第45話 百年後も


 着替えを終えたオリヴィアが奥の小部屋から出てきた。


 ――ジョルジェットがオリヴィアのために選んだドレスは、洗練されていて大人びているのに、気を惹くような甘さもあるデザインだった。


 ドレスの色は淡い藤色で、差し色として深い葡萄色が入っている箇所もある。――それらはリアムの瞳の色だ。彼の虹彩は陽光の反射で藤色に見えることもあるし、木陰では濃い紫に見えることもあったから。


 首回りのカットはスクエア――これによりデコルテはかなり露出されることになるのだが、とても上品に見えた。VやUのカットだと、胸の谷間あたりが一番深く切れ込んで開いてしまう。けれどスクエア型だと胸の上は直線のラインになるので、そんなに生々しくならない。


 半袖の袖部分は総レースで軽やかな作り。それと同柄の凝ったレースで、チョーカーもセットになっている。その首回りの飾りが清楚でもあり、不思議と小悪魔的でもあった。


 ――可愛い、可愛い、僕のオリヴィア――


 リアムは夢見るような心地で彼女を見つめた。


 宝石のように煌めいている。たぶんリアムは彼女に何度も恋しているし、このような瞬間が今後も絶えず訪れるのだろうという予感があった。


 そして不思議なことに、リアムは彼女がうんと年を取ったとしても、変わらず彼女を愛し続けるだろうと思った。――初めて会った日に、年齢よりも若々しい彼女に驚きを覚えたし、可愛らしい見た目がとても好みだと思ったのは事実だ。


 けれど今思うと、彼女がたとえ年相応の落ち着いた見た目だったとしても、自分はやはり強い興味を抱いたのではないだろうか。


 瞳の奥の輝き――そこに浮かぶ穏やかな光――陽だまりのような微笑み――内面の煌めきがおもてで弾けて、眩しかった。


 君に笑いかけられると、時間が止まったように感じる。


 ねぇ……ひとつだけ君にお願いがあるよ。どうか長生きしてほしい。


 兄が急にいなくなってしまって、気づいた――大切な人と過ごす時間は、一分一秒が宝物なのだと。


 僕は君が大好きだから、なるべく長い時間一緒にいたいんだ。


 長生きした君を見送って、墓にとびきり美しい白百合を供えたら、次の日に僕も逝きたい。


 ……そんなことを言ったら、君は笑うだろうか……。


 歩み寄って来たオリヴィアが華奢な手を差し伸べてくる。


 リアムは彼女の手を取り、イスから立ち上がった。


「――世界一綺麗だ」


 心からそう伝えると、オリヴィアが輝くような笑みを浮かべた。……それはまるで永遠のようなひと時。


「世界一は言いすぎよ」


「僕にとっては君が世界一だ。――今この瞬間も、十年後も、百年後も」


 オリヴィアがくすりと可笑しそうに笑った。


 ……本当のことなのに。信じていないんだね。


 リアムも穏やかな微笑みを浮かべた。


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