第7話 チャンスタイム突入


 俺は3人の義妹たちと仲良くなりたいと思っている。

 

 その目標値は♡+20(好き)だ。


 この数値には理由がある。

 好きの段階には特性があるからだ。

 まずはプラスの全段階を見てみよう。




プラスの場合。


0〜30 好き。

31〜50 大好き。

51〜80 恋人になりたい。

81〜100 結婚したい。




 例えば、+20を取得した場合。

 そこから安定期に入る。

 その名の如く、安定期とは好きな気持ちが安定する時期のこと。


 友達や家族で経験はないだろうか。

 喧嘩しても嫌いになれない現象。

 表面上は嫌い、となっていても深層心理では好きである状態。

 言わば、それが【安定期】なのだ。

 勿論、安定期だろうと、重度の失望を重ねればポイントは下がる。

 ただ下がり難いというだけだ。


 段階のおよそ中間値以上から安定期に入る。

 【好き】の段階なら40以上が安定期だ。

 【恋人になりたい】の段階なら70以上。

 

 安定期に入れば、些細な喧嘩で嫌われたりはしない。

 よって、目標を+20に固定しているんだよな。

 因みに、この安定期の特性はプラスにしか存在しない。

 マイナスに安定期はないんだよな。

 つまり、好きって気持ちは固定されても嫌いって気持ちは流動的なんだ。


 考えれば当たり前か。

 この世の中は嫌いな人より好きな人で成り立っている。

 嫌いな気持ちに固定値があれば、たちまち戦争に発展しかねないよな。

 

 そんなわけで、俺の目標は+20だ。

 この数値なら安定期だしな。かなり良好な関係といえるだろう。


 今日は、3人の可愛い義妹たちが継母とともに引っ越しをしてくる日。


 さぁ、手伝って数値を上げるぞぉ。


 家の前には10tトラックが横付けされて、たくさんの荷物が運び込まれる。


 ほとんど、業者がやってくれることなのだが、先に開けたい荷物などは自分たちで運ぶ。


 咲は中位のダンボールを運んでいた。


「うんしょ、うんしょ」


 随分と重そうだな。


 彼女たちの部屋は3階だ。

 階段を登るだけでも大変だよな。


「持ってやるよ。貸してみ」


「え? ああ……、ありがと」


 ふむ。ずっしりと重い。

 このダンボールから受ける感触は、本だな。


「咲の部屋に持っていったらいいんだろ?」


「うん」


「咲は軽い物持っていけよ」


「うん。じゃあこれにする」


 段ボールからはぬいぐるみが顔を出していた。


「へへへ。楽ちん♡」


 ふむ。あれなら軽いか。

 しかし、本を自分で運ぶなんて気になるな。


「これ、漫画だろ?」


「え? なんでわかったの?」


「ふふふ。俺はバイト先で漫画を扱っているからね。ダンボールの感触だけでもなんとなくわかるんだ」


「へぇ。お兄ちゃんって凄いんだね」


「別に大した事じゃないよ」


「そんなことないよ。大きい荷物は軽々と持っちゃうし、中身がわかっちゃうしね。凄いよ」


「……ははは」


 流石は小学生だな。


「でも、どうして漫画だって思ったの? 小説とか、教科書の可能性もあるよ?」


「それ大事にしてるのかい? 小説とか教科書とかさ?」


「……あ。えへへ。してないかも」


「だろ」


「そういうのでわかるのか……。考察凄いな……」


 と、呟いてから笑う。


「えへへ。咲ね、少女漫画が好きなの」


「へぇ」


 範囲外だな。

 しかし、バイトで中古の漫画本を扱っているからな。

 タイトルくらいならほぼ網羅している。


「でもね。少年漫画も好きだよ! お兄ちゃんの部屋に一杯あったよね! ビックリしちゃった!」


「貸してやろうか?」


「本当! 嬉しい!!」


「ああ、いいよ」


「あ、じゃあじゃあ、咲の漫画も貸してあげよっか?」


「うーーん」


 あ……。なんかキラキラした目でこっち見てる……。

 しかし、少女漫画は守備範囲外なんだがな……。


 などと思っていると、軽快なポップ音が聞こえてきた。


キラキラキラーーーーン♪


 こ、これは……。もしかして……?


 咲の♡マークが七色に輝く。


 う!

 チャンスタイム突入だ!


 これは10以上のポイントが入る可能性がある時にだけ出現する演出。

 勿論、彼女には音は聞こえていないし、光は見えていない。

 俺にだけ認識できる状況だ。


 つまり、今、この時の選択肢が運命を分けると言っていい。


 少女漫画を借りるのか?

 それとも借りないのか?


 答えは簡単だよな!

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