地球防衛戦争に征った幼馴染の遺書をクリスマスイヴに読まされた話

江倉野風蘭

地球防衛戦争に征った幼馴染の遺書をクリスマスイヴに読まされた話

 拝啓、美紗=クラリス・スローカム様。

 元気でやっていますか? 食事はちゃんと摂っていますか? 栄養のあるものを食べていますか?


 このメッセージは、私にもしものことがあった場合に転送してもらえるよう、後方にいる同僚にあらかじめ送っておいたものです。

 つまりこれがあなたに読まれているということは、私の命が星の大海に散ってしまったことを意味します。


 正直とっても残念です。


 小さい頃からずっと、あなたは星を眺めるのが好きでしたね。

 私は忘れたことがありません。小学校の修学旅行で宇宙ステーションを訪れたとき、窓に顔を貼りつかせるようにして天の川に見とれていたあなたの、心底幸せそうだった表情を。

 この宇宙のどんな星よりも綺麗だったあのキラキラした瞳を、もう一度隣で見たくて。だからこそこうして星の大海へと飛び出し、あなたの笑顔を曇らせた“奴ら”との戦いに身を投じたのですが……それはもう叶わないというわけです。


 一体どんな散り方をしたのでしょう。

 普通に撃たれた? 母艦への奇襲攻撃? それとも味方の流れ弾?

 せめて英雄的な最期を迎えられていればまだマシなのですが、残念ながら現実の戦争はそうもいかないものです。大抵の者は何とも呆気ない散り方をしてしまうもので、フィクションの登場人物みたいにカッコよく散っていける者はそう多くないのです。

 ただ裏を返せばちょっとはいるので……どうせならその『ちょっと』の一人になっていられたらいいな、と思います。私の正確な散り様は多分伝えられませんから、あなたにも『星奈は英雄としてカッコよく散ったんだ』と信じていただければ幸いです。その方が色々と浮かばれるでしょう。


 ……さて。

 幼馴染であり婚約者でもあったあなたへの最期のメッセージとしてはあまりにも短すぎますが、通信量にも限りがあります。

 この辺りで筆を置かなければなりません。


 私はこの星の大海で過去となり、永久に留まり続けることになりました。

 でもあなたはどうか今を生きて、未来へと歩みを進めていってください。

 そしていつかまた時空の向こうの最終極点で会えたなら。

 まずは私を三発殴って、叱ってください。

 それからたくさんお話をしましょう。


 ごめんなさい。

 愛しています。

 さようなら。


 人類紀元12237年12月24日

 宙域強襲制圧艦『プルス・ウルトラ』より

 第161戦闘機動隊 四宮星奈 3等宙尉



 §



 ………………………………という、この上なくふざけた内容のテキストファイル。

 それを一通り読んだ私、美紗=クラリス・スローカムは。


 白とアズールの軍服を着て隣に立っている女の顔に、往復ビンタを三発かました。


「バカッ! アホッ!! タワケ!!!」

「ぶふっ!? ……いったぁ~い」

「あんたが殴れって書いたんでしょうが……!」

「でもここ最終極点オメガ・ポイントじゃないし、地球だし――」

「うるさいっ!」

 四発目。

「痛っ!? ちょっと、四発も殴っていいとは書いてないんだけど!?」

「うるさいうるさいうるさいっっっ!! ……っほんと、ほんとさぁ……」

 彼女を引っ叩いた感覚が消えないうちに、今度は両腕を使って星奈を感じにかかる。

 その身体を抱きしめて、柔らかさと温かさを――確かに生きてそこに“居る”ってことを実感する。


 ……ああ。


「おかえり」

「ただいま」


 人類紀元12242年――太陽系に平和が訪れた最初の年。

 その年のクリスマスプレゼントは、私の人生で最高のものであった。

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