Anh.10『ジャスミンとバラの群れ咲く』
―第6場―
『
―2004.11.4 19歳―
「
久々の連絡に驚いたが、彼女の誘いを無下には出来ず受ける事にした。
地下鉄動物園前駅で降り、南側の出口を上がると空気が一変する。
本当に文字通り、“空気”が明らかに違うのだ。
何とも言えない悪臭が立ち込め、地面には酔っぱらいの浮浪者が座り込み、スカートの中を覗いている。気にする素振りを見せれば危険な気がして、純麗子は何食わぬ顔で通り過ぎた。
北側には通天閣が
そんな西成の街の、影に入った気がした。
堺筋を南下し、言われた通りド派手な激安スーパーを見つけたら、左に曲がる。
薄汚れたアーケードを歩きながら、理咲凪に電話を掛けた。
迎えに来た彼女とメイン通りへ入ると、江戸時代の遊郭にタイムスリップしたかのような煌びやかさと、土地に
立ち並ぶ店々からピンクのライトに照らされた美しい女の子と、隣に座る年配の女性が通りを見ている。
理咲凪は会釈しながら前を歩き、純麗子もつられて頭を下げた。
連れ立って店に入ると丁度出前のコーヒーが届いた所で、可愛らしい女の子は老女に「ありがとうございます」とお礼を言って飲みはじめた。
理咲凪は
部屋には丸いちゃぶ台と2枚の座布団。小汚いペラペラの敷布団の周りには統一感の無い縫いぐるみが並べられている。
「キスしたり、舐めたりしなくていいんよ?最初からゴムつけるきまりやし、病気の心配もない。デリヘルとか本番なしって言ってる方が、素股とか色々せなあかんし、病気も移りやすいねんで?結局は本番強要凄くて
彼女は純麗子が風俗店で本当に身体を売っていると誤解しているようだったが、純麗子もわざわざ否定はしなかった。
次に向かったのは、タンクが頭上にあり、紐を引いて水を流す古いタイプの和式トイレ。段差のあるタイルの床は水浸しだ。
手洗いの蛇口から延びたビニールホースを膣に突っ込み、接客の度に洗うからだという。
隣には生々しく消毒液も置かれていた。
ビジネスの建て付けは良く出来ている。
先程の女の子と横に付く女性は料亭の仲居であり、料亭内で客と仲居が自由恋愛に陥り身体の関係に発展する事もあるが、お支払いはあくまでドリンクやお菓子の料金で、決して女性の体を買った金ではないのだから売春にはならない。
そんな表向きのシステムで成り立っているのだ。
この界隈の“料亭”の営業時間は10時から24時だが、夕方から開店の店も多く、理咲凪が案内した店も16時からだという。
下に降りると開店の準備が整い、上がり
遣手の仲居さんは通りを行き交う男性に「兄ちゃん、寄ってって」と声を掛ける。
物色の色味を極力抑えてチラッと目線を女の子に向ける男性には、すかさず
男性は慣れた様子で靴を脱ぎ、女の子と共に階段を上がり部屋へ入って行く。
奥の部屋の
最初から、あわよくば程度の腹積もりでいたのだろう。
上がり
座っているだけとはいえ、表情を作るのは疲れる。そしてずっと同じ子が座り続けているのも、人気が無いように見えるから助けて欲しいと説明された。
「通りを行ったり来たりして品定めする男性には、2階に上がったんか茶の間に下がったんかは分からへんやろ?」と。
新しい女の子が見つかるまでという約束で、サクラを始めた。
理咲凪は「おばちゃんが招き入れても断ったらええからね」と言ったが、おばちゃんは「
そうは言いつつおばちゃんは、事が済んだ耳の赤い客を狙って呼んでくれた。目が利く遣手の仲居さんなら、絶対に声を掛けない相手だが、見極めた上でわざと狙い撃ちしてくれているのだ。
純麗子に興味を持つ男性を察知したら、「アカン、扇子で顔隠し」と小声で囁き、「愛ちゃん、交代の時間やで」と彼女を下がらせた。
「今日の送りの時、マスターが紅葉のライトアップを見いに連れて行ってくれんねんけど、一緒に行かへん?」
彼女は理咲凪の誘いに乗り、マスターが運転するノアで皆と神社へ向かった。
純麗子と
この物語は、実在の人物や団体などとは一切関係ありません。作者の人生とも全く交差しない、詮索謝絶の完全なるフィクションです。
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