第10話 姉妹会議

〜〜 彩弥音あやね視点〜〜


 引越しはひと段落。

 日は暮れて、私たちは姉妹だけで私の部屋に集まった。


 凛華は咲を抱きしめている。

 ベタベタとくっつく彼女に、咲は眉を上げた。


「凛華ちゃん、どうしたの?」


「別にぃ……」


 そう言って、更に強く抱きしめた。


「ねぇねぇ、凛華ちゃん。咲の部屋のカーテンは何色がいいと思う?」


「やっぱ。ピンクじゃない?」


「だよねーー。動物の柄とかあったら可愛いかなぁ?」


「んげーー。子供っぽーーい」


「いいもん。咲はまだ子供だもん。あ、そうだ。お兄ちゃんに相談してみよっと♡」


「むぅ! あんなキモオタに聞いて何がわかるってのよ! だいたい、あいつの部屋、お洒落じゃないし!」


「でも、ゲームとか漫画とかいっぱいあって凄いよねぇ」


「凄くなんかない!」


「えーー。凄いよぉお。咲ねぇ。うふふ。お兄ちゃんと漫画を貸し合いっこする約束をしたんだよ」


「んもぅ! 咲ったらぁ。あんなキモオタと仲良くなんかなってぇえ。あんなダッサイ男のどこがいいってのよぉ」


「えーー。だってぇ……。お兄ちゃん優しいよ」


「ふん! そんなの初めだけよ。どうせ、気を遣っているだけだわ! 部屋の中に美少女フィギュアとか飾ってんのよ? 絶対にヤバい奴だってぇ! お姉ちゃんもそう思うでしょ?」


 陸斗くんのことか……。

 確かに、彼は気を遣ってくれている。

 私たちが快適になるように、いつも考えてくれているんだ。

 自分のこともあると思う。私たちは急に家族になったわけで、彼にとって私たちはいきなり一緒に住むことになった単なる同居人でもある。

 そんな存在と仲良くするのは、彼にとっても必要なこと。だから、親切にしてくれる。

 私たちが困らないように、一定の距離を保ちながら。

 そのやり方は、とても自然で巧妙に感じる。

 気軽に声をかけてくれた引っ越しの手伝いもそう。それに、


「咲とはゲームをやってたわよね」


「あはは。お兄ちゃん、弱いんだぁ。咲が全勝しちゃったよね。えへへ」


「ふふふ」


 陸斗くんがゲームに負ける……。本当にそうかな?


「凛華はどう思う?」


「どうでもいいってのそんなの。あの時は咲が楽しそうだったからさ。まぁ、それだけよ」


「そっか……」


 彼はゲームに精通している。

 あの趣味一色の部屋がそれを表している。

 そういった拘りのある人間が、小学生相手にゲームで負けるだろうか?

 咲がゲーマーならいざ知らず。あんな高価なゲーム機はうちにはなかった。

 咲は友達の家で少しばかりプレイしたくらい。

 そんな彼女と戦って負けるはずがない。

 だからきっと……。

 

「陸斗くんはわざと負けたんだと思う」


「えーー!? じゃあ咲にわざと負けてたのぉ?」


 あ、しまった……。凛華に言ったつもりだったんだけど。

 流石に子供には酷な話よね。

 それに、もしもそうなら、彼の努力を無駄にすることになる。


「うーーんと。咲は実力で勝利を掴んでいたわよね。お姉ちゃんにはわかるわ。うんうん」


「で、でしょう? お兄ちゃん、わざと負けたんじゃないよね?」


「そ、そうね。咲が強いから勝っていたわね」


「でしょでしょ! 咲は強いもん。えへへ。あ、でもね。お兄ちゃんも中々強かったよね」


 凛華はどう思っているんだろう?


 私は、咲がトイレに行った隙に彼女の気持ちを聞くことにした。


「ねぇ。咲とやってたゲームだけどさ。もしも、彼が本気じゃなかったら、なんて考えない?」


「何を考えるの?」


「彼がしている努力の話よ」


「はぁ〜〜? キモオタが何を努力してるってのよぉ?」


「だって……。咲とゲームをしたのだって、自分が楽しむためじゃなかったと思うのよ」


「キモオタだもん。ゲームが生き甲斐なんだって! 大方、ゲーム相手が見つかって喜んでいるわよ。ああ、気持ち悪い」


 ゲームが生き甲斐……。


「だったら勝ちにいくわよね?」


「それがアイツの実力なんじゃない? 小学生に負けるヘボゲーマーよ」


「全部の試合を負けていたわ。拮抗していても、絶対に最後は負けていた。だからきっと、彼は勝ちを譲ってくれていたと思うの」


「なんでそんなことをする必要があるのさ?」


「咲と仲良くなるためよ」


「ええ? そんなことを? ゲームって自分が楽しむもんじゃないの?」


「彼流のコミュニケーションよ。負けるより、勝った方が気持ちがいいもの」


「……そりゃあ、まぁ、そうだけどさ」


「それに、私たちに部屋を見せてくれたわ」


「ふん。キモい部屋だったけどね」


「あなたには罵倒されまくってたけどね。彼はあなたを部屋に招き入れた」


「何が言いたいのよ?」


「自己開示よ。きっと、私たちと仲良くなりたいんだと思う。勿論、あなたともね」


「……ふん。あたしはそうは思わないわね。あんなダッサイ奴。視界にも入れたくないっての」


 ダサい……か。

 うーーん。


「髪型とかさ。ボッサボサだし。ありえないっての」


 髪型……。

 あ、そうだ。


 と、そこに咲が帰ってくる。


 丁度良い。


「明日は休みだし。陸斗くんの散髪をしてみようか!」


「はぁ?」

「わは♡ 咲は賛成! お兄ちゃんボサボサだしね。 彩弥音あやねちゃんが切るんでしょ?」


「勿論」


 私は、この子たちの髪の毛を切ってきた。

 男の子は初めてだけど、きっと上手くできるはずだ。


「引越しを手伝ってくれたしね。そのお礼をしなくちゃ」


「あはは♡ きっとお兄ちゃん、喜ぶと思うよ!」

「ええ〜〜。あたしは手伝ってもらってないんだけどぉ?」

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