第28話変態

「ええ、本当よ。歓迎するわ。さぁ、座ってちょうだい」


 篠原はポンポンとソファーの空きスペースを叩く。


「それじゃお邪魔します……」


 言われた通り気弱そうな女子生徒は篠原の隣に座り、話す姿勢になる。


「えっと、一年の佐藤恵って言います」


 佐藤と名乗る女子生徒が軽い自己紹介をすませると、俺たちも彼女に続いて名前を名乗る。


「私は篠原三佳子。で、そっちのは……」


 サッと篠原から目を向けられ、名前を名乗る。


「俺は新藤刀鬼。よろしく」


「あ、はい。よろしくお願いします……」


 お互いの名前がわかったところで、早速本題だ。佐藤はモジモジとしながらも、はずかし気に相談してくる。


「えっと、それでですね……」


 上級生に囲まれているせいか、ものすごい緊張している様子の佐藤だが、そんな彼女に篠原は優しく声を掛ける。


「大丈夫よ。私たちは真剣にあなたの相談に乗るから。だからあまり硬くならないで」


 おいおいおいおい、誰だよこいつ。俺やハム子に対する時との態度が違いすぎるだろ。一瞬天使が舞い降りたのかと思っちゃったわ。俺が篠原の態度に驚いていると、佐藤は篠原に心を許したのか、先ほどよりも強張らずに話し始める。


「ありがとうございます。おかげで気が楽になりました。それでその、あまり話すことはないんですけど、クラスの笹川くんって男の子のことが好きで……」


 なるほど。ありふれた恋じゃないか。


「なるほどね。それで、その子とはどんな関係なの?」


「あーはい。クラスのすごくカッコよくてモテる子なんですけど、あまり会話とかはしたことがなくて……」


 ずーんと露骨に落ち込む様子の佐藤。まあ見るからにコミュニケーションは得意そうじゃないもんな。異性に対して話しかけたり連絡先を聞いたりする行為は、インキャにとってはハードルが高すぎるのだ。 

 佐藤に共感しつつも俺は黙って話を聞く。


「そう。でもあなた、見てくれはいいのだし、案外告白すれば簡単に付き合えるのではないかしら」


 篠原が覗き込むように佐藤の顔を見てそんなことを言う。確かに、佐藤の顔は整っている。いるよな、こういうコミュ障だからあまり友達は多くないけど、陰で男子に人気な女子。篠原に容姿を褒められた佐藤は、少しだけ嬉しそうにしながらも自分を卑下する。


「む、無理ですよ……。私なんかがいきなり告白なんてしても、笹川くんに迷惑かけちゃうと思うし……」


 恥ずかしそうに自虐する佐藤。これは、結構難しい案件だな。まあでもいつも通り、篠原が何かいい案を考えてくれるだろうと他力本願なことを思っていると、篠原は俺をジトーと見つめてくる。


「じゃあ新藤くん。何か案を出しなさい」


 不意に突然言われ、俺は戸惑う。


「え、なんで? いつも通りお前が出せばいいじゃん」


 俺が言い返すと、篠原は呆れ気味にため息をつく。


「あなた、まだこの部活に入ってから一度も役に立っていないのだけど……。少しぐらい戦力にならないの?」


 言いたい放題言われ、流石にカチンとくる。でも何も言い返せないのが悔しい。俺は怒りを抑えて案を捻りだそうと試みる。

 でもいい案つってもなぁ……。俺は適当に思いついたことを口に出す。


「それじゃあ、パンツを見せるっていうのはどうだ? ほら、女の子の下着を見ちゃうと、なんか意識しちゃうだろ。それを利用して告白……」


 俺が素晴らしい案を発案すると、目の前の女子二人は心底軽蔑したような視線を向けてくる。あの大人しそうな佐藤も、露骨に俺を見下すように。

「うわぁ……」


 ガチでドン引きしている。そんな佐藤の目を、篠原はサッと隠す。


「シッ! 見ちゃダメよ。目があったら妊娠させられるわよ」


「きゃー変態!」


 言いたい放題言われ、流石の俺も悲しくなる。そんなにダメかな。いい方法だと思うんだけど……。

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