第49話 エピローグ
青白い閃光を放ったかと思えば、赤に黄に緑、色を変えて光の粒が噴水のように舞い上がる。
同時に生徒たちの歓声と拍手も夜空へと消えていく。
その輪から少し外れたところに景と遥香は並んで座っていた。
二日間に及ぶ文化祭は実行委員たちの指揮のもと、つつがなく執り行われ、大きな問題なく無事後夜祭を迎えることができた。
後夜祭は毎年、各学年の最優秀賞を発表し、ささやかな催し物が行われる。
その後、校庭の真ん中で吹き上げ花火に点火し、それを囲んで見るも良し、騒ぐも良し、語らうも良しの緩い雰囲気でフィナーレを迎える。
昔は本物のキャンプファイヤーを炊き、それこそフォークダンスを踊っていたらしいが、条例だか何だかの影響で今では彩り豊かで煌びやかな化学反応の鑑賞会と化していた。
それすらも近隣住民からの苦情で存続が危ぶまれているという。恐らく数年後には、賞を発表したら解散の簡素でつまらない後夜祭になるに違いない。
そうなる前に卒業を迎えられて良かった、と隣にいる彼女に目を向けながら思う。
厳密に言えば、卒業はまだまだ先だが、この文化祭が終わってしまえば、行事らしい行事はなく、来たる大学受験に向けての精進の日々しか残されていない。
景の視線に気づいた遥香は可愛らしく小首を傾げて、「どうかした?」とくりっとした目で問う。景は微笑みつつ首を振る。
「好きだなって思っただけ」
彼女は大きな目をさらに大きく開いて、それから俯いて小さく「わたしも」と呟いた。暗くてわからないが彼女の頬は赤く染まっていることだろう。
花火を見やる。
少し離れた輪の中心で直輝と結衣が騒いでいる声が耳に届く。
その近くで笑う梨花と凛。
涼也の姿は見えないが、今頃、例の後輩の彼女とよろしくやっているのだろう。あるいは、また何か良からぬことに手を染めている可能性も捨てきれない。
皆やっていることはバラバラだ。でもこの瞬間、皆で同じ花火を囲んでいることに変わりはない。
卒業したその先、それぞれ違う道を歩んでゆき、どういう最期を迎えるかは本人次第だ。
けれど、人生を振り返った時、高校三年生の文化祭の思い出に浸った時、誰しもこの光景が目に浮かぶのに相違はないのだ。
景は自分の心が温かいもので満たされていくのを心地よく感じる。
今いる友達、隣の恋人とどれだけ関係が続くかはわからない。でも、せめて決別するその瞬間までは、後悔しないように精一杯向き合おうと、決めた。
「おーい! そこのお二人さん! いつまでもイチャコラしてんじゃねーぞコラあ!」
「コラあ!」
花火を背に結衣が叫び、直輝がそれに同調する。
どうやら彼女らは、カップルを見ると無性に邪魔がしたくなるらしい。苦笑いを浮かべつつ、景は立ち上がる。
そうだ。奴らに涼也がこの場にいないことを教えてやろう。
とっておきの悪戯を思いついた子どものように悪い笑みを浮かべて、隣の彼女に手を貸す。
彼女は少し恥ずかしそうにその手をとり、軽やかに立ち上がる。
「行こっか」
「うん」
二人で花火の方へと駆け出す。彼と彼女らの待つ輪の中へ。自然と笑みが溢れる。
もう、臆病が鎌首をもたげることは、無かった。
──あとがき──
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あいのオトシゴ-ある日、一匹の子犬を拾った。 三ツ石 @mitsuishirei
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