第9話 余人もって代えがたき人材ではある。が・・・
「と、言うか? 何か、あったのかな?」
そこを尋ねずにはいられない。そんな思いがにじみ出る問いかけが、なされた。
「そこは、園長になる前、こちらに移転してくる頃から、出来るだけ後進を育てるために彼女の負担を減らしてあげようということで動いてきました。若手の、とはいえその中では少し年上の吉村静香という保母がおりますから、そちらにできる限り振っていくようにしております。吉村さんも子育て真最中ですのであまり負担を掛けられませんから、徐々に、若い人に仕事を覚えてもらえるように計らっております」
大宮氏は、何かを感じたのか、少し話題の角度を変えてみた。
「古京のおじいさんのときも森川のおじさんのときも、おそらく東先生のときもそうだったろうが、園長という立場にいる人から見て、職員は皆さん自分より若い人ばかりだったよな。そこに来て、大槻君は30代後半という「破格」の若さで、このよつ葉園という養護施設の園長に就任された。君よりは若い人の方が多いことは明らかであるが、自分より年上の職員さんもおいでであることについて、どうお思いかなと」
予想通りの指摘が来た。大槻氏は、ある種の覚悟を決めて回答してみせる。
「お言葉ですけど、地位だけで仕事をするわけでも年齢だけで仕事をするわけでもないですから。それはそれとして、私なりに考えているところはあります。よつ葉園にとって山上先生は、余人もって代えがたい人材である。そのこと自体は、間違いありません。ですが・・・」
少し間をおいて、大宮氏は尋ねた。
「それは「過去形である」と言いたいのかな?」
かなり踏み込んだ問いかけになったのか、一瞬、大槻氏の表情が硬くなった。
「それを言ってしまえばおしまいではないですか。過去形であるとまでは、若い頃ならともかく、園長としての私の口からは、申し上げる意思も勇気もありませんよ」
彼はこのくらいでは尻尾を出すまい。そう思いつつ、大宮氏は追い質問をかけた。
「では、「今」のよつ葉園においては、子どもたちや職員各位にとって、山上先生の存在というものは、必ずしも良いものとして機能していない。そういうことか?」
やはり、そう来たか。覚悟を決めて回答せざるを得まい。大槻氏は、そう感じた。
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