第26話 協力してくんね?

「おれ実はさ、春日井さんのこと好きなんだよね」


 時間指定を条件に、短い待ち時間でアトラクションに乗れるという伝説のパスを求めてパーク内を早足で行く中、周知の事実を直輝はさも初披露するかのように真剣な顔つきで景と涼也に告白した。


 景と涼也は顔を見合わせてから「知ってる」と声を揃えて笑った。


「知ってたのかよ!」


 直輝は感嘆符が十個は尽きそうな勢いで驚きを口にした。驚きすぎて足を止める。景と涼也もつられて立ち止まり、追い越した彼を振り返る。


「見てればわかる」

「んだよー、結構勇気出して言ったのに」


 口を尖らせてぶつぶつと文句を垂れていたが、その表情には照れ笑いが混じっている。

 再び歩き始める時には直輝の顔は真剣さを取り戻し、今度は景も涼也も知る由もない情報を告白した。


「おれ、今日春日井さんに告白しようと思ってる」


 次は景と涼也が驚きに足を止める番だった。


「また急な」

「そうなんだけどさ、ほら、おれたちもう今年で卒業だろ? だから悔いのないようにしてえなって」


 半身で振り返った直輝の目はいつになく真剣で、その双眸で真っ直ぐと見つめられた景は気圧される。言葉に詰まって何も言えないでいると先に直輝の表情が崩れた。


「だからわりぃんだけど、協力してくんね?」


 両手を顔の前で合わせてウインクする彼の頼みとは、暗くなると行われるパレードでいその合に遥香と二人っきりになるように取り計らってほしい、というものだった。

 二人っきりになったタイミングで夕闇に映える煌びやかなパレードを観ながら告白するという作戦なのだろう。


 いい具合に、と簡単に言ってくれるが中々難しい注文だった。

 まず女子勢は皆パレードを観に行きたいと言い出すはずだ。男子勢で反対したとて四対三の多数決で必敗。

 やむを得ず皆でパレードを観ることになり、その途中で遥香だけ残して他をひっぺがして直輝と二人っきりにする。


 問題はあの三人衆を言いくるめて移動させることができるか、ということだ。景にはその自信が無かった。

 さらに言えば景にはこの告白が成功するビジョンも見えなかった。なぜなら遥香は……。


「女子に協力してもらえばいい」

「女子に知られるのはなー。お前らだから信用したんだぜ」


 同じような考えに行き着いたらしい涼也がもっともな提案をするが、直輝はそれを渋った。

 確かに結衣に知られたら、目の色を変えて要らぬお節介を焼いて焼いて焼きまくって店が出せるようになる程、楽しむに違いない。

 景としても面倒なことになるのは勘弁だった。結衣が介入してくるより、彼女には秘密にしたまま自分たちだけで策を練った方がマシだろう。


「わかった、考えとくよ。涼也もそれでいい?」

「ああ」

「うおー! まじで助かるよ! まじでありがとー!」


 景と涼也の色良い返事を聞けて直輝は狂喜乱舞する。

 その様子に景は、文化祭でのお化け屋敷の参考にするための視察という話はいったいどこへいったのだ、と呆れた。


 ふと、脳裏に自分に熱っぽい眼差しを向けてくる遥香の姿が蘇る。

 すぐさま「彼女はあくまで友達として、話したかったのだ」とその姿を振り払って、止まっていた足を再び動かし始める。


 遥香は友達だ。他ならぬ彼女がそう言ったのだから、と自分に言い聞かせる。


 少し前を歩く直輝の横顔は希望に満ちており、まるで失敗する未来が見えていないといった目をしていた。あるいは決意が揺らがぬよう、敢えて悪い未来から目を背けているのかもしれない。


 いずれにせよ、遅かれ早かれ今夜には決着がつく。

 景は直輝に協力し、成功確率の恐ろしく低い賭けの見届け人となるほか無いのだ。


「おれはやるときはやる男だぜ」


 自分に言い聞かせるように呟く神妙な面持ちの直輝を見て、景はずしり、と鉛が胃に沈んでいくような気がした。

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