Anh.16『氷のような君の心も』
―2010.9.15 25歳―
数週間前、
進行期はIB1期で、腫瘍径は3cm 。
術前の画像検査で子宮頸部以外に病変がないと認められた為、将来的に妊娠できる可能性を残す『
しかし、『広汎子宮頸部摘出術』は腫瘍径が“2cm以下”でなければ術式適応しないと言われ、子宮全摘術を勧められる。
(中絶しておいて、今更妊娠を望んでも叶わないんだ。罰が当たったんだ……)と自分を責めたりもしたが、まるで赤ちゃんや神様のせいにしているような身勝手な考えは頭から消し去らねばと、彼女は
宣告を受けてからも気丈に業務に従事してはいるが、診療時間が終了すると虚脱感に陥る。
「どうかしましたか?」
水曜日の外来診療担当医である
彼は心臓血管外科の専門医であり、大学病院医局の助教。
容姿端麗で高身長・高学歴・高収入の30歳――と、周りの女性は放っておかないのだが、浮いた話は皆無。医学の事しか頭に無く、色めき立つ女性達には全く興味を示さない事でも知られている。
相手にされなかった女性陣から根も葉もない噂を立てられようが気にも留めず、医療技術の向上に心血を注ぐ“医学バカだ”と揶揄される程で、スタッフを心配して声を掛けるなど稀な事だった。
「門叶先生、実は私……」
純麗子が自分の病状について門叶医師に打ち明けると、彼はセカンドオピニオンの検討を勧めた。
彼に紹介を受けたのは、セレブリティな病院として名を馳せる、北青山の『医療法人
『
しかし、『術中迅速病理検査』により“切除断端陽性”や“リンパ節転移陽性”となれば、子宮全摘に切り換えるとの説明もなされる。
彼女は治療方針に納得し、転院を決めた。
―2010.11.30 26歳―
手術当日。『術中迅速病理検査』により、骨盤リンパ節転移が“陽性”となった――。
治療はリンパ節郭清を含めた『広汎子宮全摘術』に変更となる。
救いは、
また、卵巣欠落症状のリスク上昇を考慮し、妊娠の為ではなく性腺機能温存としての卵巣温存も選択された。
術後、手術検体の病理診断でIIA期となり、抗がん剤治療が6クールと、並行して週5回の放射線治療が始まる。
退院後も2ヶ月間は平日に通院し、治療が続いた。
倦怠感や
放射線照射による被爆を予測し、その回避のため卵巣位置を移動し固定する術式が取られていた事で、“卵巣欠落症状”に悩まされたりもしなかった。
しかし、器具を膣から挿入し、身体の内部から放射線を照射する『
『術後
入院中は病院近くに宿泊し、昼夜サポートしてくれた。また、アガリクスやビール酵母、抹茶青汁など、癌に効くと聞けば娘の為に購入し飲ませたりも。
そして何より有難かったのは、純麗子を被保険者として大きな保険に加入し、母親が支払ってくれていた事。お陰で彼女は受けたい治療を選択する事が出来たのだから。
1度目は村上龍作品を15冊、2度目には伊坂幸太郎作品を10冊も携えて――。
辛い闘病生活を抜け出し小説の世界に浸る時間が……、彼の運んで来てくれた本との対話の時間が、彼女の精神を幾分か安定させた。
この物語は、実在の人物や団体などとは一切関係ありません。作者の人生とも全く交差しない、詮索謝絶の完全なるフィクションです。
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