第4話 神殿
「俺はヒビキです。あの、神殿に現れたのは俺だけですか?」
「ではヒビキ様とお呼びしますね。ええ、この神殿にはヒビキ様お一人だけです。王城の方は複数人同時で、大変慌しかったようです」
ミオとケイ、俺の近くにいて巻き添えにはならなかった……のか?
ケイとかしっかり俺の腕掴んでたような気がするけれど。
素質が無かったとか……?いやいや、俺にあって二人に無い素質なんて存在するんだろうか。
いい加減判定も異世界ならでは……なのか?
しかし、それはそれであの場に倒れ伏した不良の皆さんに降りかかるであろう、二人による様々な不幸が容易に想像出来てしまって心配ではある。
まあ頑張ってもらうしかないか。
そもそも不良の喧嘩に一般人を巻き込むのが間違っているのだ。
姿を消してしまった俺を探すべく、手当たり次第不良に手を出していく狂人と化した悪魔のような二人の姿がーーいいや、やめておこう。
あらゆる被害を想定しただけで気分が悪くなりそうだったので、今考えても仕方ないこととして忘れることにした。
特にやることもないので、未知の世界の勉強でもして気を紛らわそうとしていたんだけれど。
指導役も兼ねているらしいサリスーーさん付けしようとしたら固辞されたーーの勧めで、軽い運動も兼ねて神殿見学をしているのが現在の状況だ。
神殿はかなり広々としていて、一人では部屋の外にも出られそうにないと学んだ。
最初に重要なことが学べて何よりである。
方向音痴というわけではないのだが、全体的に造りが似ていて覚えるまでに時間がかかりそうなのだ。
何か特徴があれば覚えやすいんだけれど、それだと不都合が生じるのだろう。
神殿なんて大層な場所に行った経験なんてないが、非常に興味深いものばかりで見ているだけでも時間があっという間に過ぎていく。
「神殿騎士のシリスだ。主人には、サリスと私が専属で付くことになる」
案内の途中で、サリスによく似た青年が話しかけてきた。
どうやら別の部屋の準備が終わったらしく、呼びに来たようだ。
彼女と同様に色が薄い。ただ、髪も瞳も金色ではなく銀色であるが、儚げな雰囲気はない。
二人は双子らしいのだが、此処まで印象が違うのは性格の問題だろうか。
サリスは丁寧な口調を崩すことはないようだが、シリスの方は少し砕けた話し方のようだ。
「此方が正式なヒビキ様のお部屋です」
案内されたのは、先程の部屋よりもかなり……広すぎる部屋だった。物がそれほど多くないからそう思うのか。
こんな部屋、落ち着いて生活出来るようになるのだろうか疑問である。
しかし、「一番安全ですので」と先に言われてしまうと何も言えない。
用意してくれた人にも申し訳ないしな。
この世界の価値観がそもそも分からないので何とも言えないが、室内は質の良さそうな調度品で揃えられている。
地味すぎず、華美すぎずといったところか。その辺は日本と感覚が似ているのかもしれない。
「先程サリスが案内していたのは、居住区と呼ばれる場所だ。今日は外からの訪問があるから、その関係で主要な施設は後日ということになる」
あの特徴のない区域は神殿関係者の居住区だったようだ。
自ら進んで行くことはなさそうなので、頭の片隅に覚えていた道順は忘れることにする。
「では、少しだけ勉強しましょうか。今シリスが言っていた外の方というのが、王城関係者です。リーノスには人族の国が一つと各地の神殿、魔族の住処くらいしかありませんので」
大陸、と言っていたわりに居住場所が少ない気がする。
小さくはなさそうなのに、何だかチグハグな感じだ。
「他の大陸が今どうなっているのかは未知数でしかないが。このリーノスは魔獣との闘争が古くから続いている影響で、あまり人族の居住地帯の拡充が進んでいないんだ」
「この世界の歴史に関わることなので今は省きますが、古くから続く闘争の結果が今現在のリーノスを形作っているのです」
「それって、人族が滅亡寸前とか……?」
「いえ、元々この地は人族の方が少ないのです。彼らも決して劣勢というわけではありませんから、先日の勇者降臨と今回のヒビキ様に関しては神の意志によるものだったかと」
神って神様だよな?普通に実在しているってことーーだな、この言い方は。
いや、神殿が存在しているから宗教的な何かはあると思っていたけれど、信仰云々ではなく神がいて当たり前の世界なのか……。
これは驚くべき事実ではないだろうか。
「古代にあったとされる戦いの影響で、あまり干渉出来ないようなのです。本来ならば、魔物の暴走などの対処をしていただくんですが」
何だかまるで、神様を仲間として見ているかのような気やすい感じだ。
信仰対象とかそういうのではなさそうだ。
ここら辺は地球側とだいぶ違うようだから、余計なことを言わないように注意が必要だろうか。
それよりも劣勢というわけでもないのに、魔族よりも人族が少ないなんて何だか不思議な感じだ。
もっともそれは大した天敵もいなかった地球人の意見だから、何の役にも立ちそうにないが。
「そういえば、王城には既に勇者がいるんですよね?なら、此処に来た俺の役割って何かあるんですか?」
勇者ではないとの見方をされている俺は、果たしてどうなるんだろうか。
自分の不幸体質云々の前に、魔獣が蔓延る世界でなんてとてもじゃないが生きていけそうにないのだが。
「推測でしかありませんが、王城ではないということから勇者でないことは確実でしょう。そして此処は先程も説明したように、主人無き神殿ですので……」
「神殿の主人となるべく、神によって招かれた可能性がある。……ということになっている」
ーーなるほど?よく分からないが、何かしら意味があるに違いないので経過観察でもされるってことだろうか。
話を聞く限りでは物騒にしか思えない外に放り出されないだけマシだ。
もうなるようになってくれ。
「神殿は人族が中心となってまとまっている王城と違い、様々な派閥が存在します。いろんな魔族や人族が派遣されてきていますからね。ですがヒビキ様が相手ならば、誰でも友好的に接してくれることでしょう」
初日の勉強会の終わりに、何とも不安なことを教えてもらった。
派閥。やっぱりどこにでもそういうのはあるんだな。
魔族と聞くと、どうしても悪いイメージが湧いてくるんだが、この状態もよくないよな。
地球の知識は役に立たないのだから極力思い出さないようにして、慣れる為にこの世界の知識を積極的に吸収していかなくては。
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