第12話 素直じゃない上白根

「うぅっ……んぁ?」

「あっ、やっと気づいた?」


 目を開くと、見覚えのない天井ではなく、まっさらな白い布地の大平原が広がっていた。


「おぉ、なんとなだらかな平行線」


 直後、俺の脳天に強烈な痛みが突き刺さる。


「いっで!?」

「目覚めた開口一番に貧乳ディスリとは、いい度胸してるじゃない」


 俺に脳天パンチをかました上白根は、握った拳と眉根をプルプルと震わせていた。


「ったく、せっかくお見舞いに様子見に来てあげたってのに」


 辺りを見渡せば、カーテンで仕切られた区域にベッドがあり、俺はそこベッドに寝かされていたらしい。


「えっと……確か俺……」

「覚えてないワケ? 体育の授業中に頭打って気を失ったのよ」

「あっ……そっか……」


 上白根に言われて、俺はあの時の感触を思い出す。

 俺の顔面にめり込んでくるような、バシンっという擬音が正しいような、生暖かいまな板を――


「今、凄く失礼なこと考えてたでしょ!」

「いってぇ⁉ まだ何も言ってないのに容赦なくたたくのやめて⁉」


 脳に支障があったらどうするの!


「顔が語ってた。うわぁー貧乳だぁーって」


 上白根はエスパーか何か?

 一旦矛先を収めてもらうためにも、俺は一つ咳払いをしてから、真面目な口調で言い放つ。


「悪いな、わざわざ見舞いに来てもらっちまって」

「別にいいわよ。ルーズボールを追った結果なんだし。新治が後頭部をぶつけなくてよかったってことで」


 上白根はそう結論付けて、にっこりとした笑みを浮かべてくる。


「それと……もう一つ聞きたいことがあるんだけど」

「何……?」

「お前、なんでベッドの上にいるわけ?」


 目覚めた時から、上白根は俺に覆いかぶさるようにして四つん這いの体勢になっているのだ。


「う、うっさい! これはあれよ! アンタが中々目覚めないから、死んでないかどうか間近で確認しようとしただけ!」


 そう苦し紛れの言い訳をしながら、頬を真っ赤に染める上白根は、逃げるようにしてベッドから降りてしまった。


「あっ……」


 せっかく女の子と同じベッドでというシチュエーションに優越感を覚えていたのに……。

 俺が残念がっていると、上白根が訝しげな目を向けてくる。


「なっ……何よ?」

「いや、何でもない」

「あっそ。それじゃあアンタも起きたことだし、私は部活行くから」


 そう言って、上白根は壁際に置いてあったテニスバッグを担いで、カーテンをシャーっと開け放つ。


「ありがとな、わざわざ目覚めるまで看病してくれて」

「……別にいいわよ。元はと言えば私のせいなんだから。それに、新治に元気ないと、私も張り合いが出ないの。それだけ」


 上白根はそう言って、保健室の出口へと向かって行ってしまう。


 なんというか、素直じゃないやつである。

 心配だったならはっきりとそう言えばいいのに。


 キーンコーンカーンコーン。


 とそこで、学校のチャイムが鳴り響く。

 俺はふと保健室にある時計を見つめると、時刻は四時半を指していた。


「やばっ!?」 


 全校集会で、生徒会として表情授与を頼まれていたのに、完全にすっぽかしてしまった。

 会長はさぞお怒りだろう。

 俺は慌てて起き上がり、養護教師にお礼を言ってから、制服に着替えるため、教室へと向かうのであった。

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