第2話 クラブNAKAYUBI


 聖夜の夜を片腕がシャークのぼっち男が駆けている。

 恋人つなぎのカスへ割って入り、スポーツカーを踏んづけ、ラブホテルの壁を貫通し、彼は真っ直ぐに急いだ。

 彼は目前に数台の改造バギーをとらえた。クラブへ向かう超力彼ピッピの最後尾だろう。

 サメのパワーを得たぼっちの脚力はゴキブリを上回る。息ひとつ切らさないまま改造バギーと並走した。

 パクパク。左腕のサメくんが歯を噛み鳴らして威嚇している。

「かわいい。いや、お前は死んだはずの!」

「左手がオメー、魚類じゃねーか!」

「世界中の男女が合体する夜にオメー、サメと合体してんじゃん! 何やってんだよセックスしろよ」

「親切な俺らが戻してやんよ。元の死体にな!」

 彼ピたちが、抱き枕のごときものを複数投げてくる。マウント重工製のクソでかダイナマイトだ。

 バギーと並走しながら、ぼっちは、サメの左腕を素速く振るった。ダイナマイトは爆発しない。サメの鋭い背ビレを使って導火線を切り落としたのだ。

 それだけではなかった。斬撃は彼ピとバギーまでをも切断していた。彼らの体に無数の切れ目がはしる。

「わわっ」

「やああっ」

 意外にかわいい声を上げて、彼ピたちはバラバラになった。

 そしてそのサイコロ肉がバラバラになる前に、バギーは爆発炎上、彼ピのサイコロステーキをこんがり焼き上げた。

「や、やべえ、き、綺麗だ!」

「何をしやがったあ!」

 残りのバギーが逃げだした。

 当然ぼっちは追う。

 雪の繁華街を駆け抜け、聖歌隊の歌う教会をぶちぬき、ダイナマイトでラブホテルを爆破した。

 バギーの起こす突風が、一人の可憐なシスターのスカートを巻き上げた。彼ピは運転を続けながらもこれを振り返って「いいですね」といった。サメの腕を振るいつつ、ぼっちも、いいですね、と思った。

「だが彼ピは殺す」

「ギャアアアア!」


 結局『クラブNAKAYUBI』に到着した頃には、八名の彼ピを狩っていた。

 そして、今、バギー車から彼ピが転がり出て「か……勝てるわけねぇ……」とうめいたのち絶命。これで九人のバギー彼ピが死亡したことになる。


 ■■■


「クラブか……」

 パリピの象徴、クラブが、ぼっちの前にそびえている。

 男にとって初めて訪れる場所であった。だが殺す。左手のサメもガチガチ歯を鳴らした。

 日常でなら絶対に立ち入りたくないアウェイである。だがクリスマスにおいては彼らの狩り場となるのだ。

 広くはない室内に、相当な数の人間がひしめいていた。想像したのとは違う、ダウナーな曲が流れており、青いライトが揺れている。海の底のようだ。

 何かのフェアー中なのか、従業員たちは動物の仮装をしている。といってそれは、能の猿面であったりしてなんだか不気味だ。


 クラブの客たちは面をかぶり、あるいは自前の仮装で顔を隠している。これでは一般客と彼ピの区別がつかない。彼ピに気づかれれば、奇襲を受ける恐れがあった。ジャスコの惨状を誰かが報告しているかもしれないのだ。

 ぼっちは機転を利かせ、左手のサメを顔の前でパクパクさせた。

 これで傍目にはサメの面を被ったパリピと区別がつかない。潜入成功である。

 さて、どうする?

 ブラックドラゴンの姿はない。であれば他の、彼ピッピのリーダー格を捕まえて、居所を吐かせれば良い。

 誰が彼ピかはわからぬ。だが冷静になって注意深く観察すれば、品とは得られるはずだ。男は全精力かけてくまなくクラブ内を見渡した。

 彼は軽やかに動くDJの男を見た。

 額に『I♥マウント』の焼き印がしてある。モー子の彼ピッピに間違いない。気づかれないと思ったのだろうが、カラテ家の観察眼の前では裸も同然。

 観察を続け、一人になったタイミングで拉致すべきだ。しかるのち殺す。パクパクシャークの影で目を光らせたとき、DJ彼ピがぼっちを見た。

 DJ特有の威嚇行為をシャカシャカした後、彼はいう。

「何かなまぐせぇ~よなあ? 気づいてるんだぜ? サメ野郎が紛れこんだのをYO!」

 YOYOいい始める。ジャスコの店員か、あるいは逃走中のバギーたちがマウント・モー子に報告したのだ。

「HEY! 諦めて出てこいYO! そんな思いをこめて歌います。聞いて下さい『ぼっち・ざ・シャーク』」

 シラを切るべきである。サメパクパクで顔を隠せば間違いなく客に紛れることができる。ここは耐えるのだ。

 だが、ぼっちは不必要なラップ行為を許せぬ男。 

 DJ彼ピが最初のリリックを刻んだ瞬間激怒。こんなこともあろうかと従業員から失敬しておいたボールペンを、額めがけて投擲した。

 『I♥マウント』

 そのハート部分にボールペンは深々と突き刺さっていた。

 いったい彼がどんなリリックを、恥ずかしげもなく披露しようとしていたのか、最早それは永久に謎である。


 ■■■


 DJ彼ピが無言で崩れ落ちた。

 客たちが騒ぎ出すより、彼ピたちの行動の方が早かった。やはり罠だったのだ。

 音楽が止んで、代わりにマイクのハウリングが響き渡る。

「さすがなんだな、うん」

「うむ。ブラックドラゴンが興味を示しただけのことはある」

「旦那は生きてると言い張っていたからな!」

 聞き覚えのある複数の声が代わる代わる話している。

「誰だ」

 ぼっちの男は叫び返す。スピーカ越しでは声の出所は特定できない。

「さっき振りだね、うん。俺は聖☆汁の一人。ヨガインストラクター『顔色ガンショク』よろしくなんだな」

「聖☆汁が一人。獣人カラテの『ムシバ』お前の外道カラテが見たい」

「ふっ。下らぬ。俺は暗殺整体師『妲休ダッキュウ』下らぬ争いを終わらせに来た……ふっ。ところで『アメリカ大統領を脱臼させた男』として、合衆国から追われている。あのあアメリカ合衆国から、な。だがどうでもいい、そんなことをいってのける俺です」

「なら俺は『二億匹のチワワを殺した毒手トリマー』ってとこかな? 名前は『ハゲ』よろしくな! お前もワンちゃんのように睡らせてやるぜ!」

「ぼ、僕の名前は『せセキ』……『悪霊保管庫・関』です。お願い……僕に……近づかないで」


 ヨガインストラクター、顔色ガンショク

 獣人カラテ、ムシバ

 暗殺整体師、妲休ダッキュウ

 毒殺トリマー、ハゲ

 悪霊保管庫、セキ


 聖☆汁の五人による代わる代わるの挨拶が終わった。

 彼らがマウント財閥の暗部を担うコロピッピ集団であることはあまりに有名だ。

 その名乗りを聞いただけで、クラブの従業員たちは五リットルも黒血を吐いた。

 ジャスコで味わった、彼らの恐ろしい実力はぼっちの身に深く刻みこまれている。


 だが、その「聖☆汁」を敵に回して、ぼっちの男はこう言い放った。

「ブラックドラゴンはどこだ?」

 沈黙の後、スピーカから代わる代わるの爆笑が響く。

「がははは! この聖☆汁を前に臆さぬどころか、眼中にもないと見える!」

「こういうヤツをブッ殺すのが面白いんだな。うん」

「下らぬ」

「逃げてくれれば良いのに……」

「教えてやるよぉ! ここは中級彼ピのパーティー会場さ! 彼ピランキング一位のブラックドラゴンはこんなとこすぐに通りすぎたさ。今頃は列車に乗って目的地に向かってるトコよ。今夜の乱交パーティーで使うコンドームを満載した列車でな!」

「なにっ」

 聞き逃せないひと言であった。

「おいおい。今日はクリスマスイブで、俺たちは彼ピなんだぜ。全員がモー子とセックスするに決まってるだろ。もちろん他の女ともヤる予定だけどね!」

「そうなんだな。今宵もその予定なんだな」

「だから……もう帰って……」

「許さぬ。仮に腹を空かせた一〇匹の子犬がお前の帰りを待っていたとしよう――だとしても殺す」

 ぼっちはカラテの構えをとった。サメの左腕もヒレを震わせて威嚇した。

 その瞬間である。

 怯えていたかに見えた客たちがピタリと動きを止め、片腕シャーク男を振り返った。

 なんと、その全員の手に分厚いアーミーナイフが握られている。

 驚くべきことに、刃物を構えながら、彼らの動作には一片の戸惑いも気負いも見えない。動物の仮装もあって、なお異様である。

 しかも彼らの背中に目をこらすと、うっすら透けた人影が見えた。

「関チャンの大量憑依術だ。アンタには利かないようだが、客どもは御覧の通りだぜ。じゃ、ま。開戦ってことで」

 マイクの声が戦いの始まりを告げた。

 それと同時にクラブ内の灯りが落ちる。

 繰霊術による包囲と暗闇の二段構え。

「ひひひひひ!」

 視力を奪われたぼっちの男へ、憑依パリピたちが殺到した。


 幽霊は暗いところが大好き。

 彼らは闇の中でもぼっちの姿をはっきり捕らえているようである。

 深海よりもなお暗いクラブのあちこちで火花が散った。

 サメ肌とアーミーナイフが打ち合う際の発火である。

 サメがチェーンソー以外の攻撃を無効化するのは、映画でご存じの通りだ。

 鉄板すらバターのように斬り裂くマウント重工製のナイフを、サメの左腕がやすやすと弾いている。

 これにカラテの心眼が合わされば、傀儡どもの刃が通る道理はない。

「さすがだな、うん」

 激しく飛びかう、ぼっちの動きを聖☆汁たちは目でとらえていた。マウント財閥の参加が開発した白く拡張剤『見抜き君』の効果である。

 彼らは、傀儡に片腕シャークが仕留められるとは思っていない。

 目的は不意打ちである。


「今なんだな」

 ヨガインストラクターが仕掛けた。

 片腕シャーク・クリぼっち男との距離は十メートル以上離れている。彼の射程内であった。

「うん」

 ヨガインストラクターの腕はゴムのように伸びるのだ。

 密集する憑依パリピたちの間をジグザグに縫って、ぼっちの男へ迫る。

 十メートルの距離から放たれた拳が、背後からぼっちの肝臓部分へヒットする。

「なにっ」

 ぼっちは戸惑いの声を上げる。

 サメにロレンチーニ器官をつかった探知能力があるのはご存じだろう。ボッチ男も半径四メートルの距離でならそれを使える。それが限界だが、一般的な戦いにおいてならそれで十分だと、ぼっちはそう考えている。

 ヨガの攻撃はそのレンジの外から迫ってくるのである。

 しかも自在すぎた。あり得ない角度から襲ってくる攻撃の気配に、ぼっちの半端な探知能力は、むしろアダとなった。なまじ方角がわかるだけにフェイントにかかってしまうのである。

「ヨガ」

「ヨガ」

「ヨガ」

「ヨガ」

 彼は次々とダメージを受けた。

「暗殺もリラックスが大事、なんだな」

「ガハハ。次は俺だなジャスコでは後れをとったが、借りを返させてもらう」

 さらに、獣人カラテのムシバが参戦した。

 彼は真っ直ぐぼっちへ突進していく。

 ヨガパンチを避けながら、ぼっちの男はとっさにサメの腕で受けようとする。

 だが予想外の攻撃。ムシバはその腕に噛みついたのだ。

「がるるるる☆」

 すごい力でぐいぐい引っ張ってくる。しかも戦いの中で、獣人カラテの肝である愛らしさを忘れてはいない。

「がるるるる☆」

 警察犬の訓練を見たことがある者なら理解できるだろうが、人はぐいぐいされると、重心が崩れて攻撃ができない。

「ぐいぐいしても殺す!」

 とっさの膝蹴り。しかしまるで効いてはいない。

「ぐいぐいが……強すぎる!」

 ぐいぐいが強すぎる。あらゆる攻撃が手打ちになってしまう。

 危険な状況であった。

 ぐいぐいにより攻撃も脱出も不能。憑依パリピにも囲まれ、さらに遠距離にはヨガパンチが控えている。

 しかも、獣人カラテの鍛え抜かれた牙は、サメの肌に食いこみ始めている。特殊合金製のアーミーナイフですら通さなかったサメ肌にだ。

「ぐるるるる☆」

 ムシバのぐいぐいが強くなった。しかもどこか愛らしい。

 その時である。生命の危機を感じたサメの目が鋭く光った。

「シャ……シャ、シャ! シャアアアアーク!」

 サメは己の意志で、体を高速回転させ始めた。サメと人間の骨格はことなる。であれば、サメの腕が回転しても不思議ではあるまい。しかもムシバに劣らずかわいい。

「ぐるる……あががーー☆」

 ムシバが血を吐きながら離れる。噛みついた獲物がドリルと化したのだからたまらない。唇はそげ落ち、自慢の牙が砕けて飛び散った。

「ぐいぐいを止めても今宵は殺す」

 なおドリル回転を続ける腕で、ぼっちは正拳突きを放つ。

 回転するサメに心臓を貫かれ、ムシバは即座に絶命した。


「まず一人」

 ぼっちの男は残心を忘れず、次の攻撃に備えた。

 その時、急に明るくなった。クラブの電源か再開したのだ。

 暗殺は諦めたのか?

 そうではない。聖☆汁は作戦を次のフェーズへ移行したのだ。

 視力の戻った視界に、先ほど斃したばかりのムシバの姿が見える。

「なにっ」

 ぼっちの男は目を見張る。

 ムシバの顔はジャスコで見てすでに知っている。それはいい。

 だが、ダンスフロア地面に同じ顔をした男が大量に倒れているではないか。

 ご丁寧に彼の開けた心臓の穴まで同じである。

 とうぜん、ダミーに違いない。

 しかし、驚きがぼっちの判断を一瞬遅らせた。

「ふっ。憑依パリピたちさ」

 背後に男が立っていた。

「――キサマ!」

「ふっ。暗殺整体師……妲休ダッキュウ

 振り返るより早く、右肩左肩、ともに関節を外されていた。

「ふっ。整体師は顔を変えられる……それだけのこと。心臓は俺がセルフでやっておいた。ダミーどもに『ギョッ』として動きが止まったな。サメだけに。ではトドメ――ぐわわわわー!」

 暗殺整体師が悲鳴を上げてのたうった。

 首を折ろうとしたところへ、サメが逆に噛みついたのだ。

 サメの牙が整体師の首へガッツリ食いこんでいる。

「馬鹿な……関節はガッとやって外したはず……あのアメリカ大統領のように……」

「サメの骨格は不勉強だったようだな。お前はサメの尻尾の先を脱臼させたに過ぎない。その程度なら、サメは単体で動けるのだ」

「ふっ。負けか。しかしそれだけの……こと」

 暗殺整体師、死亡。

 だが、それは執念か、あるいは整体の奥義か。彼は死亡したままサメ腕を掴んで離さなかった。

「むっ!」

 サメを拘束された。しかも生身の腕は脱臼して使えない。

 一瞬の隙。生身の右腕へ、毒手トリマーの毒手拳がヒットしていた。二億匹のチワワをも殺す猛毒だ。

 毒手トリマーハゲが勝ちを確信する。

「決まったあ! コンマ三秒で禿げて即死! ってあれ?」

「……殺す!」

 毒を受けながらもボッチは生きていた。

 サメとの融合により毒耐性が増したのだ。そしてその事を悟った瞬間には、毒手トリマーハゲは敗北していた。

 拘束を振りほどいたサメドリルが、ハゲの腹部を貫いていたのだ。

「……痛ってえ。しょうがねえなあ。だが、毒はしっかり効いたはずだぜ。即死は免れても……までもお前の命は一日もた……ねえ……」

 毒殺トリマー、ハゲ、死亡。

「――確かに。だがクリスマスだけ持てば良い」


 ■■■


「ハゲ……! ハゲさぁん! みんなをよくも!」

 フロアに悪霊保管庫関の絶叫が響いた。

 最初に見せた気弱そうな態度とは似ても似つかない。相次ぐ仲間の死に、我を忘れたとでもいうのだろうか。

「ブッ殺せぇええ!」

 彼は自分の悪霊たちへ怨念を上乗せした。

「パッパッパッパ……ワァアアアアアアア!」

 パリピたちの体が一斉にビルドアップする。

「まだまだ!」

 関はさらに繰霊術を展開して、パリピだけでなく中級彼ピたちへも憑依させた。超力彼ピたちがさらに強化されたのである。

 彼らは高速ゾンビさながらの動きでぼっちへ迫った。

「操られていようが殺す。クリスマスだからだ」

 毒を吸い出していたぼっちも、カラテの構えをとる。

 そのとき意外なことが起こった。

 死んだはずのムシバ妲休ダッキュウハゲが起き上がって、ぼっちの男を拘束したのだ。

「なにっ繰霊術!」

 その通りである。ぼっちが見抜いたとおり、関が死体へ悪霊を憑依させたのだ。死体でも繰霊術を使えば、わずかな間なら活動可能。ブードゥーゾンビと同じ理屈である。

 再び拘束されたぼっちシャークを、超力パリピの群れが覆い尽くす。


「や、やった! みんなの仇を取ったぞ!」 

 関の完勝宣言が上がった。

 それと同時に、パリピの群れの下から光が溢れた。

 カラテの奥義、全方位発剄スパーキンである。

 スパーキンは群がっていた悪霊憑きたちを吹き飛ばし、それに留まらず、クラブNAKAYUBIをも瓦礫に変えた。

 そのスパーキンは三キロ先からでも確認できたほどである。

 この破壊のため、パリピたちと二十名の中ランク彼ピッピが死亡した。

 スパーキンが収まったときには、風景が一変していた。

 クラブのビルは焼失し、周囲は瓦礫に変わっている。その爆心地に立っているのがぼっちの男である。

 すべての彼ピが死に絶えたかに見えた。

「とんでもないね。うん」

 聖☆汁、顔色ガンショクの声である。

 彼だけは一瞬早く破壊から逃れていたのだ。

「……間一髪で逃れたのは見事だ。クリスマスでなければ!」

 ぼっちがカラテの構えをとる。

「おお怖い。これはいったん引いてチャンスを待つべきなんだな。うん」

 ヨガインストラクターは撤退を選んだ。

 これは暗殺者としてクレバーな判断といえた。こんな広いところで勝負をする必要はない。隙を見て殺せばいいのだ。

 クラブのすぐ背後には線路が通っている。折よく到着した列車に彼は乗りこんだ。コンドームと彼ピを運ぶ、マウント財閥のラブチュッチュトレインである。

「ラブチュッチュトレイン……あれに乗ればブラックドラゴンのところへ……」

 後を追おうとして、ぼっちは膝をついた。

 致命の毒に加え全力のスパーキンは、彼の体力を限界近く削っていたのだ。

「まだだ。まだ七十五人しか殺していない。今宵、すべての彼ピを殺す」

 彼は立ち上がって歩き始めた。


 そのやや後、瓦礫の中から這いだしてきた彼ピがいるのを、彼は知らない。

 彼の殺害した彼ピの人数は七十五人ではなく、まだ七十四にんだったのだ。

「……みんなの仇……許さない……この恨み、晴らさでおくべきか……」



――ここまでのサツガイ数。

 100(101)人中、74ピッピ。



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