第15話 上白根はおっきくしたい!

「上白根―?」


 教室の扉がガラガラと開くと、教壇に腰を下ろして、足をプラプラとさせながら、上白根は窓の外を見つめるようにして夕日を眺めていた。

 その姿はどこか絵画じみていて、とても絵になる。


「おっ、やっと来た」


 上白根は俺の存在に気づくと、「よっ」と軽やかにジャンプして、教壇から飛び降りる。


「遅くなっちゃってごめん。手短に済ませられるようにするから」

「別にいい。今日は元々部活出る予定もなかったから」

「いいのか?」

「一日ぐらい平気。それよりも、アンタに大切な話があったから」


 部活命!がモットーともいえる上白根が、部活を休んでまで俺に話したいこととは、一体何だろうか?


 真剣な表情を浮かべる上白根を見て、思わずこちらも身構えてしまう。

 誰もいない放課後の教室には夕日が差し込み、辺りはオレンジ色に輝いている。

 その教室内で、人目を忍ぶように向かい合う二人。


 なんだか、今から俺、上白根に告白でもされちゃうんじゃないかという雰囲気が漂っている。


 いや、それはないか。

 だって上白根は、俺が巨乳好きだって知ってるわけだしな。


 大切な話と言っても、テスト範囲教えて欲しいとか、宿題写させて欲しいとか、そういう類のお願いだろう。

 そう決めつけて、俺が気楽に尋ねた。


「それで、大切な話ってなんだ?」

「うん……えっとね……」


 しかし、俺の予想とは裏腹に、上白根の顔は、夕日に照らされているとはいえ、明らかに真っ赤に染まっている。


 あれっ……⁉

 どうして頬なんか紅潮させちゃってるわけ?


 ちょっと待て……!

 上白根は今から何を言おうとしてるんだ⁉


「私ね……そのぉ……」


 いや待て待て、落ち着くんだ俺。

 相手はあの上白根だぞ。

 そんな……告白なわけ……。


「新治……私ね……」


 いやいやいやいや……絶対にないって。

 そうだよな、上白根!?


 テッテレー!って言いながら、後ろからドッキリのプラカード出す布石に過ぎないんだよな⁉


 上白根は頬を朱に染めながら、意を決したように握りこぶしを胸元に当てて、顔を上げて言い放った。



「新治におっぱいをおっきくして欲しいの!」



「……」



 彼女の告白に、教室内が静まり返る。


「えっ……今、なんて?」


 予想を軽く超えてくる爆弾発言が、上白根の口から飛び出したような気がして、俺は思わず聞き返してしまう。


「だから……私のおっぱいをおっきくして欲しいの」


 恥じらいを捨てるようにして、上白根はもう一度同じ言葉を繰り返した。

 うん、俺の聞き間違いじゃなかったらしい……。


「お前、本当に上白根か?」

「し、失礼ね! 私が決死のお願いをしてるって言うのに!」

「い“っ!?」


 上白根は思い切り俺の足を踏みつけてきた。

 あぁ、この攻撃的な姿勢、間違いなく上白根さんですわ。

 俺は足の痛みに悶絶しつつ、上白根に尋ねた。


「えぇっと……何でそんな決意表明をわざわざ俺にするわけ?」

「はぁ? だから、新治に私のおっぱいを揉んでもらって大きくしてもらいたいって言ってるの!」


 さらに顔を真っ赤にさせ、とんでもない発言を繰り返す上白根。

 先日の桂華ちゃんの件がフラッシュバックする。


 なんというデジャビュー……。

 俺は思わず額に手を当ててしまう。


「まさか……お前もか上白根」


 人生で二度目の胸揉んでください告白に、頭がくらくらしてきてしまう。


「一応聞くけど、上白根はどうして俺におっぱいを揉んで欲しいわけ?」

「実は、愛実ちゃんに聞いたのよ。新治におっぱいを揉んでもらえば、おっきくなるって」

「冷静になれ上白根。そんな迷信めいたことがあると思ってるのか?」

「でも実際に、愛実ちゃんのおっぱいはおっきくなってるでしょ?」

「よく聞け上白根。その進言には一つ大きな間違いがある。それはな、俺は愛実のおっぱいを揉んだことは、一度たりともないということだ」

「別に、私とアンタの仲でしょ? 嘘つく必要なんてないって」


 いや、だからどうしてみんな俺が妹のおっぱいを揉んでるって事を真実だと捉えちゃうの!?

 確かにおっぱい好きではあるけど、俺ってそんなに非道な奴に見えます⁉


「いや、ガチで俺は愛実のおっぱいは揉んでないし、魔法の手でも何でもないぞ」

「そんなことない。長年付き合ってきたからこそ分かることもある」


 むしろ、何も理解してないんですけど上白根さん⁉

 あなたの目は節穴ですか⁉


「ってか、上白根も胸の大きさ気にしてたんだな。ちょっと意外だわ」

「そりゃだって、おっぱい大きい方が、女性的な魅力はあるでしょ? アンタだって、巨乳おっぱいの方が大好物だし」

「まあ、そりゃそうだな」

「だから私も、巨乳おっぱいを手に入れて、女としての色気を手に入れたいの!」


 握りこぶしを作って、決意表明をする上白根。


「上白根の言い分は分かった。まあ巨乳を目指すのは自由だけど、俺は揉まないからな?」

「どうしてよ⁉ 愛実ちゃんはいいのに、どうして私の胸は揉んでくれないの⁉ 私のちっぱいじゃ満足できないから!?」

「そういうことじゃねぇよ! てか、さっきから言ってるけど、俺は妹の胸揉んでないからな⁉ というか、妹より友達の胸揉む方がまずいだろ!」

「じゃあ、どうしたら揉んでくれるの?」


 上白根はキョトンと首を傾げて、真面目な視線を向けてくる。


「そんな不誠実なこと……そういう行為をする関係にならないと出来ないだろ……」

「そういう関係って?」

「そりゃその……こ、恋人同士になるとか……」


 何言っちゃってるの俺?!

 まるでそれじゃあ、付き合ったらOKみたいな感じになってるんですけど⁉


「じゃあ……私の彼氏になってよ」


 そう言って、上目遣いに俺を見据えてくる上白根。


「ごめん、巨乳以外の子とはちょっと……い“ってぇ⁉」


 俺が丁重にお断りすると、思い切り足先を踏まれた。

 足を上げて、手で上白根に踏まれた足先を撫でる。


「最低、死ね」


 上白根のジト目が炸裂する。

 これ、ドM男子にとってはご褒美万歳なんだろうな。

 ありがとうございます(ドM代表)


「とにかく! アンタにはこれから私のバストアップに協力してもらうから、拒否権はないから覚悟してなさい」

「は、はぁ……」


 こうして、俺は桂華ちゃんだけでなく、上白根にもバストアップの協力を依頼されてしまった。

 俺はただ、巨乳の女の子のおっぱいを揉みたいだけで、貧乳の女の子を巨乳に育成したいわけではないんだけどなぁ……。

 世の中、そう上手くは行かないらしい。

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