第3話 妹の友達からのお願い
「お兄さん……お兄さん」
「んあっ?」
身体を誰かに揺すられたような気がして、俺は重い瞼を開いて顔を上げると、そこにはくりっとした瞳でこちらを覗き込んでくる桂華ちゃんの姿があった。
「お兄さん、おはようございます」
「あれっ……俺……」
辺りを見渡せば、教室内に他の生徒の姿はなく、俺と桂華ちゃんの二人だけ。
窓からは、夕焼けが差し込んできており、放課後の部活動の声が聞こえてきている。
「昇降口で待ってても、お兄さんが全然来ないから、心配して教室まで覗きに来たんです。そしたら、机で眠ってるお兄さんを見つけまして」
なるほど、どうやら俺は、寺山さん本人におっぱいを見られていたことがショックで、ふて寝したら、そのまま眠りに落ちてしまったらしい。
「ごめん桂華ちゃん……起こしに来てくれてありがとう」
「謝らなくていいですよ。先輩のお疲れだったんでしょうし」
桂華ちゃんは、俺を咎めることなく、天使ような笑みで俺を労ってきてくれた。
なんというポジティブ思考。
桂華ちゃんが優しすぎる。
俺は首や肩の凝りをほぐすように回して、寝ぼけていた目を覚ます。
「よしっ……!完全に目が覚めたわ」
「それならよかったです」
俺は背筋を伸ばして、桂華ちゃんに向き合うと、深々と頭を下げた。
「桂華ちゃん、約束破っちゃって、本当にごめんなさい」
「そんな……頭を上げてください。私は全然怒ってませんから」
桂華ちゃんは困った様子で、胸元辺りで手を横に振っている。
「でも、放課後にどこか行きたい所があったんじゃ……」
「いえ、私はお兄さんとこうして二人きりでお話ししたいことがあっただけです。お兄さんがうたた寝してくれたおかげで、どこかへ行く手間が省けました」
「えっ……俺に話したいこと?」
「はい! 私の話、聞いてくれますか?」
首を傾げながら尋ねてくる桂華ちゃん。
陽の光を浴びているからか、桂華ちゃんの頬は心なしか赤く染まっているような気がした。
「もちろんだよ。役に立てるか分からないけど、俺で良ければいつでも話ぐらい聞くよ」
「ありがとうございます……やっぱりお兄さんは優しいですね」
「そんなことないよ。こうして桂華ちゃんとの約束すっぽかして、教室でふて寝してたんだぞ?」
「別にすっぽかしてはないじゃないですか。お兄さんは日ごろの疲れが溜まっていただけですよ」
「……桂華ちゃん優しすぎ」
「お互い様です」
何がおかしいのか分からないけど、俺と桂華ちゃんは微笑み合いながら、くすくすと笑い声を上げる。
妹の友達で、後輩でもある女の子と、こうして放課後の教室で二人きり、こんな青春イベント、二度と訪れることはないかもしれない。
俺は一つ咳払いをしてから、畏まって桂華ちゃんに尋ねた。
「それで、俺に話って言うのは?」
「はい……その……ですね」
すると、突然桂華ちゃんがしおらしくなり、身体をもじもじとし始めた。
スカートの裾がひらひらと揺れて、そこから伸びる脚へつい視線が向いてしまう。
桂華ちゃんの可愛らしい反応に、俺は疑問符を覚える。
「桂華ちゃん?」
「はっ……はい!」
俺が声を掛けると、桂華ちゃんはピクンと身体を震わせて背筋を伸ばした。
「えっと……もし話しずらい事なら、また機会を設けてでもいいよ。俺はいつでも待ってるからさ」
「いっ……いえ! 今言わせてください! じゃないと、私の意思が揺らいでしまうので」
そう言い切った桂華ちゃんは、再び視線を泳がせる。
何だろうこの雰囲気は……。
放課後の教室で二人きり、恥じらう後輩の女の子。
そして、謎の決意表明……。
なんか俺、今から告白されるみたいな流れになってない?
いやいやいや、ないないない!
彼女いない歴=年齢の俺に、こんな可愛い女の子が告白だなんて……。
しかし、ちらちらとこちらを覗き込んでくる桂華ちゃんの顔は朱色に染まり、明らかに緊張しているのが伝わってくる。
まさか……いやまさかな……。
ありえないと分かっているのに、俺の方までソワソワとして来てしまう。
「あのっ……お兄さん!」
二人の間の沈黙を破るようにして、声を上げたのは桂華ちゃんだった。
意を決したように慎ましやかな胸元へと手を当て、顔を真っ赤にしてこちらを見据えてくる。
「私……」
落ち着け俺……落ち着くんだ俺。
絶対に何かオチがあるに決まってる……はずだ!
俺が固唾を飲んで桂華ちゃんを見つめる中、彼女は一つ息を吸い込んでから、勇気を振り絞って言い放った。
「私のおっぱいを、お兄さんに揉んで欲しいんです!」
……えっ?
新治朝陽16歳、妹の友達である後輩に、おっぱいを揉んで欲しいと言われました。
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