第5話 自覚と対策会議
様々な事実が発覚し、驚きとともに全員の認識も変えなければ危険だと悟った俺は、神殿に帰還してすぐにそのことを徹底するようグラシアに頼んだ。
忙しい中、余計な手間を増やしてしまうのもどうかと思ったんだけれど、早い方が誤解も少なくて済むからな。
突然の俺の提案ーーというかほぼ命令に驚きながらも、すぐさま同じような結論に至って周知を徹底するように指示を飛ばした彼女は、非常に優秀だと思う。
「勉強になりますわ……。正直、勇者候補の方々が多くてそこまで気がまわっていませんでした」
特に気を付けて認識を変えてもらわなければいけないアリシアは、何の抵抗もなくすんなりと納得してくれた。
勇者の指導を熱心にやっていると聞いていたので、ぽっと出の意見なんて受け入れられないのではと懸念していたのだが、無用な心配だったようである。
「今後のことを考えると、会議には多少時間がかかるようになってはしまいますが、より丁寧な進行を心がけた方が良いかもしれません」
「ヒビキ様はもちろん、いずれ勇者も参加する必要性が出てきますからね」
「主人様の貴重なご意見に感謝を」
今度はきちんと参加しながらの、間引き終了後の情報共有の場。
魔獣を見れば分かる、いつまでも避けてはいられないと。
今までは現実に起こっていることだと素直に受け入れるのが嫌で、知らない国の知識を学ぶ程度の意識でしか勉強してなかった。
ーーそれでは足りない、圧倒的に。
日本での感覚を忘れなきゃ、と思っていたはずなのに思い込みと想像で勝手に物事を考えてしまっている。
今日は運良く頼れる護衛がすぐ傍で守ってくれていたけれど、甘い考えのまま行動してしまえばその護衛を巻き込んで簡単に死んでしまう世界が、今生きている所だ。
「俺ももっと早く気付ければよかったんだけれど。でも勇者候補ってことは、まだ本格的には魔獣討伐に参加してないってことでいいの?」
いきなり大幅に変わるのは無理だとしても。
少しずつ。常に意識するようにして、変わっていかなければ。
「ええ。技術も精神面もまだまだ未熟ですし、魔力操作の訓練自体を拒絶する者も……」
「俺と同じ所から来たかは分からないんだけれど。さっきも言った認識の差ってやつ、彼らにもあるような気がするんだよね」
当然のことながら、一度も会ったことがない少年少女の中にもまだまだ認識の甘い輩は多いはずだ。
これに関しては俺も他人のこと責める権利はそんなにないんだけれど、魔力操作訓練を拒絶してる奴とかな。
勇者候補ってだけで浮かれている馬鹿はーーいないと思いたいが、どうなんだろう。
いたらかなり高い確率で、あっという間にいなくなってしまいそうだ。
「魔獣への認識が甘いということですか?」
「それもあるとは思うけれど。アリシア含めた王城の人達の強さ、間近で見たことある人っているの?」
今日、たっぷりと様々な種類の魔獣を堪能してしまった
魔獣から発せられている、圧ーープレッシャーのような覇気のようなものの量が異常なのだ。
明らかな異常に突っ込んでいく馬鹿はどうしようもないので、自業自得だということで一先ずおいておくとして。
「実際に見たことがある者もいますが、少数ですね」
「なら、見せておいた方がいいんじゃない?無理な子も含めて全員」
訓練を拒絶するような子が、王城側の人達の強さを知らないとか絶対にパニックになる未来しかないだろ。
大攻勢の真っ只中に、外の魔獣に集中出来ない事態とか笑えないからな。
あとは、神聖魔法の分類も俺みたいに勘違いしている人が多そうだ。
まさか攻撃特化型とは驚きである。
繊細な魔力操作が必須だと聞いてたから、「回復や補助魔法なんだろうな」と勝手に脳内変換して聞き流していた。
あんなの戦場でいきなりやられたら、驚いて意識が魔獣じゃない方へいってしまいそうだ。
他の魔法に関しても、想像していた威力の数倍くらいはあったので、そちらへの馴れも必要になるだろう。
味方の攻撃魔法に驚いて隙だらけになった勇者に襲いかかる魔獣ーーうん、容易に想像出来るところがまた何とも言えない。
「あ。候補の一部だけでも此処に連れてくるのは……、さすがにもう無理?」
「そうねえ……。間引きしたばかりだし、大丈夫だとは思うわ」
「向いてない人と、希望者が理想的なんだけれど」
これは何となく、魔族の人数がいる方が安心出来るだろうからという安易な考えからだ。
あとはパニック起こしそうな人が一ヶ所にいると、変な方向に思考が流れてしまいそうだからその防止に。
人族よりも魔族の方が魔力操作が上手い、と最初の方で習うので戦闘に不向きな人は飛び付くーーと思う。
希望者は何て言うか……、王城に残されることになる人達への保険的意味合い含めてだ。
不向きな人だけ別の場所へ移動ってなると、ほぼ確実にマイナス方面へと誤解されるだろうからな。
希望者の方に訓練優秀者がいれば一番いいんだけれど、こればかりは今言っても仕方のないことなので黙っておく。
無理矢理連れてきても意味ないし。
「ちょうど変異種についての報告もありますし、私とあと何人かいれば十分でしょう」
立候補したのはサリスである。
まだ戦い足りないのか、と一瞬だけ思ってしまったのは一応秘密にしておこう。
変異種や間引きの際の報告と、その他諸々の用事があるのだという。
「ならばお兄様に聞いて下さいませ。私以上に、彼らとの交流に積極的ですので」
「はい。では暫しの間、ヒビキ様の護衛から離れます」
審議を重ねていくんだと思ったら、俺の言った意見がそのまま採用されたようでサリスが足早に退室していった。
神殿の決定だったとはいえ、俺の専属護衛を一月以上やっていたのだ。
これを機に、引き継ぎ含めての仕事を片付けてくるつもりらしい。
「サリス様の帰還には数日程かかるでしょうから、微力ながら私がお守りします」
「俺は神殿から出るつもりもないから、アリシアはきちんと休んで下さい」
「お気遣い、ありがとうございます」
昨日の帰還以降、満足に休めていない彼女に提案すると、嬉しそうに微笑んでくれた。
勇者候補が来るまでは今までの復習をしたり休息を取ったりして過ごそうとしか思ってないから、護衛はいらない気がするんだよな。
その辺はグラシア達幹部の意見が最優先っぽいから、前もって拒絶も出来ない。
何かが変わろうとしているような気がするので、今のうちにゆっくり休んでおかなければ。
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