空き巣犯
空き巣犯の事情聴取は10月17日に回された。
署長から朝の電話で空き巣犯が捕まったと言ったため即座にアパートを出て警察署に着いたのが8時ジャストになっていた。
山根と私は1つ驚いた事がある。ドラマや小説などのミステリーでは警察に捕まったら犯人は罪から逃れようとするのだが、今回捕まえた空き巣犯は案外あっさりと自分が空き巣だと自供したらしい。
取調室では刑事と空き巣犯が対面しており、何故か空き巣犯が丸めた紙のように泣きじゃくっているが決して刑事が何かしたのではなく、話しだした途端涙をボロボロ出し始めたらしい。
その状況に割り込んで来たのはあの山根であった。取調室を見た途端戸惑いがあったが
「驚かせてすみません。何故か急に泣き出してしまって、、、、決して私は何もしてませんから。」
「そうなんですか。」
山根は空き巣犯の視線に合わせて
「どうしたのですか?落ち着いてからでいいので、まずあなたの名前から」
「僕の名前は橋山三平です。」
「どうして泣いているのですか?」
三平はゆっくりと山根の顔を見たがすぐに大泣きをし始めた。
「こんなことになるなんて思っていなかったんです。」
「どういうことですか?」
「やらなければ僕は死ぬしか選択肢がありませんでした。」
山根と刑事は戸惑いを互いに隠せなかった。
「もっと話を詳しく聞かせてくれないか?」
三平は歯切れのように口を動かしながら
「実は僕に兄がいまして、その兄に、、、、」
橋山三平は兄と一緒に早苗さんと同じy地区のアパートと同居生活をしている仲良し兄弟だが、それは外見のことであって中身はそれとは真反対の兄弟である。弟である三平は大人しく誰でも優しく接するが、兄の式森は人前だと優しく弟思いの兄だと思われているが、弟と二人になると関係が王と家来のようになり、兄に逆らうと暴行されるという哀れな兄弟である。
ある日兄の式森が突然空き巣をするように弟に命じたらしい。流石に手を出してはいけない領域なので反対をしたが腕を煙草で焼かれてたので、抵抗の棒が折れて空き巣をすることになった。のが罪を犯した理由であった。
「それなら10月15日にあなたが入った日暮さんの家を知っていますよね。」
しかし返ってきたのは山根でも刑事でも思いもよらなかった。
「いえ、それは兄の方だと思います。私はその日は山口っていう人の家に入りましたし、私が家を出るとき兄も何故か出てましたので、もしかすると思っていたんです。兄がどうかしましたか?」
山根はそっぽを向いて真剣な顔で考え始めた。これはとても危険な状況に陥っていると気が付いたのだ。彼の供述が本当だとすると、我々は最も肝心な重要参考人かつ空き巣犯を逃したままで、もしかすると殺人事件がまた発生する可能性がある。
「1つ聞きたいのだが君の兄は家にいるのかい?」
「兄なら昨日の夜に出て行ったままです。」
突然山根に衝撃が走ったのを、彼は敏感に感じた。
「君、お兄さんが何処行ったか心当たりあるかい?」
「分かりませんが、出掛ける際にあなたと同じ事を聞いたんです。そしたら金蔓ができた、これで俺は億万長者だと言っていました。」
それを聞いた途端山根は取調室を燕のように飛び出して行った。受付の職員に
「あの、、、、署長室はどこにありますか?」
「署長室なら、、、、」
「ありがとう。」
職員は山根がバタバタと階段を駆け上がっているのが強く印象に残った。
その頃署長は爪研ぎで爪を磨いていたが強い扉の開放にびっくりして爪研ぎを爪から放した。
「どうしたんだね山根さん、そんなに慌てて。」
山根はつばを飲んで
「署長さん、大変な事になりました。昨日捕まえた空き巣犯は早苗さんの家に入っていませんでした。入っていたのはその方の兄だったんです。その兄は今昨日の夜にアパートを出たっきり帰って来てないらしいんですよ。」
するとまた扉がバンッとなったと思ったら一人の刑事が息を切らしながら入ってきた。
「署長大変です。またY地区で殺人事件が、しかも被害者は今取り調べ中の橋山三平の兄、橋山式森です。」
それを聞いた二人は互いの顔を見合わせた。
「場所は?」
「隣のx区にある工事現場です。」
「山根さん、もしかして」
二人と知らせに来た刑事は慌ててx区の工事現場に走った。そこは盛大な土地に大型の建物がズッシリと、私達を上から見下ろしているようだったが装飾はされておらず、ただのコンクリートの壁でおそらく6階建てだろう。その周りを野次馬が飛び交っていてパトカーが現場に入るのが苦難であった。
「どうぞこちらです。」
二人が入ったのは一階の部分で中はコンクリートの大広間があり、壁や床を鑑識が検出刷毛やピンセットを使って這いつくばっている。
大広間の奥には大柄な男がうつ伏せに倒れていて、腹の辺りは血溜まりになっていた。
「死因は背後からナイフのようなものでひと突き、後頭部には傷がありましたがそんなには酷くありません。あとは解剖してからです」
山根は死体の周りを一周しながらしゃがんだり、体を前のめりしたりした。
「署長さんとそれと、、、、」
「質口です。」
「質口さん、これをご覧なさい。刺された場所の出血は酷いものですが頭の方はそんなには出ていない。もしかすると何処かで傷を負ったがそのままここに来たんだと思います。何故ってここには争った形跡が全く無いのですから。」
「しかし一体誰が?」
山根はまた下唇を強く噛んでいた時、
「そういや山根さん、早苗さんの家で発見された血なんですが鑑定の結果B型だったそうですが、日暮家の人達に早苗さんのも含めて血液型を聞いたんです。それで驚きました。誰一人B型の人はいませんでしたよ。この事件は簡単そうで難しいですな」
頭を抱える署長を曇りという暗黒の空を羽ばたく鴉の鳴き声と壁の穴を通る隙間風が嘲笑うかのように現場を包んでいく。
「署長さん、この前あなたに日暮龍都の会社に知り合いがいると言いましたよね。何か情報が得られないかと思いまして、その知り合いに日暮龍都を尾行させていて昨日も同様にさせていました。それで返ってきた返事は別に怪しい様子はなく、いつも通りでしたそうですし、その日は会社にとって大事な日だったそうで、日暮龍都は朝から晩まで社長室に籠もっていたそうです。」
その後あとから来た刑事二人が橋山式森の死体を運んでいき、小鴨のように付いて行く二人は灰色の空を見る。
「悪い天気ですね。気味が悪い」
「署長さん、これから日暮龍都の家に行きますが誰にも言わないでください。」
署長は不思議そうにしていたが
「今時分龍都さんはいませんよ。」
するとニヤリとしながら
「それがいいんです。」
署長はおでこに皺を寄せていたが
「分かりました。気を付けてくださいね。」
そうして山根は署長から指定された道を辿って日暮龍都の家へ、署長はパトカーで本署に戻ったのであった。
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