第32話 三本勝負
歩いて十分ほどして、俺達はスポーツレジャー施設に到着。
1時間利用のチケットを購入して、早速施設内へと入る。
中には、様々なスポーツ設備が整っていて、小さい子供から大人まで、手軽に遊べるようになっていた。
「わぁーー凄いよ! ねぇ、見て見て! ローラースケートとかある! あれで競争してみない?」
「いや、今日は三本勝負で行こうと思う。だから、それぞれ一つずつやりたい種目を決めてくれ」
「それじゃあ私はローラースケート!」
「じゃあ私は……あのエアホッケーにするわ」
まあ、ローラースケートは負け確として、エアホッケーはいい選択だと思う。
二人VS一人は大人げない気もするけど、圧倒的に南央が有利なのは変わりがない。
「それじゃあ俺は……」
とそこで、俺は面白そうなものを発見する。
「おっ、なんかサスケみたいなアスレチックあるじゃん」
そこにあったのは、まるでサスケファーストステージのような鉄棒やバランス感覚を試されるようなアスレチック施設だった。
「これなら、佐野君の得意競技じゃない?」
確かに、これならワンチャン、南央に勝てる可能性があるかもしれない。
「よしっ、それじゃあ俺はこのアスレチックにするぞ!」
「おっけいー! じゃあまずは何からやろうか?」
「とりあえず、丁度空いてるしエアホッケーからやるか」
「おっけいー!」
丁度、エアホッケーの台が開いていたこともあり、俺たちはそれぞれ配置につく。
「ルールはどうする? こっちからはそれぞれ1人ずつ選出する形でいいかしら?」
「いや、2対1でいいよ。私は二刀流を使うから」
そう言って、ホッケーの手に持つやつを二つにして、シャキーンとドヤ顔を浮かべてくる南央。
「随分と舐められているようね。佐野君、私たちの連携を見せる時が来たわよ」
「みたいだな」
というわけで、スタートボタンを押すと、取り出し口からホッケーの平たい球が出てくる。
「そっちサーブからでいいわよ」
「それじゃ、お言葉に甘えて」
サーブ権を南央に渡した。
「容赦しねぇからな」
「かかってきなさい」
俺たちは左右に分かれて南央のサーブを待ち構える。
「それじゃ、いっくよー!」
そう言って、思い切りよく振りかぶったかと思うと――
「ドリャっ!」
ガチャゴンッ。
音速よりも早い球が、俺と凜花の間をすり抜けて、ゴールポケットに吸い込まれていった。
「っしゃ! まずは一点ゲット!」
風を切るような速さに、俺と凜花は思わず見つめ合い、生唾を飲み込んでしまう。
そして、エアホッケーを選択したことが間違っていたことを確信する。
「どうしたの? 早く始めようよー」
南央は首をキョトンと傾げて、早く早くと催促してくる。
俺は取り出し口からお皿を取り出して、フィールドに置いた。
「行くよ凜花。怪我しないようにね」
「えぇ、最善の注意を払うわ」
「ドリャッ!」
俺が放った渾身のサーブは、バシっといとも簡単に抑えられてしまう。
「行くよー! それっ!」
ガチャゴン。
今度は、俺と凜花の間をすり抜ける見事なショットが突き刺さり、あっという間に南央が二点を先取した。
「よし、まずは一点だ。一点を返そう」
「そうね!」
もうこうなったら、一点でも取れば勝みたいなもの。
俺たちは何度も南央という魔王に向かって食い掛かったものの、結局試合は11-0という完敗という形で幕を閉じるのであった。
これ、本当に南央に勝てる隙なんてあるのだろうか?
雲行きが怪しくなってきた。
◇◇◇
次に挑戦したローラースケート対決では、当然のように南央が圧勝。
これで通算0勝2敗。
負け越しが決定した。
けれど、勝負はまだ終わっちゃいない。
最後に残るアスレチック勝負で勝てば、俺たちの勝利が決まる。
ということで、俺たちはアスレチックをやることになったのだが……。
「勝負っつっても、これでどう勝負すればいいんだ?」
「どうしよっか?」
タイムアタックにしたら周りの人たちの迷惑になるだろうし、万が一転倒した時の怪我のリスクも高い。
勝負の判断基準が難しいように感じられた。
「なら、あれで勝負するのはどう?」
見れば、そこにはトランポリンと鉄棒が重なっているアスレチックがあった。
「あそこでトランポリンで上の鉄棒につかまって、懸垂の回数で勝負。それで、最後までぶら下がっていた方の勝利ってことでどう?」
「いいぜ、その勝負乗った」
懸垂やぶら下がりであれば、勝機は十分にあると思う。
いくら南央が天性の才能を持っていたとしても、流石に懸垂を続けながらぶら下がり続けるのは大変であることに変わりはない。
「それじゃあ、この競技は、橘田さんに審判をお願いしてもらおうかな」
「えぇ、分かったわ」
凜花も快く判定役を了承してくれたところで、俺と南央はトランポリンエリアへと足を踏み入れた。
「ふふっ……いくら慶悟の得意分野で、負けないから」
「いいぜ、白黒はっきりつけてやるよ」
俺と南央の間に、熱い火花が散る。
「それでは行きます。よーいっ……スタート!」
凜花の掛け声とともに、俺と南央はほぼ同時に反動をつけて、トランポリンから鉄棒へと乗り移った。
「それじゃあ懸垂行きます。よーい、スタート」
「ふんっ……ふんっ……ふんっ……!」
「流石佐野君、毎日学校でしているだけあるわね!」
「当然だっ! 伊達に毎日校舎裏でやってねぇっての!」
俺が余裕しゃくしゃくに笑みをこぼして見せる。
さぁて……南央の方はどうかな……⁉
俺が南央の方を見た途端、言葉を失ってしまう。
なぜなら、南央は信じられないほど物凄い勢いで、フンフンフンフンフンフンと秒速の速さで懸垂をしていたのだから。
「96、97、98、99!」
しかも、俺が二十回ほど終えようとしたところで、既に百回を超えている。
「100! ふぅー疲れた……」
口ではそういうものの、全く息を切らした様子もなく、澄ました顔を浮かべている。
そして、ちらりと俺の方を見てきて、南央は挑発的な笑みを浮かべた。
「あれれ? 慶悟まだ100回終わってないのぉ?」
「ぐっ……うるせぇ、それぐらい、すぐに終わらせてやるわ!」
「なら私は、慶悟が100回終わらせる前に200回しちゃうもんねー!」
「やれるもんならやってみろ!」
こうして、煽られた俺は、全力の力を出し切って、懸垂百回をクリアしていく。
「おぉ、凄い! 佐野のスピードがさらに速くなってる!」
「負けないよ! おりゃ!」
「す、すごいっ! 既に百回の懸垂をしているというのに、佐野をも凌駕するほどのスピード! 本当に古村さんは人間なの⁉」
俺が百回懸垂をすれば、南央が二百回懸垂を終わらせ、俺が二百回行おうとすると、南央は休憩と言わんばかりに余裕しゃくしゃくの表情で俺が到達するまで手をぶらーんと伸ばして、鉄棒にぶら下がったままこちらを待ってくれていた。
「156……157……はぁっ……はぁっ……」
流石に、俺の腕もパンパンになってきてしまう。
「ほらほら、どうしたの? まだ43回も残ってるよ?」
「言われなくても分かってるよ! どりゃぁ! ……158!」
俺が喚き声にも近い雄たけびを上げて、158回目の懸垂を成功させる。
「だぁっ!」
しかし、俺の腕の筋肉は乳酸が溜まりに溜まり、腕もプルプルと震えてしまっている。
それでも、ここで負けるわけにはいかねぇ、いかねぇんだぁぁぁ!!!
俺は強引に腕力で身体を持ち上げて、159回目の懸垂を成功させる。
もう腕の感覚すらままならない。
ここからはもう、気力との勝負である。
「百六……」
俺が身体を持ち上げようとするも、腕が言うことを聞いてくれない。
「佐野……」
足元では、凜花が心配そうに俺の様子を窺っている。
そうだ、これは俺だけの勝負ではない。
会長の分もかかっているのだ。
俺はもう一度腕に最大限の力を踏み入れて、ギギギギギっと軋むような音を立てながら、身体を持ち上げていく。
「ていっ」
ピトっ。
その瞬間、俺は不意に脇腹を突かれて、全身に入れていた力が一気に弛緩してしまう。
直後、俺は限界を迎えて、鉄棒から指先が離れ落下してしまった。
「はーい、慶悟の負けー!」
「はぁっ……はぁっ……南央……て、てめぇ……邪魔はなしだろ邪魔は!」
なんと、懸垂をしている俺を、南央が妨害してきたのだ。
「だって、待ってるだけじゃ退屈だったんだもん。それに、邪魔するの禁止っていうルールなんてなかったでしょ?」
「ひ、卑怯者め……」
「あれぇー? 懸垂二百回も到達で来てないのによく言えるわねぇ」
「ぐっ……そ、それは……」
痛い所を指摘され、俺は何も言えなくなってしまう。
「よっと」
軽やかに鉄棒から地面に降り立ち、南央はドヤ顔でVサインを向けてくる。
「この勝負も私の勝ちー!」
こうして、食後を狙った奇襲作戦は、完敗という形で幕を閉じるのであった。
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