第27話ラブコメの主人公
俺たち……というよりも、篠原が恋愛部の部室を守ってからまた少し時間が経ち、俺と篠原は暇を持て余していた。
恋愛部はハム子の一件で有名になると思ったのだが、篠原の知名度が少し上がっただけで、恋愛部という謎の部活動を認識している生徒はあまり多くないらしい。
現にまだ、一人しか相談に来ていない。正直こんなところでダラダラゲームをやっているぐらいなら一人で家に帰りたいと思わなくもないが、まあ帰ってゲームするぐらいならここで相談者を待っててもいいかと思い、俺は昨日インストールしたソシャゲのリセマラをする。
特に面白くもないリセマラをしていると、漫画雑誌を読んでいた篠原が突然喋り出した。
「ラブコメの主人公って、結構地味よね。なのにどうしてか、特筆すべき個性がある……」
唐突によくわからんことを口走り始めた篠原の言葉に耳を傾けると、篠原は俺に質問してくる。
「ところで新藤くん。あなた、勉強はできる?」
篠原の質問の意図がよくわからんが、とりあえず適当に答える。
「普通だな。毎回どの教科も平均点ぐらいだけど」
「じゃあ何か人にないものを持ってたりする? 例えば家が金持ちとか、もしくはものすごい貧乏だったり、はたまたものすごい特技を持ち合わせてたりとか」
「いや、特にねーな。強いていうなら人よりゲームがちょっと上手い」
「じゃあ最後。あなたは異性に対して優しいですか?」
「なんだその質問……? 異性に対して優しいって、お前への態度を見てたらわかるだろ」
まあ篠原がキツく当たってくるから言い返してるだけで、誰に対しても優しくないわけじゃないけど……。
てかさっきから何の質問これ? 尋問? ちょっと息苦しいんだけど……。俺がだるそうに携帯の電源を落として訝しむ眼差しを篠原に向けると、彼女は呆れたように大きくため息を吐き、グチグチと文句を言ってくる。
「えっと、なんなのあなた? なんでラブコメの主人公のくせに、そんな
いきなり文句を言われるが、なんで俺が責められなきゃいかんのだ。俺が凡庸なのは仕方ないことで、今更どうすることもできん。
「うるせーよ。別にモテなくて結構だ」
「あなたが良くても、ラブコメ作品としては最悪なのだけど。というか、どうしてそんなに平凡なの? 右腕にサイコガンが搭載されてたりとか、そういう個性を出すことはできないの?」
「どこの殺戮マシンだよそいつ……。右腕がサイコガンの主人公とか、最後の方、多分ヒロイン誰も残ってねーぞ」
「うるさいわね。とにかく、その平凡さは致命的よ。早急になんとかしないさい」
なんとかってなんだよ。個性なんて急ごしらえで無理して身につけるものじゃなく、生まれつきとか環境で身に付けるものだろ。そして大体の人間は、俺みたいに凡人なのだ。
大体こいつは何もわかってない。
「いいか篠原。ラブコメっていうのはな、ヒロインが主役なんだよ。主人公なんてもんは、可愛いヒロインを引き立たせるための道具でしかないの。主人公がヒロインよりも目立ったらダメなんだよ。つまり、俺みたいな平均的で凡庸な奴が、一番ラブコメの主人公に適した人材なんだよ!」
長々と力説を説くが、篠原は納得出来ないのか反論をまくし立ててくる。
「確かにそうかもしれないけど、何か一つぐらいモテる要素がないと物語が始まらないのだけど。ヒロインと主人公がいて、初めて物語は始まるの。ヒロインがいないラブコメなんて、味噌のない味噌汁と一緒よ」
味噌のない味噌汁って……。
「それはお湯だ」
「そうよお湯くん。よくわかってるじゃない」
「いや、何もわかんねーんだけど……。てか何このラブコメ談義。俺、あんまりラブコメは好きじゃないんだよ。ほら、なんかリアリティがないだろ? あんな簡単に女の子を堕とせるなら、世の男子学生は苦労してねーっての」
「あなた、現実とフィクションの区別もつかないの? 病院に行ったらどうかしら? 頭の」
結局、最終的に俺を貶すところに落ち着くんですね。この屁理屈王女が! まあいい。最近わかったが、俺はこいつに口論で勝てない。そもそもプライドの高いこいつは、絶対に自分から折れることはない。
だからこの不毛なやりとりは、俺が我慢する形で毎回幕を降ろす。俺は篠原に負けを認めるよう携帯を取り出すと、先ほどやっていたゲームの続きをしようとする。すると、ちょうどいいのか悪いのかよく分からないタイミングで部室の扉が開かれ、そこから低身長でボブヘアーの、気弱そうな女子生徒が入室してきた。
「あの、ここって恋愛相談にのってくれる部活って聞いたんですけど、本当ですか?」
今にも「ふぇえ」とか言い出しそうな少女を、俺たちは手厚く歓迎する。
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