第29話 休日デート
迎えた週末、俺と桂華ちゃんが訪れていたのは、近所にある市民プールだった。
夏休みを開けたとはいえ、まだまだ残暑残る九月の太陽は、突き刺さる様な日差しを地上へ送り届けている。
更衣室で水着に着替えて、塩素の水で消毒をして、プールサイドで桂華ちゃんがやってくるのをしばし待つ。
市民プールは、子供から大人まで、老若男女問わず多くの人で賑わいを見せている。
夏休みが終わっているということもあり、お客さんはそれほどいないかと思っていたが、まだまだ残暑続く九月、みんな涼みたいという気持ちは同じらしい。
そして何より、普段露出しない肩や胸元、お腹周りにおへそ、尻のラインや太ももを惜しげもなく晒している美女たちが集まる光景は、まさに俺にとってはパラダイス。
キャピキャピはしゃぎまわっているビキニのお姉さんたちを見て、つい頬が緩んでしまう。
「お兄さん……」
とそこで、俺の頬が思い切り抓られた。
「イデデデデ……」
グリグリと頬を抓られ、最後にピンっと思い切り弾かれてしまう。
衝撃的な痛みが突き刺さる中、俺が隣へ視線を向けると、そこには頬をぷくりと膨らませた、水着姿に身を包んだ桂華ちゃんが立っていた。
ピンクの花柄のフリルの水着は、小柄な桂華ちゃんが一回り大人びたように見える。
「もう……せっかく私の水着の感想を言ってもらおうと思ったのにぃ」
桂華ちゃんが不貞腐れた様子でぷぃっとそっぽを向いてしまう。
「ご、ごめんなさい……」
「まあでも仕方ないですね。私には、お兄さんの求めているものがありませんから」
そう言って、桂華ちゃんは自虐的な笑みを浮かべてしまう。
正直、なんと返答したらいいのか、非常に困る。
「で、でも! 桂華ちゃんの水着は凄く似合ってるよ」
「ふん。本当に思ってるんだか」
桂華ちゃんは腕を組み、唇を尖らせる。
「本当だって! だって今俺、桂華ちゃんの事この場で抱き締めちゃいたいぐらいに愛おしく思ってるもん!」
「なっ……なに言ってるんですか……バカ」
正直な気持ちを吐露すると、桂華ちゃんは顔を真っ赤にしてジトリとした視線を向けてくる。
「まあでも、そこまで言うなら、今日は特別に、私の事ハグしてもいいですよ?」
今度は腕を後ろに回して、ゆらゆらと身体を揺らす桂華ちゃん。
えっ……ちょっと待って、これってつまり、ハグしろっていうサインなの⁉
「いやいやいや、流石にそれは……人もいっぱいいるし、恥ずかしいと言いますか」
「ふぅーん。下着姿のおっぱいはガン見するのに、小ぶりの女の子をハグすることは出来ないんですね」
「んぐっ……」
桂華ちゃんから、容赦ない矢が突き刺さる。
「お兄さんのヘタレ」
「ゔっ……胸が……胸がぁぁぁぁーーーー!!」
某ム○カ見たいに自身の胸元を抑えて、その場に膝をついてしまう。
俺のライフはもうゼロよ。
「はぁ……お仕置きはこの辺にしておいて……」
突っ伏している俺の元へとしゃがみ込み、桂華ちゃんは優しく頭を撫でてくれる。
「お兄さん、今日は私の事、絶対に見放さないでくださいね♪」
そう言う桂華ちゃんの表情は、どこか恍惚満ちていた。
妖艶さも感じるような口ぶりに、俺は思わず生唾を飲み込んでしまう。
「お、おう……」
俺は、情けない声で返事を返すことしか出来ない。
「それじゃ、早速行きましょうか! ここで話し込んでいてるより、プールでいっぱい遊びたいですし!」
桂華ちゃんは俺の手を取って立ち上がらせると、そのままプールサイドへと引っ張っていく。
「ちょっ、桂華ちゃん。走ると危ないよ⁉」
そんな、過保護じみた言葉を漏らしつつ、俺と桂華ちゃんの市民プールデートが幕を開けた。
自分が迷惑をかけた分、桂華ちゃんを思う存分楽しませてあげようと、心の底から思うのであった。
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