第10話 フッ軽ギャル
「……終了です。問題を解くのをやめてください」
「……お、終わったぁ」
試験官から終わりの合図が告げられ、俺は机に突っ伏した。
これで一日目の文系科目の試験は無事終了。
明日は、理系科目の試験が待っている。
時刻は既に、午後の五時を回ろうとしていた。
何問か難問があったけど、あれは満点阻止のための対策問題だろうし、解けないのもしかたないだろう。
ただ一つ懸念材料があるとすれば、リスニングの解答中、途中でマークシートの欄がずれていることに気が付き、修正している際中の問題を聞き取ることが出来なかったことだろうか。
我ながら初歩的なミスをしてしまったと後悔する。
一日目の日程が終わり、室内の張り詰めた空気が弛緩する中、トントンと横から肩を叩かれる。
俺が顔を上げると、隣から覗き込んでいたのは、例のオレンジギャルだった。
「お疲れー」
「お疲れさん」
「随分疲れてるね。どうしたの?」
いや、この疲れの大半は君のせいですからね?
とは言えなかったけど、まあ色んな意味で気疲れした。
クソ……なんで俺は、こんなギャルなんかにうつつを抜かしてるんだ全く……!
「なんでもない、気にしないでくれ」
「そっか。でも今日は本当にありがと」
そう言って、オレンジギャルはモゾモゾと自身の胸元を漁りだしたかと思うと、そこから何故か俺のシャープペンシルと消しゴムが現れた。
「これ、ちゃんと温めといてあげたから」
シャーペンと消しゴムを、谷間へ仕込んでいたらしい。
にやりとした笑みを浮かべて返してくる。
「卵を温める親鳥かよ」
俺は冷静にツッコミを入れつつ、彼女の手からバシっとシャーペンと消しゴムを奪い取り、とっとと筆箱の中へとしまい込む。
手に取った瞬間、シャーペンと消しゴムの熱を帯びた感じが、妙に生々しかった。
「ねぇねぇ、今からちょっと時間ない? 今日のお礼にアーシが奢ったげる」
「いや、結構です。明日も朝早いし、今日はかえって早く寝たい」
「もーっ。せっかくアーシが感謝してあげようと思ったのにー」
「ほんとそういうの良いんで」
「あっ、それじゃあインスタのアカ交換しよ♪」
「はい……?」
今、ぬるっと連絡先聞かれた?
ってかインスタって……俺がやってるわけないじゃん……。
「ごめん、俺インスタやってないんだ」
「あーね。じゃあ、ラインなら流石にやってるっしょ?」
「まあ、ラインならやってるけど……」
「ほい、早くQRコード頂戴」
スマホを出せ出せと催促してくるオレンジギャル。
ここで駄々をこねていても余計悪目立ちするだけなので、俺は素直にカバンからスマホを取り出して、QRコード画面を表示する。
「おっけーい! てんきゅー! 友達登録したからヨロー!」
連絡先を交換するなり、オレンジギャルはそのまま荷物を持って立ち去って行ってしまった。
「はぁ……ったくなんだったんだよ一体」
朝からオレンジギャルに振り回されっぱなしだ。
「そう言えば、あの子の名前聞いてなかったな」
ふと彼女の名前を聞いていなかったと思い、ラインの友達に追加されたオレンジギャルの名前を確認する。
そこには、『
「彩音か……」
まあ、頭の片隅にでも覚えておこう。
しかし、俺は直後から、彩音と連絡先交換をしたことを後悔することになった。
彩音から鬼のようにメッセージが来て、通知が鳴りやまかったのである。
「あぁもう、うるさい!」
俺が通知OFFにして眠りについて起床すると、未読のメッセージが500と書かれていて、うんざりするのであった。
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