第20話 優勝のご褒美

 canonちゃんのライブを視聴し終えてリビングを見渡す。

 しかし、両家の宴は終わる気配なない。

 再び手持無沙汰になった俺は、南央を連れて自分の部屋へ向かった。


「どうぞ」


 俺が扉を開けて南央を部屋に案内すると、彼女は目をキラキラと輝かせて辺りを見渡した。


「へぇー! 今はこんな感じなんだぁー」

「あ、あんまりマジマジと見ないでくれよ。恥ずかしいから」

「いいじゃん。それとも、見られたら困るものでも隠してるの?」

「んなわけないだろ」


 俺の部屋には、ダンベルやヨガマットなど、サスケ用のトレーニング器具が置いてあるだけでなく、壁にはサスケに出場した際に着用した21番のゼッケンを、額縁に入れて大切に飾っていた。

 3rdステージで水の中へ落ちてしまったため、21番のゼッケンは泥で黄ばんでいる。

 けれど、これも俺が努力して頑張った証だと、自分では誇りに思っていた。


 南央は一通り部屋の中を見終えてから、当たり前のようにベッドの淵へと腰掛ける。


「ねぇねぇ、隣座ってよ」

「えぇ……」

「いいから!」


 南央がトントンとベッドを叩き、隣に座るよう促してくる。

 俺はため息を吐いてから、南央の隣へと腰掛けた。

 飾られているサスケのサイン色紙などを眺めながら、南央が語り掛けてくる。


「こうして慶悟の部屋に来るのもいつぶりだろう?」

「どうだろうな? 少なくとも高校になってからは記憶はないから、三年ぐらい経つんじゃないか?」

「そっかぁ……もうそんなに経つんだね」


 南央はしみじみとした様子で頷きつつ、すっと視線を床に落とした。


「ねぇ慶悟。私との約束、覚えてる?」

「約束……?」


 俺が首を傾げると、南央が少しムッとした顔を向けてくる。


「言ってくれたよね? 『ウィンターカップ優勝したら何でもしてくれる』って」

「なっ、えぇっと……」


 そう言えば、そんなこと言ったっけか。

 あの時は、南央のモチベーションを上げるために出まかせで言ったにもかかわらず、まさか本当に優勝してくるとは夢にも思っていなかった。


「なんか……して欲しい事でもあるのか?」


 俺が恐る恐る尋ねると、南央はコクリと頷き、遠慮がちに視線を向けてくる。


「そのね……慶悟にして欲しいことあるんだけど……私のお願い、聞いてくれるかな?」


 瞳を潤わせて、こちらを見据えてくる南央。


「まあ……内容にもよるけど、ひとまず何をお願いしたいか言ってみ?」

「あのね……今日慶悟の家に泊まってもいい? もちろん、寝床は慶悟の部屋で」

「……はっ⁉」


 南央から放たれた衝撃の言葉を耳にして、俺は脳がフリーズしてしまう。


「いやいやいや、何言ってんだよ。急にどうした?」

「ほら、昔は良く、お互いの部屋に寝泊まりしてたでしょ? 久しぶりにしてみたくなっちゃって」

「だからって……流石に無理だろ。あんときは俺達もまだ小さかったし、今は状況が違うから」

「どう違うの? 私たちが幼馴染であることに変わりはないよ?」

「そうじゃなくてだな……。そのなんというか、年頃の異性の男女が同じ部屋で寝るとか、色々とまずいだろ」

「私は別に、慶悟なら全然気にしないよ?」

「俺が気にするんだよ……」


 これ以上言及すると、俺が墓穴を掘りそうだ。

 恥ずかしいからやめてくれ。

 俺が南央の純粋攻撃でたじたじになっていると、不意に、にやっとした笑みを浮かべてくる。


「もしかして慶悟、私のこと、女の子として意識しちゃってるんだぁ」

「なっ……そ、そんなことねぇし⁉」


 南央に図星をつかれ、俺はつい虚勢を張ってしまう。


「なら問題ないよね? 私の事、異性として意識してないんでしょ?」

「あぁ! 全然問題ないぜ」

「なら決まりだね! お母さんたちに許可取ってくるー!」

「あっ、おいちょっと待て――」


 バタン!っと扉が閉められ、南央はリビングへと階段を降りて行ってしまった。

 一人部屋に取り残されてしまった俺は、やってしまったと後悔する。

 南央に挑発されて、見栄を張ってしまう悪い癖が出てしまった。


 まあでも、流石にうちの両親がOKするわけないよな。

 いくら南央でも、年頃の男女を同じ部屋に寝泊まりさせるなんてこと――


 俺がそんなことを考えていると、ドスドスと階段を駆けあがってくる音が聞こえてきて、勢いよく部屋の扉が開かれた。


「泊って行っていいって!」


 南央が満面の笑みを浮かべながら、親指をサムズアップ!

 母さん……もう少し息子のことを考えてくれ……。

 こうして、俺が南央の軽い挑発に乗ってしまった結果、同じ部屋で寝ることになってしまった。


 果たして俺は、この夜を乗り越えることが出来るのだろうか?

 正直、寝れる気はまるでしなかった。

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