第2話 元の世界で寄り添うものたち

それからどれだけあの世界に渡る方法を探しただろう。

 古書を探し、忌憚きたんを探し、都市伝説にさえすがったけれど、世界を渡る方法を見つけることはできなかった。

 異世界にいざなわれた伝承を幾つも紐解いても、あの世界への道は欠片も見つけ出すことは出来なかった。


 見つからない探し物を抱えたまま大人になり、青年期を越えた頃、妙に生き物に好かれるようになった。

 ほんの小さな生き物たち。


 最初はその存在に気付きもしなかった。


 夏に張り付かれた小さな蚊。

 血を吸うわけでもなくただ近くに飛んでいた。

 夏を越える頃には消えていた。


 秋は蓑虫みのむし

 庭先の木から垂れてきて、じっとこちらのほうを向いていた。

 風か小鳥が連れ去って行ったようで、すぐに見つからなくなった。


 冬はヤマネ。

 なんとまぁ小さなネズミが隙間から入ってきて、枕の上ですやすやと冬眠していたのだ。

 調べたら飼うことのできない天然記念物だったので、春先には雑木林に返した。

 しかし何度も何度も帰ってくるので、根負けして窓辺に小さな籠を置いた。

 寝る前に窓際を見ると、籠の中で眠る姿にどれだけ心慰められたか。

 小さなヤマネは五年で眠りについた。

 寿命尽きるまで一緒にいてくれたらしい。


 あまりにも落ち込んで過ごしていたので慌てて戻ってきてくれたのか。

 春には綺麗なモンシロチョウが周りを飛んでいた。

 毛虫の姿を見せないのが……らしくて、笑ってしまいそうになった。


 幾つもの季節、小さな蜘蛛や雀、小さな小動物たちは隣にあった。

 さすがにカラスが窓から覗いていた時には驚いたけれど。


 あぁ、そうそう。

 王子様みたいな美しい犬の時もあった。

 大きな毛並みの綺麗な足の長い犬。

 公園に行く度に飼い主のリードを振り切ってこちらに来ていたっけ。

 飼い主が引っ張っても梃子てこでも動かず、終いには餌も食べなくなって。


 飼い主が悩んで世話をみてくれないかと頼み込むほどに頑固な犬だった。

 譲り受けてすぐに何事もなく食事を取り始めたものだから、元の飼い主と一緒に苦笑いしたっけ。


 それでも十年ほどで虹の橋を渡ってしまった。

 別れの度に生き物たちは傑の元に帰ってきた。姿を変え、何度も何度でも。


 何十年共に過ごしただろう。

 いつの頃からか異界を渡る方法は探さなくなっていた。


 探し物はきっとこちらに来ていたから。





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