第2話 カップルに食われるチキンは奇跡の味

騒がしい教室。

今日はクリスマスイブ。それなのに塾だもんな。騒ぐ気持ちも分かる。

しかしここにいる大半のやつが、塾がなかったとしても特に予定のない奴らだ。

それは僕も含めて。

だからむしろ僕は感謝してるね。塾のおかげで好きな子とイブを過ごせるんだから。

隣の席の、学校が違う彼女。

今日の授業はばっちり予習済み、先生に何を当てられても怖くない。

だからみんなが問題と向き合っている時間、僕は君を眺めている。

どうせ僕はチキンだよ。眺めることしか出来ない鶏だよ。ケンタッキーの材料にされて、カップルどもに食われればいいんだよ。

なんで君は浮かない顔をしているんだ?

そうやって問いたいよ。話しかけたいよ。ケンタッキーを食うカップルになりたいよ。

でも怖いんだ。好きな子にフラれたとか言われたら凹むし。慰めてあわよくば…なんて僕には出来ないと思うし。それは僕が優しいからとかではなくて単にチキンだからなんだけど。

なんで君の近くにいる人たちは君を浮かない顔にさせるの?

僕が近くにいたら絶対君を悲しませない。

今日なんか、一緒に塾をすっぽかして、最高のイブにしてあげるのに。

ただ時間が過ぎていく、君の顔が暗くなっていく。

チャイムが鳴った。君と過ごすイブはもうおしまい。

みんながいそいそと帰り支度を始める。

僕は動かなかった。彼女が動かなかったからだ。

「おかしいと思わない?」

「思う」

君が突然呟いたので僕は返した。

「私まだ内容言ってないんだけど」

「君が何を言っても肯定するって決めてたから」

「バカなの?」

「うん」

「じゃあ…。私のこと好きになってよ」

「もう好きだよ」

「そんで私にフラれてよ」

「分かった」

「バカなの?」

「うん」

「自分の言ってること分かってるの?」

「うん…いや、分かんない。クリスマスの奇跡かな?自分でも何言ってんのか分かんない」

「奇跡、ね…」

「うん。だから僕今から凄い馬鹿になるね」

「どういうこと?」

「明日一緒に…」

君と過ごすイブもうおしまい。

きっとクリスマスはチキンが空を羽ばたく奇跡の日なんだろう。

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