第2話 見てるのバレてました
桂華ちゃんとの約束を取り付けた後、つつがなく一日の授業を乗り切り、現在は帰りのHR待ちの時間帯。
俺の所属する二年二組の教室は、夏休みボケも消え失せ、何ら変哲もない、日常の喧噪が漂っている。
その中で、俺は一人教室の窓際の席で頬杖を突きながら、とある女の子のおっぱいをガン見していた。
スラリと伸びる長い脚、他の女子生徒よりも頭一つ飛び抜けている身長。
そして、ブラ透けはしていないけれど、シャツ越しにでも分かるたわわな膨らみ!
彼女の名前は、
俺が今、絶賛彼女にしたい女の子である。
「はぁ……っ。あの見るからに張りがあって弾力があるおっぱい。一度でいいから揉んでみたい」
羨望の眼差しを向けながら、そんな願望駄々漏れの独り言を零してしまう。
あのボリューミーなおっぱいは、まさに至宝と呼んでもいいレベルで素晴らしい。
服越しから見るに、Gカップはあると推測する。
何百人ものおっぱいを見てきたマイスターからすれば、カップ数を見極めるなど造作もない。
服の下に広がる寺山さんの楽園を妄想しながら、鼻の下をデレっと伸ばしながら観察していると、不意に何者かによって視界を遮られてしまう。
誰だよと思いつつ視線を上げると、そこにいたのは、ガッチリとした身体つきをした、ただのイケメンだった。
「なんだよ雄人。俺は今忙しいんだよ」
俺の視界を遮ってきたのは、クラスメイトの
サッカー部のエースである雄人は、さらさらした髪をかき上げながら、苦笑いを浮かべた。
「朝陽は相変わらずだな。忙しいって、おっぱい見てるだけだろ?」
「バカ! 俺にとってはおっぱいを見ることは仕事なんだよ! 一分一秒見逃したくないんだ!」
「はぁ……お前の巨乳に対する情熱は、呆れを通り越して感動すら覚えるよ」
雄人は呆れた様子で肩を竦めてから、教室を見渡しつつ口を開く。
「よく見て見ろ、この教室には、巨乳よりも素晴らしい女の子たちの花園があるんだぜ?」
雄人が指し示す先には、見渡す限りの女の子、女子生徒、制服女子!
四方を見渡せば女の子ばかり!
そう、そこはまさにパラダイス。
俺たちが通う
そのため、男子生徒はクラスの二割にも満たないのである。
しかし、俺はふっと口の端を吊り上げ、雄人を見据えた。
「確かに、可愛美は元女子高だけあって女の子の比率は多い。けどな、寺山さんの巨乳は、その桃源郷をも凌ぐ神乳なんだよ。もう天国と言っても過言ではないね!」
俺が胸を張って言い切ると、分かってないといった様子で雄人がため息を吐く。
「これだから巨乳好きは……。残念ながら、俺とは永遠に相容れないみたいだ」
「けっ、これだから貧乳好きは」
俺と雄人の胸の好みは、根本的に合わないのだ。
「貧乳こそ正義だろ」
「はぁ? 巨乳に決まってるだろ⁉」
「いーや、貧乳だね。あのちっぱいこそ、夢と希望をもたらしてくれるんだ」
「何言ってんだ? 巨乳こそ、夢と希望が詰まってるんだよ」
「でも、シスコン朝陽が溺愛する妹ちゃんは貧乳じゃないか」
「今妹の話は関係ねぇだろ! ってか、妹はもう立派なEカップだっての! 成長したんだよ!」
こうして勃発する、俺と雄人による巨乳VS貧乳の醜い争い。
「まーたやってるよ新治の奴」
「それなー。毎日巨乳おっぱい揉みたいって豪語してるやつに、揉んでいいよってOKしてくれる女子なんているわけないのにな」
「だよなー、現実見ろし」
数少ない同士(男性生徒)達からも白い目を向けられつつ、雄人とバトルがヒートアップしていくと――
「いい加減にしろ!」
バシッ。
「いって!?」
ベシンッ。
「い“っだぁ⁉」
俺と雄人は、何者かによって頭を叩かれてしまう。
叩かれた部分を手で撫でつつ、視線を横へ向けると、ハリセンを手で叩きながら、眉間にしわを寄せる、クリーム色の髪をした女の子が立っていた。
「アンタらはデリカシーっていう言葉を知らないワケ?」
「いや、お前もハリセンとは容赦ねぇぞ
彼女の名前は
俺と雄人とは、中学生時代からの仲で、テニス部に所属するクラスの元気印みたいな存在。
上白根は腰に手を当て、平らな胸をぐいっと張り上げる。
「まったく、新治の脳みそにはおっぱいのことしか頭にないわけ?」
「愚問だな。俺の脳みその七割はおっぱいのことしか考えてない!」
「言い切ったわね……医者も治療の施しようがないほどに手遅れね……」
こめかみに手を当て、げんなりとした表情を浮かべる上白根。
俺はそんな上白根の胸元を、じぃっと観察する。
ベスト越しから見えるのは、なだらかな平原地帯。
まるでそこは、都市部から少し離れると出現する田園風景のようだ。
「上白根の胸は相変わらず見事な関東平野だなぁ―」
「う、うっさい! 着やせしてるだけだし。こう見えてもBはあるから!」
上白根は頬を真っ赤に染め、自身の胸元を抱き締めて主張する。
「ほう……ならそのBカップとやらを見せてもらうか?」
「見せるかアホ! もう、
「て、寺山さん⁉」
上白根が声を掛ける先には、いつの間にか寺山さんが立っていて、苦笑しながらこちらを見つめていた。
俺が固唾を飲む中、寺山さんはおずおずと口を開く。
「ま、まあ、胸に関しては気にしてる女の子もいるから、指摘したりじっと見つめたりするのはやめておいた方がいいと思うよ。私も、時々新治君の視線、気にはなってるから……」
「う“……ご、ごめんなさい」
寺山さんに直接言われてしまい、ぐうの音も出ない。
まさか、本人に知られていたとは……。
しかも、遠回しに視線を感じていることに対する嫌悪感を伝えられ、俺のライフは完全消滅。
こうかばつぐん、一撃必殺!
「あーもう終わった。俺はもうダメだ」
俺はそのまま、机に力なく倒れ込んでしまう。
「うわー出た。新治の自己卑下モード」
「ご、ごめんね新治君……そこまで落ち込ませるつもりじゃ……」
「謝らなくて平気だよ和泉。放っておけば、すぐに復活するから」
「だな」
三人は俺に構うこともなく、各々散って行ってしまう。
クソ……好き放題言いやがって!
みんな酷いや、おっぱいの魅力を誰も理解してくれないなんて……。
あぁーにしても最悪だぁー。
寺山さんのおっぱい見てたの、本人にバレてたぁ……。
恥ずかしすぎる……穴があったら入りたい。
寺山さんはやんわりと指摘してくれたけど、内心めちゃくちゃ毛嫌いしているんだろうな。
……終わった。
もう俺が、寺山さんのおっぱいを揉みしだく未来は消えたに等しい。
「はぁ……一度でいいから、あのおっぱいを揉みしだきたかったなぁ……」
うぅっと唸りながら、俺は突っ伏したまま瞼を閉じて泣き寝入りするのであった。
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