第2話 魔獣との戦闘
主人無き神殿は、リーノス大陸各地に点在する神殿の中でも一、二を争う規模の大きな神殿だ。
神殿の主人、というものがいまいち何かを把握していないが、その存在がいないのにも関わらず神殿内で働く人は多い。
当然、神殿を中心として広がる街もそれなりに広く、多くの建物が建って発展しているわけで。
「神殿、規模が大きいって聞いてたわりには狭くない?」
「現地点からそれなりに距離があることも原因ですが、神の悪戯によるものだそうです」
到着予定の二名の神殿関係者を待つ間、「いい機会だ」ということで、俺は街にある入口の一つに来ていた。
身体は無事魔力に適応しているようで、どこか違和感があったり疲れやすかったりといった症状は今のところ出ていない。
入口となる場所にはそれぞれ大きく立派な門が建っていて、神殿関係者ならば門の上部に位置する警備担当者の詰め所に行けるとのことで、せっかくなのでお邪魔させてもらっているのだ。
今は、街が見渡せる内側の大きな窓から野外学習中である。
「神の悪戯?」
「ええ。誰にも真似出来ない、魔法でも頭脳でも解決しない事象のことですね」
神様が何らかの手段を使って、広さを隠しているとかそういう系統だろうか。
空間をどうにか出来るだなんて、如何にも神様っぽい。
「この街の形も悪戯が関わっているのでは、と言われているのですよ」
円形状に見えはするし聞いてもいたが、実際に街の中を歩いてみるとそこまで円形を感じずに歩けたんだよな……。
丸くする意味は何かあるんだろうか?
「何かしらの意味があったとは思うんですが……。今まで分かっていなくて」
「今後は期待出来るがな。主人となるべき有力候補が来たことだし」
「何かもう既に決定事項っぽい……」
あまり期待されても困るのだが。
今までの数々の謎が分かるかもしれない、ということは俺が思っている以上にこの地に住む人達にとって重要なのかもしれない。
その後は、神の悪戯に関するいろいろなことを聞きながら、街のことについて教えてもらっていたんだけれど。
「サリス。二人が追われているようだ、迎えを頼む」
「この時期に珍しいですね……。ヒビキ様。私は少々、外へ行って参ります」
ふと何かの気配を察知したシリスが、身体を街の外へ向けつつサリスに指示を出した。
彼女は指示を聞くと俺に小さく一礼して、すぐに詰め所を出て行く。
気になって外の様子が見える反対側の窓に近付くけれど、俺の視力では遠くに土埃のようなものが舞っているくらいのことしか分からない。
あれが戦っているということだろう。
「心配するな。教えただろう?調整役というのは人族で最も魔力操作が優れた者がなるのだと」
戦っている様子が見えてもそれはそれで取り乱しそうだけれど、姿が見えなくとも不安だと思うし、心配するわけで。
「あっ!ていうか武器持ってなかったけれど、サリスって戦う時どうするの?」
「武器?ふむ……」
シリスが平然としているから、恐らく運悪く小物の群れに遭遇したとかそういうので大丈夫なんだろうけれど、俺の質問に何かを考え込んでしまう。
ーー何か、嫌な予感がする。
「見学に行くか」
「……へ?何でいきなりそんなことに!?」
唐突に物騒なことを言い出した人の近くにいたせいで、逃げる暇も距離もなくあっさりと捕まり、浮遊感のような奇妙な感覚に目を回していると。
「着いたぞ。此処からなら、よく見えるだろう?」
恐ろしい現場に一瞬のうちに到着してしまうなんて、転移魔法か何かなんだろうか。
目の前は建物も草木もない荒野が広がっていて、つまり、身を隠すような場所はない。
此処が安全地帯ならばすぐにでも文句の一つや二つ言いたかったが、そうすべきではないことくらい俺でも分かる。
「傷を負わせることはないが、動くなよ。ついでに騒ぐのもおすすめはしない」
さすがにこの場で騒いだら、魔獣が反応してこっちに来ることくらい想像出来るのだ、馬鹿な真似はしない。
絶賛攻撃してくる
しかし初めて目にした戦いの光景は、圧巻そのものだった。
サリスが手に光る武器ーー察するに魔力か何かで出来た剣だろうかーーを持ち、果敢に魔獣へと攻撃を仕掛けていく。
興奮状態にある群れの先頭集団に突っ込んで行っては倒し、を繰り返している。
何かしらの魔法も同時に使っているようだが、主力は剣による攻撃。
「サリスが持つ剣は見えているか?」
「あれって……、魔力か何か?」
そこそこ戦闘している場所から離れてるとはいえ、周囲を警戒してか小声でシリスが問いかけてくる。
いきなり戦場へと連れて来たのはきちんとした理由があるらしかった。
ちょっと強引すぎだと俺は思うけれどな!
「目も問題ないようだな。そうだ。この大陸は資源に乏しいってわけではないんだが、そう頻繁に調達出来なくてな。ああして魔力で武器を創って戦うことがほとんどだ」
魔獣問題があるからか。
確かに新しく作るにしろ、直すにしろ素材が多いに越したことはないからな。
でも数ヶ月に一度は大攻勢ってのがあるし、地域によっては普段の状態の魔獣でさえ苦戦を強いられることもある。
大陸中がその状態では、わざわざリスクを背負ってまで素材調達の冒険なんてしない。
暇があれば、魔力操作の訓練に当てるんだそうだ。
「簡単に紹介だけしておく。あれがリアンで、あっちが調整役のアリシアだ」
俺よりも年下に見える少年ーーリアンが素早く自由自在に動いて敵の目を欺き、白銀の女性ーーアリシアが戦闘をサポートするかのような立ち回りを見せ、魔法で二人に何かを施しているようだ。
そうしてあっという間に、魔獣の群れを倒していく。
戦い慣れているのか、それぞれが最善を尽くして戦っているのが分かる。
誰も互いに邪魔をすることなく、一匹一匹を確実に仕留めている。
だが、ちょっと前にサリスから聞いていた魔獣とはかなり違うような気がする。
近くにいるはずなのに、何も感じないのだ……。
魔獣にあるはずの独特の臭いも、流れ出る血さえも、無臭。
「何かがおかしいですね……。ヒビキ様、シリス。急ぎ神殿へ戻りましょう」
場を制圧した三人は、腑に落ちない様子ながらも足早に此方へと近付いて来て、まずはこの場からの離脱を提案してきた。
とりあえず普段の魔獣事情が一切分からない俺は、黙って従うことにする。
シリスの転移魔法には制約があるようで、万が一に備えて俺とシリスだけが先に帰還することになった。
その後街に入ってきた三人と合流して、グラシアを含む幹部達に状況報告すべく、神殿へと戻った。
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