第12話 お父さん

◇◇◇




【晴明の十二天将】


●騰蛇(凶将) 五行 火(陰)

●朱雀(凶将) 五行 火(陽)

●六合(吉将) 五行 木(陰)

●勾陳(凶将) 五行 土(陽)

●青龍(吉将) 五行 木(陽)

●天一(吉将) 五行 土(陰)

●天后(吉将) 五行 水(陰)

●大陰(吉将) 五行 金(陰)

●玄武(凶将) 五行 水(陽)

●大裳(吉将) 五行 土(陰)

●白虎(凶将) 五行 金(陽)

●天空(凶将) 五行 土(陽)




「うわ…本当だ」



朱雀の文字を本の中から発見。


ついでに四神である、青龍・玄武・白虎を発見。


というか、それ以外知らない。全く知識にない。



ちなみに体は落ち着いたアカネに僕に返してもらっていて、元に戻っている。

結界内で寝そべりながら見ながら、アカネは疑問を投げかける。



“…青龍はおろか、白虎も?おかしくねーか?いくらなんでも…”



アカネがいまいましそうに眺めている本を指さすスズ。



「凶将、吉将というのは、いわゆる“あつかいにくさ”をさします。


私があてがわれてるのは凶将、ふざけんなです」



本をめくった僕を真剣そうにみるアカネ。それを不安そうに覗きこむスズ。


スズとしては、アカネに申し訳ないという感情が勝っているらしい。


アカネが怒ってるのは安倍晴明になのになあ。




“青龍…か。なーんか…?”



「アカネ?」


さっきからアカネは青龍が気になって仕方ないらしい。


吉将だからあつかいやすさはよかったんだろう。


補足みたいなのが下に書いてあり、読んでみる。



【青龍は、位や天、権力を司る神。春を制し、慈雨を招く】



龍神様とかいうもんね、そんな感じなのかな?



“こいつね、私たちのおじーちゃんなの”



「へぇ、おじーちゃん…」




おじーちゃん。




「うぇえええ!?」


この、見るからに偉そうなやつが!?


四神とか言ってるやつが!?



「てか、お前鳥だろ?おじーちゃんとか関係ないん…」



「アカネさま!そーいえばまだ柚螺に驪さまのことを告げてませんよ!」



スズが血相を変えて叫ぶ。


ああ、そういえば昨日教えてもらおうとして、宮下さんが現れちゃったんだよな。



“――スズ、あんたのことこんなに思ってくれてるお友達なんだから、信頼してやれよ”



「しかし…」



“柚螺ー、昨日お前お父さんにシロのこと吹き込まれたろー”



「げっ!!」



ば、バレてるよ驪さん!

ちゃんと隠し部屋で話したはずなのに!



“朝っぱらから辛気くさい顔してさ、バレないはずねーだろ。


ついでに、私を慰めろーとか言われたか?


残念〜、昨日鸞がシロの捜索の進行について教えてくれたので、もう色々開き直ってます!”


鸞さんは鸞さんで捜索を打ち切ったことを嘘だと教えていたらしい。


ああ…驪さんのお父さんとしての権威が、権威が……



嫌だこの娘、親の優しさ全部を蔑ろにしやがるなぁ。




「まさか…驪さまがそんな」



驪さんが僕に秘密を喋ったことが信じられないんだろう。



“あの人は馬鹿じゃねー。

人を見極める目に関しちゃ、とくに秀でてる。


あの人が信頼した。


それって、すごいことじゃん?”



「……」



く、と下唇を噛んで。


かと思えば、ため息をついた。



「に、人間がおこがましい…ふんっだ……」



顔を脹らませて、イライラを表現。


…が、ふふふっと愛らしく笑い始める。


僕が驪さんに信用されてるのが嬉しいらしい。うってかわった、柔和で子供らしい笑み。



王道なツンデレを見させられた。宮下さんいたら殺されちゃうな。




「驪さまの首につけているネックレス、柚螺気づいた?」



「あ…ああ、うん。水晶みたいなでっかいやつでしょ?」



小さい体躯に似合わない大きさのあれ。


紐というか綱で留められているあの玉、重そうだなあって思ってたんだ。






「あれを手にしたものは、幸せになれるんだって」






うわあ、よくある占い商法みたい。



胡散臭さ丸出しに顔を歪めた僕に、むっとスズは顔を曇らせる。


信じてないな?と睨みつけ、「本当なんだから!」と怒ってくる。



「聞けば、この世の全てを手にできる……とか」



「嘘くさ…」


“なー?”



アカネまでもが同意した。



“なんで私のお父さんが、そーんな大事なもの持ってるかっちゅーとだな”



寝そべりながらアカネが本を指すような仕草をする。



「これだ」


アカネの指先には、



【青龍】



の文字があった。





“私のお父さんは龍で……水の神様で……あー、やだやだ!どっから話せばいいのかわかんねー!私説明嫌いだかんなあ”



「苑雛さまでも呼びます?」



“んー…”



アカネが考えあぐねてる。


「…苑雛くん今保育園だろ?大丈夫なの?」


「ああ、身代わりでも置いていくるでしょ、あの方のことだし」


…み、身代わり?


謎の単語に思考をめぐらせていると、パンパンとスズが手を鳴らした。




「宮下のおじさまーっ」




「はいはいはいはいスズちゅわぁああんっ」



バサッとどこからともなく宮下さんが飛んでくる。


黒い大きな翼が、屋上に着地した。



「えぇええ!?ぐ、宮下さんまさか」



「この人、ずぅっとフェンスに烏のふりして止まってたの」



ストーカー!ストーカーだよ宮下さん!



「スズちゃんが泣いてたのたまたま見かけてね、わしすっごく心配で……でも、この人間(※アカネが乗っ取ってます体)とお取り込み中だったから空気読んだんでちゅよぉー」



「きも…じゃなくて、どうでもいいわボケ…じゃなくて、お願いがあるの」


中々罵倒が止まらないスズだが、ロリをこれでもかと使ってオネダリする。



「苑雛さまをつれてくりゃーいいんじゃろ!?」



命令が嬉しくてたまらないらしい宮下さんが、天狗の威厳無視して頬を赤に染める。


スズちゃんのためならひとっとび!と屋上から真っ逆さまに落ちていく。



「……スズ」



「あーゆーのは活用しなくちゃね」



悪女になっていくツンデレロリ。


まっすぐ育つことは…ないだろうな。



悲しくなってきた僕は、開けたまんまの弁当箱に箸をつける。



冷凍食品であるホウレン草の胡麻和えをスズが物欲しそうにしてたので、軽く餌付け。



「お、おいしい…誉めてつかわす!」



あむあむとほっぺに胡麻をつけながら満面の笑み。


小さい子が嬉しそうな顔してるのは可愛いよね、やっぱり。



「次なにがほしい?」


「このタコさんタコさんっ」



タコさんウインナーを所望した。

箸でつまんで、スズの口元に持っていく。


「タコさん…!」


おいしいらしく、目が純粋に輝いていた。




「うがああああああ」



「わあっ!仲良しさんだね」




…突如、上空からそんな声が聞こえる。


言うまでもない、宮下さんと苑雛くんだ。

帰ってくんの早すぎだろ!


「早いですね宮下さん」

「おのれ人間……!スズちゃんの胃袋を掴むとは!」


わあ。ライバル視されてる。面倒だなあ。



バッサバッサと黒い翼を屋上に着地させる宮下さんの腕には、小さい小さい苑雛くんが。



なぜかパジャマ姿で、さらさらと金髪がなびいてる。



宮下さんは「えぐっ…えぐっ」と鼻水と涙をだらだらと放出させていてきちゃない。



「苑雛くんっ」


「あ、おねーさ…や、おにーさん!」



苑雛くんいまはニョタ化してないよ…



優しく宮下さんに下ろしてもらい、パタパタと僕に抱きついてきた。


ぎゅうっと体温が伝わる。


やばい何このかわいい生き物。僕って子供好きなのかしら。



「アカネとスズが無理矢理呼んじゃって…保育園大丈夫?」


「大丈夫だよ!アカネの勝手さはもう慣れてるし、身代わり置いてきたから!」



にっこりと、人好きのする笑みをする。

えっと……さっきから言ってる身代わりってなんですか?



“なんだとこのくそガキがぁあああ”とか怒るアカネは無視する。


「身代わり?それスズも言ってたけど」


「僕の能力は“頭”でしょ?その能力はね、鳳凰の体を自由にできるってゆーのがあるのを知ってる?」


「ああ…だから僕、体が」



ゆーちゃんの体を作った、否、いじくったのは苑雛くんだ。


また、スズを雀から人間にしたのは苑雛くんと聞く(アカネとスズは繋がってるので、鳳凰と同一視→弄ることが可能だと推測)



「その他に、もうひとつあるの」


人差し指を立てて、どこか先生みたいに。




「ネックレスから、もうひとり“僕”が現れる」




「僕?」



「僕の能力は頭。

だから、頭がよくて行動力のある“僕”がネックレスの中から出てくるんだ。


ちなみにその“僕”に感情はない。


あるのはプログラミングされた事を実行するという使命と、的確な判断能力をする頭だけ。


まあそれは奥の手で、強制執行しなくちゃならないときとかに使うんだ。


普段はこうやって僕の行動をプログラミングして身代わりにしたりして使ってる」



例えば。


ものすごい事件が起きて、アカネや苑雛くんらが嫌だと思うことをしなくちゃ助からない、というとき。


そういう時に強制執行は使うのだ。


普段はただのお人形。


だけど、強制執行を押せば、苑雛くん2号は敵(感情的に)にも味方(結果論的に)にもなってしまう。



鳳凰の能力って変わってるなあ…



「ネックレスの特性はそれぞれ違うんだ。僕は身代わりだけど、アカネは貿易。ネックレスからアカネと契約したお友達が召喚できる。黒庵は武器が出てくる。我が主は5人全員をひとつにすることが出来る」



「へえ……」


アカネのこのネックレスにそんな力があったとは。



「だから心配は無用だよ!」



明るく笑う苑雛くんの頭を撫でてやる。


金髪が美しく照らされた。

鳳凰って髪の毛綺麗だよね。



「苑雛さま、あの、驪さまについて語って頂きたいのですが」



「まったくもぉ…アカネが話半分にしか聞いてないから」


“だって長ぇんだもーん”


あ、アカネ聞いてないんだ。


“難しすぎて覚えらんねー”


「黒庵もそう言ってた!似た者夫婦が!」



あっ、と。


口を抑える苑雛くん。



禁句を口にした、というように、気まずそうに顔。



「あ…ぅ」


“バーカ、気にしねーよ”



にやりとした笑いを含んだアカネの声が聞こえた。



“鸞にも言っとけ、大丈夫だってよ”


「…うん、ごめん」



…鸞さんに、きっと苑雛くんは言われたんだ。



黒庵さんについては口にするな、と。


アカネはそれを見越してる。



傷ついたアカネを守る優しい気遣いに、鸞さんはリーダーなんだなぁと思わされた。



「じゃあ、説明するね。

どこまでおね…おにーさんは知ってるのかな」


慣れて、苑雛くん。

僕本当はおにーさんの方だから。


「驪さんが龍ってことまで。あ、あと青龍がおじーちゃんだって、アカネが」


「…アカネ、またそうやっていい加減に教えて。説明不足も甚だしいよ」


“うわーんっ苑雛が怒るー”



全然びびってない、むしろなめてる態度のアカネだった。




「じゃあちゃんと話をしようか。



━━━━この世界に一番最初に生まれたのは誰?



そう言われて答えられる人はいない。


なぜなら、見たことがないから。

この世界のはじめを、だあれも。


見たとしても自我がない。



気がついたら、の表現さ。


例えばおにーさんは生まれたときの事を覚えてる?


そんなわけないでしょ?


我々はいつも“いつのまにか”いて、いるのが当たり前なんだ。




青龍という龍がそれさ。




はじめを知らない。

誰も、彼が生まれた現場を見ていない。


ただ、気がついたらいたんだ。


自然の摂理があって、それによって生まれたのかもしれない。


また、彼よりもっと上の神様がいて、その人が彼を生んだのかもしれない。



とにもかくにも、彼はいたんだ。



ときに『セイ』は『ソウ』と混合されるのを知ってる?


今はちがくとも昔はそうだったんだ。神様は言葉遊びが大好きだからね。



青龍のむかしの名は創龍。



創る龍と書くなんて、まさにそれらしい。





━━━そう、彼は最高神創龍。





しかも、人間のじゃない。


神々の最高神。



彼は、“信仰の神”だったんだ」




「信仰の神……」



「その名の通り色んな神話を作ることができる。これが僕らのおじーちゃんだよ」



苑雛くんは自分の胸に手を当てながら、そう言った。



「神は信仰によって在る。

信仰で存在を認められるんだ。


人間が信仰をしないと、乞わないと、神は存在できない。


そんな大事な“信仰”を制するのがおじーちゃん。


砕けて言えば、彼は“神話の神”


色々な神話を作って、その成り行きやらなんやらを見守ってきた。


たまに壊したりもした。



全ての神の神だったわけさ。




……龍が、全世界とまでは行かなくともかなりの確率で崇められているのを知ってる?

ドラゴンと言われたり、辰と言われたり。

また、蛇になったり羽が生えるなどの違う形状になったり。


それは神の神だからに他ならない。


それほど創龍は恐れおおい存在なんだ。


人間にはあまり知られてないよね。



なぜなら、神の神だから。



神が崇めるものだから。



人間のための神ではなく、神のための神。



…と、まあ、ちょっと理論的になっちゃったね、大丈夫?ついてこれてる?」


目の前でひょこっと顔をのぞきこんでくる。大丈夫、パンク寸前だけど何とかわかる。



「あるとき、彼はわかった、神話にはある一定の法則があることを。


それはね、初代の最高神は必ず破られるということさ。



それも多くが罪人によってね。

大抵が親殺しという罪を負って最高神を倒す。


そこから神代の時代、または人間の時代が開ける。



高みにのぼった、一歩上の神話になる……



それがわかった彼は、自分に足りないものがあることを知った。


彼も最高神という神。


自分自体も神話であって、それならばそれに乗っ取ったことをしなくちゃならない。



創龍はあまりにも高すぎて、彼を倒しそうなものはいなかったのさ。



だから彼は子供を作った。



いつか自分を越して、一歩上の世界にしてくれるように祈りながら」



指を4本立てて、苑雛くんはどこか得意げに語った。


「四。

これは創龍が生んだ子供の数さ。


なにも性交して生むわけじゃない。


神様は、髪の毛とか、血とか、足とか……そういう体のいちぶから生むことが可能なんだ。



赤、黄、白、黒



自分が作った、陰陽五行説に乗っ取った色と数字。


青は創龍が担当すると見てほしい。


子供は当然、龍の子だから龍さ。


次の頂上に立たすのはやっぱり龍じゃなくちゃ、なんというか、ほら面子が立たないじゃない?



創龍は待ち望んだ。



早く自分を越えるような龍になれ、と。


この家族は五竜と呼ばれ、人間にも崇められた。




赤は向上心に長けた炎の神に、


黄は万物を育てる土の神に、


白は時を意味する金の神に、


黒は平和を愛する水の神に。



もうわかるよね?この黒がお父さんだよ」

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