第42話 結ばれた絆
葵先輩に気持ちを伝え終え、一人家路に着いていると、住宅街の四つ角の電柱に寄り掛かり、桂華ちゃんが待っていた。
西の空へと陽が沈む中、彼女は背中に陽を浴びて、伸びた影が俺の元まで届いている。
「おかえりなさい、お兄さん」
「うん、ただいま」
桂華ちゃんは、いつもと変わらぬ柔らかい笑みで、俺を出迎えてくれた。
「ちゃんと、言いたいことは言えましたか?」
「うん。『今葵先輩と結婚したいとは思いません』って、はっきりと言ってきたよ」
「ならよかったです」
桂華ちゃんは安堵した様子でほっと胸を撫で下ろす。
「ごめんね、桂華ちゃんにまで余計な心配を掛けさせちゃって」
俺が謝ると、桂華ちゃんは首を横に振った。
「いえいえ、私の方こそ、お兄さんのお役に立てず、申し訳ありません」
「そんなことないよ。だって俺が葵先輩を断るきっかけをくれたのは、桂華ちゃんだから」
「えっ?」
桂華ちゃんが驚いた様子で目を見開く。
「だって桂華ちゃん、言ってくれたじゃないか。女の子はおっぱいだけが全てじゃないって。そこで俺、気づいたんだ。本当に女の子に求めてるものの正体に」
「そうなんですか?」
「あぁ……やっぱり女の子は、見た目だけじゃなくて、祖の人に対する思いやりだったり、性格的な面があるからこそ、魅力的に見えるんだなって」
うすうす気づいていたし、見た目だけで好きな人を決めるのは良くないと心ではわかっていても、欲望に負けている自分が今まではいた。
けれど、桂華ちゃんの涙を見て、思い知らされたのだ。
俺が仮に葵先輩と結婚してしまった場合、今まで培ってきた信頼関係をすべて失うことになると。
その時、真っ先に浮かんだのが、桂華ちゃんの存在だった。
愛実は、きっと俺がどんな選択を取ろうと、祝福してくれただろう。
でも、愛実はあくまで俺の家族。
これからも、否応なしに付き合って行かなければならない存在。
しかし、交友関係は、ひびが一つ入ってしまっただけで、すぐに脆く崩れていくもの。
俺がもっとも関係を構築してきた中で、失いたくないと真っ先に思ったのが、桂華ちゃんだったのだ。
「お兄さん……ふふっ」
「ちょ、なんで笑うの⁉」
「だって、お兄さんからおっぱい以外にも、女の子の魅力があるんだってことを聞く日が来るなんて、思ってもいなかったので」
「酷いな⁉ 俺だってたまには、そういう気付きだったり、日々成長してるんだよ」
「はいはい、そうですね」
まるで、弟を宥めるお姉ちゃんのような口調で笑う桂華ちゃん。
そんな彼女が、なんだか可愛らしく思えてきてしまい、俺もつい笑みが込み上げてきてしまう。
「まあ、てな感じで、これからも色々とよろしくね」
「はい! こちらこそ、よろしくお願いします!」
こうして、お互いに固い握手を交わす二人。
また一つ、仲が進展した瞬間であった。
しかし、これがまだ、本の序章に過ぎないということを、この時の俺は、知る由もないのであった。
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