第11話 お喋りマシーン彩音

 模擬試験二日目、昨日と違う席に案内されたため、彩音と遭遇することはなく、試験は順調に終えることが出来た。


 全ての科目を受け終えて、俺が帰り支度を進めていると、スタスタとこちらへ歩いてくる見覚えのある人物が……。

 俺は咄嗟に視線を机に戻して気づかれぬようにする。

 しかし無情にも、その人物は俺の前で足を止めた。


「ちぃーっす慶悟」

「ひ、人違いじゃないすかね?」

「んわわけあるかっつーの。ほら、模試終わったんだから、とっとと行くよ」


 当たり前のように、彩音は俺の袖を掴んでくる。


「あのすいません。俺このあとちょっと大事な予定が……」

「ふぅーん。んなこと言うと、慶悟にセクハラされたって今から塾講に訴えてもいいんだよ?」

「……ぜひお供させていただきます」

「ならよし」


 くそっ……彩音に弱みを握られているせいで、いい様に振り回されてる。

 これが成績に直結する何かだったりしたら、すぐさま逃げれたのに……。

 俺は荷物をまとめて席を立ち、彩音の後を追って、予備校を後にした。

 彩音と向かったのは、駅前のバスロータリーにあるマック。

 それぞれ夕食代わりのハンバーガーを注文して、二人掛けの席に向かい合って座り込む。

 彩音はスマホを取り出し、パシャリと写真を撮っていた。

 インスタにでもアップするのだろうか?


 そんなことを思っていると、スマホから目を離した彩音がにやりとした笑みを向けてきた。


「んで、模試はどうよ?」

「まあ……理系科目は問題ないかな。昨日の文系科目がちょっとミス多めって感じ」

「ふぅーん。そか」

「そういうお前はどうだったんだよ?」

「お前じゃなくて彩音。次からちゃんと呼ばないと、慶悟のあだ名『セクハラ大魔王』にするから」

「横暴すぎる……」


 ほんと、そっちから胸を意図してみせてきたくせに、見たら見たでこの仕打ちだよ。

 もう絶対、女の誘惑なんかに惑わされねぇ。


「まっ、アーシはいつも通りって感じ?」


 彩音は足を組みつつ、ポテトを数本手に取り、口へと頬張った。


「そうかよ。それは良かったな」

「ちょ、流石に興味なさすぎなーい?」


 いや、だって興味ないっすもん。

 結局成績だって、各科目平均点ぐらいだろ?

 俺は全国二桁狙ってんだ。

 彩音とは次元が違うんだよ。

 心の中で、彩音に対するマウントを取りつつ、俺も頼んだハンバーガを頬張った。


「てか、アーシ昨日から超メッセ送ってんのに、反応ゼロとか酷くない?」

「いや、だってもし期間中だったし」

「絶対通知OFFってるっしょ?」

「悪いか?」

「当たり前っしょ。アーシが送ったら、今後は五分以内に返事返すこと。これ、マストだから」

「普段からあんまりスマホ見ないんだよなぁー」

「んじゃ、大目に見て30分以内にしてあげる」


 それでも普通にきついだよなぁ……。


「返せなかったらどうなるの?」

「慶悟の出回ってる画像加工して、アーシにセクハラしてる動画にして拡散する」

「残忍すぎる……」


 絶対王政の皇帝か何かかな?

 俺に市民権ないやん。


「とにかく、次からちゃんと、返事返すこと。いい?」

「へいへい。分かりましたよ」


 面倒くさいけど、しばらくしたら、俺の反応の悪さに愛想尽かして飽きるだろう。

 俺の態度が納得いかなかったのか、彩音はじとーっとした視線を送って来ている。

 ばつが悪いので、俺は話題を変えることにした。



「てか、なんで俺をわざわざ呼び出したわけ?」

「んなの。アーシを知って貰うために決まってんじゃん」

「はぁ?」


 なんで知らなきゃいけんの?

 別に興味あんまないんすけど……。


「今、興味ないって思ったっしょ?」

「だって、事実だし」

「はぁ……そんなんじゃ、女子にモテないぞ?」

「別にモテなくても良いし」


 恋愛に興味がないわけではないけど、彩音みたいなタイプにモテたいとは思わない。

 俺はもっとこう、物静かでお淑やかな、図書室で本を読んでいるようなタイプが好みだ。


「まっ、ここで会ったのも何かの縁じゃん!」

「彩音に興味を持ってるやつに話した方がいいんじゃないのか?」

「いーや。アーシは慶悟に知って欲しいの」

「いや、なんで?」


 昨日会ったばかりなのに、どうしてこんな俺に対する好感度が高いのか分からない。


「言っとくけど、アーシは結構こう見えて人気なの」


 胸に手を当てて、彩音は自慢げに一人で話し始めてしまう。


「アーシ、TIkT○kでフォロワー10万人は超えてるの。一分ぐらいのショート動画アップしたり、ライブ配信してたりする」

「へぇーっ……」


 興味がないので、相槌だけ打っておく。

 それを肯定的に受け取ったのか、さらに饒舌に話し出す彩音。


「慶悟の存在は、昨日見せたコラ画像のショート動画が大量に流れてきて知った。そしたらまさか、もし会場で隣になるとは思ってなかったし」


 まあそりゃ、ネットでフリー素材になっている人間が隣の席にいたら、そりゃ驚くわな。

 俺が逆の立場でも、全く同じ反応をしたと思う。


「でもさー。アーシってこういう見た目っしょ? 学校では結構浮いてんだよねー」

「なんか意外だな?」


 距離感も近いし、見た目も目立つから、クラスのドン的存在なのかと思っていた。


「そう? アーシみたいな異端児は、基本嫌われる運命なんよ。学校に仲いい子もそんないないし」


 そういうものなのか?

 俺のクラスだったら、間違いなく人気者になれると思うんだけどな。


「てな感じで、アーシ暇だったんよね。んで、TikT○kでワンチャンぶち上げてみるかってなったワケ」

「それで試してみたら、フォロワー10万人越えの大人気TikT○krになったと」

「それほどでもないけどね。アーシぐらいのフォロワーじゃ、全然トップには及ばないって感じ? まっ、普通にバイト代ぐらいは稼げるけどね」


 まっ、見た目は派手だけど、素材はいいので、彩音がライブ配信をすれば、投げ銭ぐらいは飛ぶだろう。


「それで、どうして俺に話す必要があったわけ?」

「そりゃだって、慶悟はアーシに付き合ってくれるし? 話し相手として丁度いい適な?」

「つまり俺は、都合のいい相手って事か」

「素敵な男友達だと思ってるよん♪」


 軽快な口調で言いつつ、ウインクをしてくる彩音。

 結局のところ、リアルコミュニティーで話相手がいないため、丁度いい獲物を見つけたという感じだろう。


 全く、何て面倒な奴に俺は引っ掛かってしまったんだ。

 心の中で、軽くため息を吐くことしか出来ない。

 結局その後も、学校のことから家の深いプライベート事情まで、色んな話を聞かされた。

 その時間なんと二時間強。

 彩音は話してスッキリしたのか、帰り際は晴れやかな表情を浮かべていた。


 一方の俺は、色々と情報が整理しきれず、頭がパンパン状態。

 模試の疲れもあって、いち早く家路に着きたいと思うのであった。

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