第28話 お怒り桂華ちゃん

「け、桂華ちゃん?」


 ぷぃっ!


「あの……そろそろ機嫌を直してもらえるとありがたいんですけど」

「ふんっ!」


 昼休み、空き教室にて、俺は桂華ちゃんにそっぽを向かれてしまい、ショックのあまり床に手をついて跪いてしまう。


「ダメだ……桂華ちゃんに完全に嫌われた」


 まさか、桂華ちゃんがこんなにもご立腹だとは思っても見なかった。

 愛実にはちゃんと桂華ちゃんのことを見てあげて欲しいと言われていたけど、俺に遠回しに忠告してきてくれていたんだなということを今さらながらに理解する。


「えっと桂華ちゃん?」

「なんですか?」


 桂華ちゃんは、目を細めたまま、ジトーッとした視線をこちらへ向けてくる。

 拗ねている顔も可愛い……じゃなて!


「あの……俺、何か桂華ちゃんの癪に障るようなことしちゃったかな? もしそうなら、謝らせてくれ」

「自分の胸に手を当ててよく考えてみてください」


 桂華ちゃんに言われて、俺は自身の胸元へ手を当ててみる。

 しかし、桂華ちゃんに何か失礼なことをした覚えがまるでない。


「思い出しましたか?」

「……」

「その様子だと、全く身に覚えがない様子ですね」

「はい……申し訳ありません」


 思い出すことが出来ず、俺は深々と頭を下げて謝罪する。


「……私、先輩にトレーニングに付き合って欲しかったのに、ここ数日、何度も破りましたよね?」

「あっ……」


 そこでようやく、桂華ちゃんとのやり取りを思い出す。



 ◇◇◇



「お兄さん! ちょっとご相談があるんですけど……」

「悪い桂華ちゃん! 今日はとっても大事な予定があるんだ! それじゃ!」


 また別の日。


「お兄さん、今日の放課後って、何か予定ありますか? お兄さんがお暇であれば、ちょっと寄り道したい所があるんですけど……」

「ごめん桂華ちゃん。申し訳ないんだけど、今日はどうしても外せない用事があるんだ!」

「そうですか……なら、仕方ないですね」



 ヤベェ……。

 俺、めちゃくちゃ桂華ちゃんからのお誘い断ってるじゃん。

 ここ最近、寺山さんのミスコンに向けての特訓に付き合っていたせいで、桂華ちゃんを蔑ろにしてしまっていた。

 どうやら桂華ちゃんは、俺の付き合いが悪かったことに対して腹を立てている様子。


「お兄さんにとっての大事な予定って、何だったんですか?」

「えと……そのぉですね……」


 言えない、寺山さんのおっぱいを拝むためなんて、言えるはずがない。


「本当にすいませんでした! 桂華ちゃんのことをおろそかにしてしまいました!!!」


 俺は深々と頭を下げて、桂華ちゃんに謝罪の言葉を口にすることしか出来ない。


「私、別に謝って欲しいとは言ってないんです。何をしていたのか聞いているんです」


 どうやら、こんな誤魔化し程度で許してくれることではないらしい。


「それで、何してたんですか? 怒らないので正直に言ってみてください」

「え“っ……⁉」

「私よりも大切な予定って、一体何をしてたんですか?」

「そ、それはえぇっと……あ、あははははは……」


 俺が適当にお茶を濁していると、再び桂華ちゃんの視線が鋭い物へと変化する。


「おっぱい」

「へっ?」

「愛実から聞きました。お兄さんはおっぱいを求めて、私の予定を断ったんですよね?」


 ダメだ、全部バレテーラ。

 つーか愛実の野郎、また告げ口しやがったな……。

 後で懲らしめてやる。


「今、愛実ちゃんが私に告げ口したことを恨みましたね?? 愛実ちゃんは悪くありませんよ。聞いた話だと、お兄さんが二人の美少女を部屋で下着姿にさせていたらしいじゃないですか」

「誤解だ! それは二人が下着姿を見られても恥じらうことが無いように、俺がエロい目で見ることで慣れるというトレーニングをしてただけなんだ!」


 本当のこととはいえ、改めて口にすると、とんでもないことをしているなと我ながら思う。


「なっ……なんでお兄さんがそんなハレンチなことに付き合わなきゃいけないんですか⁉」

「そ、そりゃまあ……俺が変態だから?」

「お兄さんはたらしです。そうやって、すぐ他の女の子に目移りするんですから」

「か、かたじけない……」


 おっぱいばかりに目移りしてしまって、女の子を本能のままに追いかけているからこそ、自分が情けない男であることは十分に理解している。

 だからこそ、桂華ちゃんからの言葉がズキっと胸に刺さった。


 桂華ちゃんは拗ねたまま、俺の手を掴むと、そのまま自身の胸元へと持っていく。


「なっ⁉ 桂華ちゃん⁉ 何してるの⁉」


 突然の行動に、俺は思わず目をパチクリとさせてしまう。


「お兄さんが他の女の子をエッチな目で見るのが悪いんです。私なら、いつでもそういう目で見てくれていいんですよ?」


 頬を軽く染めて、上目遣いにとんでもないことを言ってくる桂華ちゃん。

 今のセリフを他の人に聞かれていたら、俺はきっと処刑されていただろう。


 そう言うことを平然と言えてしまう桂華ちゃんは、小悪魔な才能があると思う。

 プチデビルのコスプレとかさせて見たら、凄く似合いそうだなとか考えてしまった


 うん、それがいい!

 とまあ、頭の中でくだらない妄想を繰り広げていると、桂華ちゃんが俺の意識を引き戻すようにして、クイっと服の袖を引っ張ってくる。


「なので、お兄さんには女の子に目移りした罰として、今度の休日、私とデートに付き合ってもらいます」

「デ、デート⁉」

「はい! 何かご不満でも?」

「い、いえ……滅相もございません」


 桂華ちゃんの表情は笑っているものの、その裏にある目は全く笑っていなかった。

 俺は圧に負けて、首を縦に振ることしか出来ない。

 桂華ちゃんの奴隷に成り果てた瞬間である。

 小悪魔なんかじゃなかったわ、桂華ちゃんは氷の女王様に違いない。


 こうして、俺は寺山さんにうつつを抜かして、桂華ちゃんを蔑ろにした罰として、次の休日に桂華ちゃんとデートをすることになった。

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