第18話 彼女と妹

 昼休み、俺は一人、頭を抱えていた。


「どうした朝陽? いつにも増して死んでるな」

「ほっといてくれ雄人、脳の処理が追い付かなくてフリーズ状態になってるだけだから」

「いや、それむしろ問題だろ。何があったのか言ってみ?」

「……断固拒否」


 言えるわけがない。

 三人の貧乳美少女達に、バストアップを頼まれたなんて……。

 しかも、雄人は生粋の貧乳派。

 俺がこのことを話そうものなら――


『朝陽、今すぐ断りを入れて来い! 貧乳は正義だ。絶対に大きくしちゃダメなんだ!』


 とか言ってくるだろうし。


「雄人くん…・・・!」


 とそこで、教室の後ろのドアから、雄人へキラキラとした瞳を雄人に向けて、胸元あたりで軽く手を振っている女子生徒の姿があった。

 それに対して、雄人は笑顔を振りまく。


「おう、まりん、今行くよ。悪い、彼女んとこ行ってくるわ」


 そう、この男、実は彼女持ち。

 リア充なのである。


 雄人の彼女である青砥あおとまりんちゃんは、セミロングの茶髪髪に、可愛い系の小顔で、まん丸の目に小さい鼻、ニコっとした時の艶めいた唇が特徴的な美少女。

 桂華ちゃんと同じ水泳部に所属しており、そのあどけない可愛らしさから、『水泳部のリトルマーメイド』という美称で呼ばれている。

 

 ちなみに、まりんちゃん手を振っている胸元あたり目を向けると、残念なことに、紺色のベストを着こなした胸元は、平坦な更地があるのみ。

 確かに、顔は『水泳部のリトルマーメイド』と呼ばれている通り、誰しもが認める美少女だが、ぺったん姫であることに変わりはない。

 やはり俺は、可愛い系で売っている貧乳女子よりも、巨乳の女の子の方がそそられる。


 改めて俺の好みの女の子(性癖)について自己完結して、まりんちゃんの小さな胸元を観察していると、まりんちゃんが俺の視線に気が付き、警戒心100%の視線を向けてくる。

 まさに、毛を逆立てた猫。

 身を縮こまらせて、自身の胸を抱くようにして胸元を隠しながら、嫌悪の視線を向けてくる。


 まりんちゃんには元々、俺のことが好きじゃないのだ。

 まあ別に、友人の彼女に嫌われていても全然いいけどね。


 まりんちゃんの元へ辿り着いた雄人が、苦笑しながらこちらへアイコンタクトを向けてくる。

 どうやら、『誤解は解いておくから任せとけ』とでも言っているようだ。

 そのまま二人な、仲睦まじい様子で廊下へと出て行ってしまう。


「はぁ……」


 俺は再び一人になり、ため息を吐いてボケーッとしていた。


「お兄さん……おにいさーん!」


 すると、今度は誰かの妹が兄を呼んでいる。

 誰だよ兄貴属性のクラスメイト。

 そんなことを思いつつ、声の方へ顔を向けると、教室前の扉から、こちらへ手を振っている桂華ちゃんと視線がぶつかった。


「け、桂華ちゃん⁉ どうして教室に!?」


 昼休み、俺の元へ桂華ちゃんが舞い降りた。

 桂華ちゃんがちょいちょいと手招きしてくるので、俺はそそくさと席を立ち、教室の扉へと向かって行く。


「桂華ちゃん、どうしたの急に俺の教室なんかに来て!?」

「ちょっといいですか? 二人で話したいことがあります」


 そう言って、桂華ちゃんは可愛らしい瞳を向けてくる。


「話したい事?」


 俺が尋ねると、桂華ちゃんはちらちらと辺りを気にしてから、秘密めかした様子でつぶやいた。


「ここだと目立つので、出来れば二人きりになれるところに行きませんか?」

「お、おう……分かった」

「心当たりがあるので、付いてきてください。こっちです」


 俺は桂華ちゃんに連れられるがまま、二人きりになれるところへと向かうのであった。

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