第33話 謎の美女

 市民プールを後にして、俺たちは家路へと着いていた。

 寺山さんと上白根と別れ、今は桂華ちゃんと二人で西日を浴びながら歩いている。


「いやぁごめんね桂華ちゃん。流石に今日のは無かったよね」

「いえいえ、私はただ、お兄さんについていくだけなので」


 その健気な姿勢、なんという忠誠心……。

 ありがたすぎてたまらない。


「桂華ちゃん」

「はい、なんですか?」

「桂華ちゃんは人目に慣れて、何を目指してるの?」

「えっ?」

「ほら、寺山さんはミスコンに出るためっていう目標があるけど、桂華ちゃんはどうして人目を克服したいのかなと思って」


 俺が尋ねると、桂華ちゃんが足を止め、その場に立ち止まる。

 振り返ると、桂華ちゃんは俯いたまま動かなくなってしまう。


「もしかして、変なこと聞いちゃったかな? 言いたくないなら、無理には聞かないよ?」

「いえっそのぉ……理由はちゃんとあるんです。ただ……お兄さんにはどうしても言えない理由がありまして……」


 言葉につかえつつ、必死に誤解されないよう、慎重に言葉を選びながら発言している。


「そっか。まあ桂華ちゃんが言える時になったらでいいよ」

「……ごめんなさい。ありがとうございます」

「気にしないで。一緒にゆっくり克服して行こう」

「はいっ!」


 そこで話が途切れて、どちらからでもなく歩き出す。

 お互いに微妙な距離感を保ちながら、オレンジ色に染まった住宅街を歩いて行く。

 桂華ちゃんの家へ向かう通り道に、俺の家がある。

 一旦通り過ぎて、桂華ちゃんを家に送るのが恒例なのだが、この日は違った。

 なぜなら、スーツケースを横に置いた、ワンピース姿の女性が家の前に立っていたから。


「ん……?」

「誰ですか?」

「さぁ?」


 見覚えのないシルエット。

 背中辺りまで伸びる黒髪を靡かせ、麦わら帽子を被っている様子は、ひまわり畑にいる少女のよう。

 ただ、ワンピース越しにも分かる、胸元の膨らみが、発育の良い女性であることを強調している。


 すると、はっと何かに気づいた様子で、女性が顔をこちらへと上げた。

 透明感溢れる姿は、まさに清楚という言葉がふさわしい。

 視線と視線が交わる。

 刹那、女性は俺の顔を見るなり、ぱぁっと表情を明るくして、こちらへ近づいてくると、そのままガバっと俺に抱き着いてきた。


「やっと見つけた! マイダーリン♪」

「……はい!?」


 ダーリン!?


「お兄さん⁉ その女性とどういう関係なんですか⁉」


 いや、それはこっちが聞きたいんですけど⁉


 女性が俺から離れると、今度は手を包み込むようにして掴んでくる。


「ずっと君の視線を感じてたわ。やっぱり、私のおっぱいをちゃんと見てくれるのは、あなたしかいない」

「……はい?」


 新治朝陽16歳。

 見知らぬ人に、おっぱいを見ることを褒められました。

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