サンタクロースを見たあとに
その日。
買い物に出ていた千草が、卯月を連れて戻ってきたのを、境内にいた何人かの神使は見届けていた。
境内の掃除をしている神主・野々宮
「……あなた、意外と笑い上戸だったのですね」
「あれは……笑うなと、言うほうが――」
月葉神社の鳥居前で音楽に合わせて踊っていた、二人のサンタクロース。もとい、サンタクロースの扮装をした、月葉神社神主の
その珍妙な光景を思い出したらしく、笑いをこらえるあまり肩を震わせていた卯月が、ついに声を殺しつつも笑いくずれた。
「なんだか聞かない声だけど、誰か来てるのかい?」
それが聞こえたらしい朱華が顔を出し、ころころと鈴のような声を立てて笑い転げているのを目の当たりにして、文字通り目を点にした。
「……どうしたんだい?」
「実は――」
呆れ顔の千草から話を聞いて、朱華も呆気にとられた顔になる。卯月がその間もころころと笑っていたのは言うまでもない。
「――なるほどねえ」
事情を呑みこんで、ようやく朱華がなんとも言えない顔でうなずく。どうにか笑いおさめた卯月も、座り直して目元を拭う。
「あの人、もともと真面目一辺倒ってわけじゃなかったけど……何というか、でもあの人らしいというか……」
「それは、そうなんですけれども……あれは……。まあ、そういう方ですから、樂のことも話せたのですけれど。樂が妖だと聞いて、それをあっさり受け入れたの、あの方が初めてでしたね。厭うというよりむしろ興味津々といった様子でしたし」
「それにしても、あんたがあんなに笑ったのは初めて見たね。昔はちっとも笑わなかったじゃないか」
「笑うようなことはない、と思っていましたからね、先々代は」
またこみあげてきた笑いの発作をどうにか抑え、卯月は淹れられた茶を飲む。
「来年は、意外と三人に増えてるかもね、サンタ」
「……流石にそれはないでしょう。ないと思いたいです」
いたずらっぽく冗談を言う朱華に、心底呆れかえった様子で千草が返す。
その横で、どうやらサンタクロース姿の神官三人を想像したらしい卯月は、飲みかけた茶にむせかえり、声もなく笑いこけていた。
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