第39話 呼び出し

 葵先輩への答えが出ぬまま、あっという間に一日が過ぎてしまった。

 未だに俺の中で、明確な答えは出ていない。

 俺は、思い足取りのまま、生徒会室へと向かう。


「お疲れ様です……」

「あら、新治君お疲れ様。って、どうしたのかしら?」


 生徒会室に入るなり、霧ヶ丘会長に心配されてしまった。

 それほどに、今の俺は思い悩んでいる顔をしているのだろう。


「いやっ……まあ色々とありまして……」

「そう。まあ新治君が考え事をしている時は、ろくでもないことだからいいのだけれど」


 酷いなぁ。

 確かに普段は、おっぱいの事ばかり考えてますけど、真剣な悩みだってありますからね?


 霧ヶ丘先輩に恨み節の視線を送るものの、先輩は物怖じせずにさっと艶やかな髪を手で払う。


「実は今日、生徒会にお客さんが来ているのよ」

「お客さん?」

「えぇ、新治君も是非一緒に来て欲しいのだけれど、いいかしら?」

「分かりました」


 会長がさっと椅子から立ち上がったので、俺も貴重品だけポケットに仕舞い込み、荷物を置いて付いて行く。

 校内を歩いて、向かったのは応接室。

 大体ここは、来賓のお客様だったりが来るところだ。

 一体、生徒会に用事がある人物とは、誰なのだろうか?


「失礼します」


 会長がコンコンと扉を二回ノックすると、中から若い女性の声が聞こえてきた。

 その声音に、聞き覚えがあり、俺は思わず背筋を伸ばしてしまう。

 俺の様子など知る由もなく、会長は促された通り、応接室の扉を開いた。


 会長の後に続いて中へと入る。

 そこには、見知った顔が革張りの重厚なソファに腰掛けていた。


「こんにちはー」


 グラビアアイドル三保みほこと、三保葵先輩は、笑顔を振りまきながら手を振ってきた。


「お久しぶりです。葵様」


 霧ヶ丘先輩が、恭しく一礼する。


「もーっ、みどりちゃん、その呼び方やめてってばぁー! 確かに私はミス可愛美グランプリ獲ったけど、もうそれは過去の事。今はグラビアアイドル三保みほなんだから、もっと気楽に呼んでってば!」

「そうでした。すみません。つい昔の癖で……」

「相変わらず、みどりちゃんは可愛いなぁー」


 霧ケ丘会長が高校一年生の時、葵先輩は高校二年生。

 聞いた話によれば、葵先輩には、コンテストの件で色々とお世話になったとのこと。

 詳しくは知らないけど、少なくとも、ミス可愛美の受賞者がここに勢ぞろいしたわけだ。

 先輩後輩同士のやり取りが行われる中、葵先輩の視線が俺の方へと向けられる。


「やっほーダーリン♪ 来ちゃった!」

「ダーリン……どういう事かしら?」


 葵先輩の言葉に、霧ヶ丘会長が真っ先に反応した。


「えっ、ダーリンはダーリンだよ。ねっ、朝陽♪」

「えぇっと……ここでは止めてもらえますかね、葵先輩」

「いいじゃない。だって私たち、結婚するんだから」


 何でもないように、爆弾発言をかます葵先輩。


「新治君、今葵先輩から聞きづてならない言葉が聞こえた気がするのだけれど、気のせいよね」

「気のせいじゃないよー! 私は朝陽と結婚する。そうだよね、朝陽?」


 葵先輩に問われて、俺はから笑いをすることしか出来ない。


「まあ、この件は後で新治君から根掘り葉掘り聞くことにするわ」


 会長は、一旦矛先を収めて、葵先輩へ向き直る。


「それで、三保先輩は今日はどういった用件で来たんですか?」

「んー? もちろん、ミス可愛美コンテストについての協賛でね。歴代受賞者にインタビューしたいんだってさ」

「なるほど、それで私と一緒に当時のことなどを語って欲しいということですね」

「そういうこと。まさかダーリンに過去のことを赤裸々に語ることになるとは思ってなかったけどね」


 そう言いながら、葵先輩はウインクを送ってくる。

 その都度、会長から鋭い視線が注がれる。

 俺は苦笑いを浮かべて、その場をやり過ごすことしか出来ないのであった。

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