ」


 彼にしては激しい表現だなと、大宮氏は感じている。

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