第38話 答えのない迷宮

 葵先輩からプロポーズという名の婚姻届けを受け取ってから、数日が経過。

 あれから、特に葵先輩からのアプローチもなく、変わらぬ日常を過ごしていた。

 今日も早速、レッツおっぱい!

 というわけにもいかず、俺は頭を抱えて悩んでいた。


「どうした朝陽? そんなに頭抱えて?」


 俺が結論を出すことが出来ずに苦しんでいると、クラスメイトの雄人が心配そうに声を掛けてきてくれる。

 一人で考えても答えが出そうになかったので、ここは他人の意見を聞いてみることにした。


「なぁ、もし仮に、雄人が今まりんちゃんに結婚申し込まれたらどうする?」

「えっ、結婚⁉」


 唐突過ぎた質問だったらしく、雄人はあからさまに動揺していた。


「うーん……そうだなぁ……」


 雄人は眉間に皺をよせ、顎に手を当てて悩んでから、恐る恐る口を開く。


「まずは……まりんちゃんのご両親に挨拶しに行くかな」

「結婚する気はあるってことか?」

「いや、分かんねぇよ。まだ俺達高校生だぜ? 結婚なんて普通考えて恋愛なんてしないだろ」

「だよなぁー」


 雄人の言う通りである。

 そもそも、結婚なんて、学生には荷が重すぎる事案なのだ。

 けれど、それが今目の前で起こってい待っているわけで……。

 目を背けられる立場にもいないのだ。


「何があったか知らねぇけど。結婚なんて考えずに、まずは告白して付き合ってみるところから始めてみたらどうだ?」

「それはそうなんだけどさ……」

「んだよ、その煮え切らない表情は」

「事情が事情というあ、お付き合いから始める流れにもいかなくて」

「はぁ? どういうことだよ? もう少し詳しく説明してくれよ」


 雄人がいらだった口調になっていく中、後ろからタッタッタっと軽快な足音が聞こえてくる。


「おはよー! って、どうしたの? そんな辛気臭い顔して?」


 上白根は、俺の顔を見るなり、若干引き気味に尋ねてくる。


「よう上白根。お前は今日も悩み一つなさそうでいいな」

「私だって悩みぐらいあるっての! てか、新治の方がおっぱいの事しか頭にないでしょうが!」

「おっぱい……そっか、おっぱい……!」


 上白根に言われて、俺は一瞬何か閃いたように思考がクリアになるものの、すぐに首を横に振り、そのまま机に突っ伏してしまう。


「どうしたの新治?」

「さぁ? さっきからずっとこんな感じなんだよ」


 上白根と雄人が不思議そうに俺を見つめてくる中、俺は目を閉じて葵先輩のことを考えていた。

 俺にとって、結婚に求める条件とは、一体何なのだろうかと……。

 付き合いたい条件は、おっぱいが大きくて、揉みしだいても許してくれる存在と豪語していたけど、結婚となるともっと先のことまで考えなくてはいけないわけで、将来何の職業に就きたいのかも決まっていないの俺にとっては、無理難題だった。


「おはよう光莉、小山君」


 すると、天使の声が聞こえてきた。

 ちらりと見上げれば、寺山さんがそこにはいて、彼女はにこりとした笑みでこちらを見据えてきていた。


「おはよう新治君。どうしたの、元気がないみたいだけど?」

「おはよう寺山さん。ちょっとね、色々あって悩んでるんだ」

「そうなの? もし言える範囲で良ければ、私が相談に乗るよ?」

「ありがとう。でもこれは自分の問題だから、気持ちだけ受け取っておくね」


 そう言って、俺は再び、机の面を一点を見つめたまま考え込む。


「??」


 俺が考え込んでいる間も、寺山さんは不思議そうに俺を見つめていたが、今は寺山さんのおっぱいにうつつを抜かしている暇もないくらい、考えなきゃいけないことだらけだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る