第2幕『純麗子の回顧録』
Anh.4『いつか、時の流れに』
―
『
私を待つのが
余白を
―第1場―
『懐古と
―1984.11.13 0歳―
彼女が8歳になる頃、昌輝は国内外問わずの転勤続きに精神を病んで退職し、京都市東山区の実家へ妻子を引き連れ戻って来た。
和菓子屋で働き始めた昌輝は、幼い頃に憧れた和菓子職人こそが天職と実感。
5年が経った頃、修行先の店で類い稀なる才を認められ、新店舗の店長を打診されるも厚遇を蹴って、自身で和菓子屋『
昌輝が低賃金だった修行期間、純麗子の母 なつみは自動車外交販売員をし、なんとか生計を立ててきた。
証券マンの妻となり、専業主婦として一生を終えると思っていた彼女にとって、人生は
ようやく夫が一人前の職人として認められ、安定の兆しに安堵した矢先の独立。
然れど彼女は渋々会社を辞め、店を手伝う事を甘受した。
―2001.1.12 16歳―
一念発起しての独立だったが、残念ながら昌輝に経営の才は無かった。組織に属してこそ、最大限発揮される資質の持ち主なのだろう。
古巣の邪魔にも遭い赤字が続き、家計も商売も火の車。
なつみは補填の為に、夜は祇園のクラブでも働いた。
結婚してからというもの、転勤に転職、独立に経営難と振り回される日々を過ごし、ついに彼女は必然の帰結として離婚を切り出す。
一人娘の
しかしながら夫を切り捨てた未来で娘と2人、今を大切に生きていくことはできると思い至った日から、一日も無駄にはしたくなかった。
離婚後、なつみは自動車外交販売員に復職し、夜の仕事は辞めた。
程無くして純麗子は、『
父の作る優美な上生菓子は、凛とした風格を漂わせる色合いで四季を
純麗子の心に大きく刻まれた、最初の出来事だった。
彼女は幼い頃から母の苦労を見てきていた為、離婚は致し方ないと思っていた。
しかし祖父母と離れて暮らす事には、埋めようのない
祖父 ヴェッツィオは、イタリア軍航空技師を父に持ち、父を頼りに教えを乞いやって来る日本の研究生と、幼少期から多く関わり合った。
だからこそ自然な流れで日本へ憧れを持ち、戦後、日本を訪れた際には、宮大工の技術と精神性に魅了され、移住を決意したのである。
祖母 時子は
純麗子はそんな2人の話を聞くのが大好きだった。
純麗子達が引っ越してわずか半年後、祖父が他界。祖母も夫に先立たれた翌年に永眠した。
純麗子の中には、もっと会いに行けば良かった――という、消えない後悔が今でも残っている。
そして京都には、後悔の思念が纏わりつく記憶がもう一つある。
この物語は、実在の人物や団体などとは一切関係ありません。作者の人生とも全く交差しない、詮索謝絶の完全なるフィクションです。
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