第14話 しおらしい上白根

 会議室へ向かうと、各部活の部長たちが各々会議室内で雑談に興じていた。

 そんな中、テニス部部長である上白根光莉かみしらねひかりが、こちらに気づいて近づいてくる。


「お疲れ新治―! って、どうしたのその跡?」

「気にしないでくれ上白根。これは戦火の負傷なんだ」

「はい?」


 何言ってんのこいつ?といった様子で首を傾げてくる上白根。


「会議を始めますので、みなさん席についてください」


 俺と上白根の会話を遮るようにして、教卓に立った森野が声を張り上げた。


「それじゃ、また後でー!」

「おう」


 上白根と別れて、俺は森野の隣へと向かって行く。


「今から資料を配りますので、一人一部ずつ持って隣の人へ配っていってください」


 森野からの指示があり、俺は各列の一番前に座っている人に、資料を人数分配っていく。

 今日の議題は、文化祭の各部の模擬店出店についての説明。

 飲食系は、部活動のみが出店可能となっていて、毎年部長会で話し合いが行われることになっているのだ。

 文化祭で出店する品目の提出期限や、必要機材などの申請書などを配り、期限厳守でと説明して、部活会の会議はつつがなく終了。


 会議が終わると、これから部活へ向かって行くと思われる部活会に参加していた部長達が一斉に会議室から出ていく。


「ふぅ……」


 一仕事終えて、森野が息を吐く。


「お疲れ様」


 俺がねぎらいの言葉を掛けると、森野はじとーっとした視線を向けてくる。


「別に疲れてないわよ。これぐらい出来て当然でしょ」


 腕を組んでむすっとする森野。


「だな、流石は次期生徒会長森野」

「ふん……別にそれほどでもないけど」


 そういうものの、煽てられたのが嬉しかったのか、口角が自然と上に上がっていて隠しきれていない。


「お疲れ、新治」


 すると、俺と森野の元へ、上白根がやってくる。


「おう、上白根。お疲れさん」


 俺が上白根に労いの声を掛けると、彼女は指先を突き合わせてそわそわとしていた。


「ん、どうしたんだ?」

「あのさ……ちょっと話したいことがあるんだけど、この後時間あったりするかな?」


 上白根はこちらを窺うようにして尋ねてくる。


「うん。この会議室の片付け終えたらで良ければだけど」

「じゃあ、教室で待ってる」

「分かった」


 そう言い終えると、上白根はスっと回れ右をして、会議室を出て行ってしまう。


「どうしたんだアイツ?」


 上白根にしては珍しいしとやかな態度に、俺が疑問を抱いていると、椅子を引く音が聞こえてきた。


「さっ、上白根さんを待たせるわけにもいかないから、さっさと会議室の机を元に戻しちゃいましょ」


 森野はコの字形になっている会議室の机を、教室のように平行に戻していく。

 俺も続くようにして、森野と一緒に会議室の机の並びをちゃちゃっと元通りにする。


 二人がかりでやれば、会議室の机は十分ほどで元の配置に戻すことが出来た。

 手についた埃を払うようにして、森野がパン、パンと手をはたく。


「さっ、私たちも撤収するわよ」

「おう、カギ職員室に返してくるよ」

「それは私がやっておくわ。新治は上白根さんの所へ行ってあげなさい」

「いいのか?」

「当たり前でしょ。女を待たす男はモテないわよ?」

「悪い、恩に着る」

「別に、大したことじゃないわよ」

「それじゃ、後は頼んだ」


 しっしと手で俺を追い払う仕草を見せる森野に見送られて、俺は一足先に会議室を後にする。

 そして、上白根の待つ教室へと向かって行くのであった。

 果たして、上白根の話したいこととは、一体何なのだろうか?

 予想は全くつかなかった。

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