第4話 突如女体化!?


◇◇◇



ゆっくりと下山し、紅太と厘介とは夕方までには別れたあとのこと。



夜道には気を付けろよ的な展開を予想していた僕は、何事もなく帰路につけてかなり安心した。



神様危険、思ったより。




僕は母さんからのメールに従って、近所のスーパーでお買い物中だ。



タイムセールを一日千秋の思いで心まちにしてるおばちゃんや、訳ありの哀愁漂う背中をお持ちの、インスタントだらけなサラリーマン。



そんなよくある光景に馴染まないのが




「ひぃいい!や、焼き鳥っ!」




スズだ。



浮世離れした中華ロリの小学生は、お惣菜コーナーの焼き鳥に本気でビビってる。



そんなスズを好奇な目でちらちらと視線が追う。



なんだかいたたまれないなぁ。



「スズ」

「なんだ人間」



ウルトラマンのポーズで威嚇されながら会話を進める。



「騒ぐのをやめなさい」



呆然と俺を見て。



今度はくるくると周りを見、自分の奇行に気がついたようだ。



「ご、ごめん…人間…」



やけに子供っぽく、不安げに謝られた。



「でも鶏肉とかみるとやっぱりいやになっとゃって」



『郷に入っては郷に従え。今はこいつの世界がルールだろー?逆に従わないとあぶねーじゃん』



「危ない…?」



『下手に目立って悪神とかに目ぇつけられたらどーすんの』



「あ…」



「たしかに、僕またああいうのと戦いたくないよ」



バレたらまたあの変なのが出てくるわけか。

それはちょっと避けたいなぁ



「……」



唇を噛んで、今にも泣きそうだ。



「ごめんなさい…アカネさまぁ……


スズ、ワガママでした…アカネさまの安全第一なのに…うわぁああんっ」



まさに幼く、わんわん泣いた。



「…アカネ」



『あいつは精神がおさねーんだ。私の一部だとしても、だ。それはやはり世界を知らないからで…』



「いやそーゆーのじゃなくて。

…すごい目立ってるんだけど」



今度は泣き出した中華ロリ女児に、まわりはお構いなしに反応してた。



ガン見。めっちゃ見てるんだけど。

「ヤダ小さい子泣かせて……」 などマダムの囁き声も聞こえる。僕もうこのスーパー来れない。


『…わり、苦労かけるよ』

「はぁ…」



苦労かけるよって言われてもなあ。

その一言だけじゃ割に合わないレベルの苦労を背負わされてる気がするのだが。


とりあえずこの子を何とかしなくちゃ、とお菓子コーナーに連れていったら大喜びしたので、気がついたらすっかり泣き止んでいた。


お菓子はひとつまでと言ったのに3つも買いやがった。アカネさん、お子さんの教育方針見直した方がいいんじゃないですかね?



帰宅し、自室の隣の部屋をノックする。


可愛らしく『みかんの部屋』とプレートがかかっていて、今にもル〜♪とあの音楽が流れてきそうだ。


蜜柑――妹は中学2年生。


スポーツはできるわ勉強はできるわで、兄としては自慢の妹。


なにやらアニメのカードの入ったウエハースを10個頼まれており、スーパーで調達したのだけど。



「何?なんのよう?キモいからドアさわんな」


……。

くりくりしたかわいい目を狐みたいに細めた彼女が蜜柑だ。


見た目はスズより大きめで、綺麗より可愛い感じ。


服もよくわかんないけど胸元がら空きな太もも丸出しので、最近の中学2年生の発達の良さを憂いた。


「あのさ、蜜柑。お前の言ってたウエハース買ってきたぞ」


単刀直入に要件を伝えた。

ふうん、とウエハースを確認して。



「この変態ミンチになって世間に詫びろぉおおおおっ!!!!!」



美しい蹴りが飛んできて、僕の鼻に見事にフィットした。


「ぐはぁおっ!」


廊下の壁にガンッと頭を打って、へなへなと座り込む。


フンッと仁王立ちした蜜柑が、腕を組んで鼻血をつう、と流した僕を見下ろした。



「全然違うウエハースじゃん!何回も言ったよね!?!ラグビーの王子様のだって!これ野球漫画なんですけど!」


とんでもない間違いをしてしまったぞ。兄ちゃんそういうの全部絵柄一緒に見えるんだよ…。


「ご、ごめ、わざとじゃ」


「頭悪いんじゃないの!?きしょいきもい汚いっ!」


“き”トリプル罵倒がきた。


「ショタ顔で男の娘な兄ちゃんだから許してあげてもいいけど、なんかしてもらわないとな…。

でネコ耳メイド服着てもらうとか?ううん、お兄ちゃんにそんだけの罰なんて足りない!


男名義で出会い系してもらうとか?」



「お前いい加減BLから抜け出してくれ!」



「うるさい!兄さんにBLの価値がわかるの…いや、わかって!」



そう言って一回部屋にくるりと戻って、ドサドサと本を俺の目の前に落とした。



「秘蔵コレクションだから!許して欲しかったら読んで感想と彼氏を連れてきたらあげる!」


バルスよりも恐ろしい呪詛を叩きつけて、部屋の扉をバタンと乱暴に閉めた。



つう、と生暖かい鼻血がまだまだ垂れるのを感じていく僕。


『…お前の妹…腐ってんのか?』


「絶賛反抗期&腐中」


『なんてゆーか…まぁドンマイ、だな』


「これ読まなきゃダメなの…?」


『……頑張れ』


「助けて、アカネ!助けてよ!神様的な力で!」





「…何やってんの、兄さん…」




なぜかドアから顔を出した蜜柑が、汚い未確認生物を見る目で俺を見ていた。



「神様的な、力…」


「誤解だ!断じて廚二病な訳じゃ…」


「うん、いいよ。どんな兄さんでも受け入れるネコはきっといるから…うん、いいよ。うん。はいこれ…」


悲しそうな顔をして、もう一冊薔薇がいっぱいな漫画を落とした。


前々から壊れかけてた蜜柑との交流が、今はっきりと壊れた気がした。





それから僕は、約二時間ほど読書にいそしむことになった。


薔薇やお花に包まれた美男子がキャッキャ☆ウフフと戯れ。


R規制を免れたのが不思議なぐらいのシーンがたっぷりで。


「うぅ…」


吐き気と涙を誘うのは十分だった。


「ファンタジーだよぉ…男同士でこんなんなんてまずないよぉ…」


いやまてよ、可愛いめの顔をしてる僕は危ないと言われた…実際に危険はすぐそこまで迫ってるのかも…。


一冊を読み終わるのにすごい時間を要したのは言うまでもない。


残った7冊の本をどうしたものか。



「…感想…」



書いて提出とは。学校じゃないんだから。


読むだけなら誤魔化せるけど、感想を書くとなると読まなくちゃならない。


辛いが、新たな本に手を伸ばそうとして。




『あたしな、救いたいヤツがいるんだよ』



アカネの声がした。



『巻き込んじまったからには知ってて欲しい。ちょっと話してもいーか?』



「構わないけど…」



神妙な声に、真面目な話なのだとどくりと心臓がざわめいた。




『玉藻前っていう、国を傾ける妖怪がいるんだ。知ってるか?』




「ああ、よくゲームのキャラになってる…」


『そうなんだ。有名なんだな、あいつ…。


玉藻前は妖狐で、国を揺るがす悪いやつとして描かれてることが多いだろ』


「僕そういうゲームしないからわかんないや」


『そっか。ならいいんだ。予備知識はない方が受け入れやすい。


あの子は、決して国を滅ぼそうとしてるわけじゃないんだ。


吉兆時に現れて、国を豊かにしようとして、何故か良くない方に行ってしまうだけなんだ』


不器用ってことかな?



『証拠に私たちと同時期に出てくるんだ。最初は私たちの敵かと思ったんだが…話してみて、全然違かった』



アカネは、いつもよりテンションが低かった。



「…友達なの?」


『ああ。私はタマが大好きだ。親友なんだよ』


遠い目をしながら、本当に愛おしそうに語った。


『変な子で、上から目線で、だけど悲しい目をした、とても綺麗な子なの』




躊躇わず、真っ直ぐに。


『だから私は、あいつが退治されそうになった時に迷わず助けた。


玉藻前は、陰陽師っていう妖怪退治専門みたいなやつに追われて、慌てて石に隠れたんだ。


それも容赦なく破邪の剣で砕かれ、日本中に飛び散った。


一番大きな石を手にした人に、それは大事なものでいつか復活するのに必要だから、守ってくれって言ったんだ。


それで街を豊かにし、その一族がつつがなく暮らせるように保護の術をかけて、私は力つきた』




アカネは人を守ろうとして霊力を使い切ったのか。




『私だけじゃない、だありんも、スズだって巻き込んだ。本当はもっと大きいんだ、あいつ』


悲しそうな声で絞り出すから、切なくなってしまった。


大事なお友達を助けたい、けれど周りを巻き込んでしまった。その自責の念はどれくらいだろう。



「アカネ、僕はアカネのしたこと間違ってないと思うよ」


いい人だったんだろ。じゃあ、間違いじゃない。


「だから…」

協力するし、復活したら玉藻前の復活も手伝うよ。



そう言おうとして、違和感を感じた。





伸ばした手が、震えてる。




ガクガクと寒くもないのに尋常じゃないほど、震えてる。


「なんだ…?」


『どうしたお前…!』




震えてる時点でおかしいのだが、もっとおかしい事実に気づいて――冷や汗がドバッと出た。



自覚が、感覚がなかったのだ。


震えているということに気がついてなかった。



試しに震えた手に触れてみる。




「(…きちんと感覚がある…)」




と、言うことは、自覚がないのは震えだけなのか。


「ひっ!」


驚いた。




今度は足も震えてるのだ。




カタカタカタカタ。



小刻みに、でも継続的に。


じきに体全部が震え出すのに、時間はかからなかった。


心臓がドクドクと変な音をたてる。


恐怖で鳥肌が止まらない。


なんだよこれ、なにがあったんだよ。


僕、こんなに震えて…死ぬのか?


あぁいやだ、百瀬にまだ、俺は…



「はぁ…はぁ…」



息が荒くなってきた。




恐怖のせいか、はたまたこの症状か。




わからないが、とにかく荒くなってきた。


ガチガチと歯が重なる音。


ダメだ、思考回路が働かない。


目が乾いてきた、閉じなきゃ。


ダメだ、思考回路が働かない。




あ、携帯がなってる――



ダメだ、思考回路が…




【百瀬縁】




百瀬とは僕の好きな人だ。


ディスプレイにその名が表示され、休みたがる思考回路を無理矢理働かせる。


百瀬のチャットだけは、みたい……


【約束の本、さっき読み終わったのm(__)m

だから、今日の夜待ち合わせして渡していいかな?

8時にミズクメ神社の前で。待ってるね!】



「く、そぉ…」


カタカタと震え続ける手で、頑張って返信を打つ。だめだ、誤字になりやすい。


でも、どうにかしてでも返信しなくちゃ。


ようやく文字が打て、そのまま俺は地に伏せる。


目が奥に吸い込まれるような意識の失い方をし、脳から意識をひっぺはがして――眠りについたのだった。






◇◇◇




ドンガラガッシャンという、日常に相応しくない異音が響いた。



「きゃぁあああっ!助け…助けてぇ!」



「何してんのお母さん!?なんで全身真っ白なの!?」



二階建てである我が家の下の階で、認識できない事態が起こってるのがわかった。


たぶんドジッ子設定の母さんが何か白いものをぶちまけて、それを蜜柑が心配してるんだろうな。


さて、そろそろ母さんを手伝いに行かなきゃ。


そう思って、今まで黒かった視界を開いた。

あれ?僕寝てたの?


いつのまに…あぁいや、確か具合が悪くなったんだよな。




…忘れてた?




気持ち悪いぐらいに一から物事を辿って、それでようやく



「…そっか、僕…震えて…」



震えて意識を手放して、それから… またもや、違和感。



「ヤバ、漫画全然読んでな…あれれ?」



声に違和感を感じた



「我ら〜が、宝珠の〜…えっ」



試しに、校歌のソプラノパートを歌ってみた。余裕に喉が通る。


と、いうことは。



「僕…声が、可愛くなってる…」





女の声になってるのだ。



「『い、いやぁ…感じてなんか、ないもぉ…んんっ』……」



試しに手近にあったBL本の、唯一の女とのシーンを読み上げてみた。


……尋常じゃない興奮を覚えた。



「な、なん…え?」


起き上がったときに、なんか肩が重くなかったか?



下を見てみると、なんだか異物が胸板についていた。



窮屈そうなそれは、Tシャツを押し上げ自己主張。


ふ、に。


触ってみると、フワフワないい感じ。


うわ、やわらかい、あったかい!


そして、指先の感覚が胸からあるってことは…



そこでようやく事態を認識し、さぁー…と一気に青ざめた。


ぐるぐると喉まで出た言葉を、解放してやる。



「ぎゃぁあああああっ!」




さっきの母さんに負けない声で叫んだ。


そして、フワフワと夢と希望に満ち溢れたそれを触り、震えだす。




「 僕…女に、なっ…ひぃっ」





頭を抱え、震えた。


いきなり女になるなんて、経験がないものだから恐ろしすぎた。



「なんで、僕、女に――っ」



そう。





僕は、なぜか大きな夢と希望を持つ、女の子になってしまったのだ。




急いで普段滅多に覗かない洗面所以外の部屋の鏡を覗く。



短い髪はなんとなく伸びていて、普通の女の子でもおかしくないぐらいの長さに。



肩幅はぎゅっと縮まって、華奢な守ってあげたい系女子に。



大きめな胸は、心臓に悪い。



顔はなんだか可愛らしくなっているような――





「…異常に可愛い」




クラスに一人いたら間違いなくアイドルになる。



やばい、本当に可愛い。


しばらく自分に見とれていると。




『わりーな、驚いたろ』





アカネの声が脳内で響いた。



「どういうこと?」



まあいきなりこんなになったし、アカネのせいだろうなーとは思ってた。



『一から話すと大変なんだけど…まあ、頑張ろっと』


「あ、随分可愛らしくなってますねぇアカネさま」




そんな声に気づくと、窓にスズが座っていた。



「誰?」




そして、スズの隣に、一人の男の子が座っていた。


ちょこんと、金髪の髪を揺らしながら窓に座る彼は、スズよりもずいぶん小さい。幼稚園児くらいだ。


黄色のくりくりした目に、目が合うとにこぉと笑う無邪気さ。



「こんにちわ、柚螺さん」



加えて、鈴を転がしたような可愛い声。



「かわいー!」



女になったせいで目覚めたのか、母性本能が疼いた。



『おま…女にかなり馴染んでねーか?拒否反応が思ったよりあったから、無理かなーって思ってたのに!』



拒否反応?



「さっきの震えのことだよ?」



よっ…と窓から降りた彼は、とてとて歩いて俺の前へ。



なぜかおでこに手を添え、目を閉じた。




「な、何してるのかな?」




「今おでこに通ってる霊脈を調べて、からだの中を調べてる………ん、大丈夫。


もう柚螺さんは立派に女の子だね」



いや、出産時みたいなこと言うなや。



「大丈夫じゃなあいっ!つか君誰!?」


なにが立派に、だ!



ただでさえ混乱してるのに認められちゃ、誰だって怒鳴るさ。




「あ、紹介がまだだった…うんと、僕の名前は苑雛エンスウ





ペコリと愛らしくお辞儀。


「我が主の命により、アカネの器を製造させてもらったの」



「我が主?て、ことは…アカネの家来かなにか?スズ的な?」



器とかの部分には触れず、我が主に着目した。



「ち、違うよ違う!僕はこんな野蛮で無計画な人に仕えてないよぅ!」



『しつれーだなガキんちょ!』



「そうです!苑雛さまはもうちょい礼儀を教えてもらうべきです!ランさまもアカネさまも、立派に同格の鳳凰なのですから!」



ペキョッ、と軽くチョップしたスズ。


お前もな、と言いたいのを飲み込んだ。



「痛いよぉ…」


「だ、大丈夫?」




頭を抑える苑雛くんを守るようにして抱き抱える。



「うぅ、僕本当のこと言っただけなのにぃ…」


「よしよし、野蛮な人は怖いねぇ。痛い?腫れちゃったかな?氷持ってこようか」


「ううん、大丈夫。へへ♪僕、おねーさん大好き…」



なぜか優しくしてあげたい気持ちがぷんぷん湧いてきて、めちゃくちゃにやさしくしてあげちゃう。

おねーさんかぁ、僕…


『女になってる!しかも私よりいい女に!』


アカネが中で発狂してた。


ちなみに僕僕言ってるけど、可愛らしい女声なので。

かなりいいおねーさん風に聞こえてるはずです。



「ちっ…苑雛さま、人間に訳を話してやってください」



スズ!舌打ち!



「人間じゃないよ、柚螺さんだよ、おねーさんだよぉ」


「可愛いっ!」


いじらしく言う彼が可愛くて、ぎゅっ!



「あのね、アカネって今体がない状態なの」


「うん、知ってるよ」



腕から解放してやると、少し寂しそうに離れた、可愛い。




「アカネは柚螺さんに人探しを頼んだでしょう?

その人はアカネの旦那さんなの。


でね、アカネが前に無理して死にかけたから、それを助けるために旦那さんも力を使って…不十分なまま発生しちゃったんだ」



「不十分?」



「ちゃんと体はあるよ。


でもどうやら僕たち鳳凰は、霊力を無くしちゃうと、欠点ができちゃうみたいなんだ。


あるときは肉体がなくなったり。


あるときは体が小さくなったり。


黒庵(コクアン)…旦那さんの場合は、記憶喪失、ね?」



『記憶喪失!?』



中でアカネが悲しそうな顔をしたのがわかった。

そりゃ、友達を助ける自分のために、旦那も体を犠牲にしたんだから、複雑だよな。



というか苑雛くんも体を犠牲にしたのか。体が小さいってことは。




「記憶喪失っていうけど、厳密には前世の記憶と存在の記憶がないだけなんだ。


だから彼は今、普通に人間として生きちゃってる。


自分が鳳凰ってことを忘れて、普通に。


鳳凰は復活したら皆に復活したよーって言わなきゃならないんだけど、彼は自分の存在事態忘れちゃってるから、それもしてないんだ。


鳥と話すことさえしてない。



だから、見つけるための情報がないんだ…」



「だから皆知らないって言ってたんだ」



鳥たちの会話を思い出す。



「おねーさん飲み込み早くて助かるな」


「苑雛くんの説明が上手だからわかるんだよ」


「えへへ♪」


『なにこいつら仲良くなってんの!?このムッツリ金髪!』


「アカネさま、苑雛さまはただいま子供なので、優しく接した方になつくのでは…?不服ですが」


心の狭い会話が聞こえた。


「話を続けるね



だから、僕たちは頑張って探さなきゃならないんだ。


アカネには今肉体がないでしょ?


肉体は霊力を入れる器としても使えたんだ。


今肉体がないアカネは、いくらご飯を食べても、霊力を入れても、全部落ちちゃう。


アカネはいないも同じなんだ。


最初に会った時、柚螺さんにアカネがいるように見えたのは、君がアカネの霊力に触れたから。


その後中に入れたのは、羽を食べる、すなわち肉体を貰ったから。


その儀式を行ったことで、柚螺さんはアカネの体の一部になったんだ。


だからアカネと会話もできるし、アカネを入れることもできる。


僕はアカネの兄弟みたいなものだし、スズは娘みたいなものだから会話できるんだけど」




話が繋がった。



鳥たちとアカネが会話できなかったのは、繋がってなかったから。



俺が最初アカネの姿が見えたのは、漏れた霊力に触れていたから。



『あんたが霊力を放ったせいで、チョー苦しかった』


それは本当にごめんなさい。



「もうひとつ。


アカネのネックレスは肉体が必要ないため、この世界の人たちにも見えるからね。


現存してるんだ。


アカネが今身に付けてるから、一般人には見えないけど、君が持つと見えるから気を付けてね」



なるほど。


このネックレスだけは、アカネから離れれば見えるのか。


紛らわしいことになってるなあ。



「あ、昼間なぜ鳥たちが来たかというと、鳥たちはただ単にスズが血相かかえて飛び出したから、ついていっただけなんだ」



なるほど。それなりにえらい立場の人が血相変えて飛び出したらついてもいくわな。



「ちなみに僕の立場を説明するね?」



俺から離れて、窓際へ。



月明かりを浴びて、どこか妖しい雰囲気になる。





「僕の名前は苑雛。




鳳凰の黄色を担当し、知識や情報を担当するいわば軍師だよ。



色々あって霊力がなくなって子供になっちゃったけど、前世の記憶は一応あるからね」




「鳳…凰……仲間って言ってたもんな、そっか」



「うんっ」



無邪気に子供っぽく頷いた。




「さっき、鳥さんたちに事態を聞いた我が主から命を受けたんだ。


助けてやってくれってね」



「主って誰?」


「鸞(ラン)さまって言って、鳳凰の青を担当する方だよ。とっても偉いんだ」



にこにこと得意気に笑って、




「僕の将来のお嫁さんだよ」




「ぶっふぅっ」


盛大に吹いた。


「苑雛く…お嫁さんなんて、まだ早いから!大きくなって本当に好きになった人と!」



「…むぅ。僕は子供じゃないよ。


体は子供だけど、存在は大人さ。


だから鸞さまと結婚するのは、前世から決まってる」




変な宗教みたいになってきたぞ。




「柚螺さんはアカネの器になってもらうね。


霊力を溜めて、保存する器に。


じゃないとアカネはいつまでも復活できない」




器…さっき言ってたやつか。




「…でも、なんで女になったんだ?」




「器はアカネに近いほどいいんだ。




アカネと同一視されて溜まるから。



だったらスズでもいいんだけど、スズは小さいから。

今は大きく見えても雀だし。

スズはスズとして神様として崇められてるから、霊力が混じったりしちゃうしね」



おぉ、繋がる繋がる。


スズに乗り移れと言った際に小さいからといってたかからな。


「…でもなぁ、僕生活あるし、困るんだけど」




「大丈夫だよ柚螺さん。夜だけだから」





夜だけ?




「今は6時だね。冬の6時は日が沈むのは早いから、6時だけど、夏なら7時か8時くらいに変わるよ」




「…夏まで女にならなきゃならないの?」



「うーん…それはどうだろうね?


僕にはわかんないから…あ、でもさっきみたいに震えたり意識失ったりしないから安心して。


なんで夜かというと、偉い神様にバレたら怒られちゃうんだ」





神様にばれないように。






悪戯な神様はくしゃりと笑った。



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