第43話 認めてくれない妹
翌朝、俺は晴れやかな気分で学校へと登校していた。
葵先輩からの告白を断ったことで、新たに自分の中で恋愛に対する指標みたいなものが芽生えた。
それが正しいのかは分からない。
でも、以前よりもかなりましになったと思う。
これで俺も、モテ男になるために、自分磨き頑張るぞー!
「どしたのお兄ちゃん? なんか今日は随分と機嫌良さそうだけど」
すると、隣を歩いていた妹の愛実が、不思議そうに首を傾げて尋ねてくる。
俺はキラーンと前髪を掻き上げた。
「ふっ……今日から俺はNEW朝陽として生まれ変わるのさ」
「うわぁ……なんかお兄ちゃんがまた変なこと言ってる」
俺の格好つけたセリフに対して、しらけた目を向けてくる我が妹。
しかし、そんな視線などちっとも心に刺さることはない。
なぜなら、今の俺はNEW朝陽。
アップデートされた状態なのだ。
妹にどんな視線であしらわれようとも、傷つくこ要素などどこにもないのである。
「はぁ……また面倒なことにならなきゃいいけど」
ボソッと小声で何か言いながら、呆れたため息を吐く愛実。
俺は気にすることなく、背筋を伸ばして手と足を左右交互に出して歩いて行く。
しばらくして、住宅街から学校沿いの大通りへと出た。
一つ目の信号の四つ角に、いつものように桂華ちゃんが居住まいを正して待っていてくれていた。
「おはよう桂華ちゃん」
「お、おはようございますお兄さん?」
俺がここ一年で一番イケボな声を出して挨拶を交わすと、桂華ちゃんはキョトンと首を傾げた。
「どうしたんですかお兄さん? なんだかすごく調子がよさそうに見えますけど」
「気にしないで桂華。お兄ちゃん今、変なスイッチ入っちゃってるだけだから」
愛実が気にするなといった様子で桂華ちゃんの腕を引く。
「おいおい、そんな兄をぞんざいに扱うなって。俺はただ、NEW朝陽に生まれ変わっただけさ」
またもや前髪を靡かせてカッコつけてみせると、今度こそ愛実にドン引きの視線を向けられる。
「桂華行こ。こんな不審者に付きまとわれてたらろくなことないよ」
「おい愛実。不審者とは心外だな。俺は極めてまっとうな部類に入るぞ?」
「今までの言動を顧みて、自分の胸に手を当ててよく考えてみな?」
俺は恵に言われた通り、自身の胸に手を当てて目を瞑る。
「うむ、いたって普通だな」
「どこが? 口から出る言葉第一位がおっぱいのおっぱい星人なのに!?」
「ふっ、残念だったな愛実。今の俺はもう、おっぱい星人ではないのだ。卒業したんだよ」
「あーはいはい。そうですか」
愛実は呆れた様子でしっしと手を振る。
「さてはお前、信じてないな」
「当たり前でしょ。昨日の今日まで『おっぱいおっぱい』言ってたお兄ちゃんが、卒業なんてできるわけないもん」
なるほどな、確かに言われてみれば、おっぱいを卒業したという証拠がない。
俺がただ、見栄を張っている痛い奴にしか見えていないのだろう。
「お兄さんは、女の子の魅力に気づいたんですよね?」
とそこで、天使のようなフォローを入れてくる桂華ちゃん。
やっぱり桂華ちゃんしか勝たん。
「そうそう。桂華ちゃんの言う通り、俺は女の子の魅力に気づいてなかった。それに気づかせてくれたのが、まごうことなき桂華ちゃんなのさ!」
「も、もうお兄さん……恥ずかしいのでやめてください」
俺の力説に、頬を染めて身を捩る桂華ちゃん。
うんうん、やっぱりこういうしおらしい仕草だったり、可愛らしいところが、桂華ちゃんの良さだよな。
すると、俺と桂華ちゃんのやり取りを見ていた愛実が、ちょっぴり納得が行かなそうな様子で眉根を顰めたかと思うと、自身の胸元をちらりと見つめた。
刹那、何を血迷ったのか、制服のシャツのボタンをプチッ、プチッと外し始める愛実。
「なっ、愛実⁉ 何してるんだ⁉」
「愛実ちゃん⁉」
二人の制止の声も届かず、愛実は公衆の面前でシャツのボタンを外していき、胸の谷間を曝け出す。
必然的に、俺の視線は妹の胸元へと向かってしまう。
あぁ……なんて素晴らしくて柔らかそうな胸なんだ……。
「お、お兄さん⁉ なに鼻の下伸ばしてるんですか⁉」
「はっ⁉ いかん、いかん」
桂華ちゃんの叱咤の声で、ようやく我に返る。
慌てて、鼻の下を指で擦り、なんとか取り繕う。
てかよくよく考えたら、妹の成長したEカップおっぱいを見てデレデレするとか終わってんな俺。
「なーんだ。やっぱり何にも変わってないじゃん」
愛実はにやにやとした笑みを浮かべて満足げに頷くと、役目は終わったと言わんばかりにボタンを留めていく。
「なっ、そんなことないぞ。俺は変わったんだ!」
「そうだよ! 確かにまだ長年の後遺症は残ってますけど、お兄さんは健全さんになりつつあるんです」
桂華ちゃん、庇ってくれるのは嬉しいけど、それフォローになってないから!
「はいはい。お兄ちゃんがおっぱい好きなのはよくわかったから、学校行くよ。早くしないと遅刻しちゃう」
「あっ、おいこら愛実、待てって!」
結局、妹の奇襲により、俺のおっぱい好きが改善したことを認めてもらうことは出来なかった。
てか冷静に考えて、外でいきなりシャツを脱ぎだして、実の兄に谷間を見せつけてくるとか、妹も妹で大概だよな。
これは、しっかりあとで教育を施す必要がありそうだ。
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