第8話 勝負の条件

「はぁ⁉」


 突如として言い渡された凜花からの宣戦布告。

 俺は思わず大声を上げてしまう。


「あら、どうしたのかしら?」

「いや、模擬試験で勝負って、どうして俺が凜花と勝負なんてしなきゃいけないんだよ⁉」

「ふっ、愚問ね……。それは、あなたに勝つために決まってるでしょ」

「俺に?」


 意味が分からず、俺は自身を指差してしまう。


「なるほど。やはりお前は、上しか見てないようだな」


 凜花は腕を組みながら何度か頷いていると、次第に眉間に皺が寄ってくる。


「お前が万年学年二位しか取れないように、私も入学からずっと、学年三位しかとることが出来ていないということにな……」


 怒りがこみ上げてきているのだろう。

 凜花はプルプルと身体を震わせている。

 そこで、俺はようやく理解した。

 高校入学時からずっと、上位二名の順位は不動のまま。

 悔やんでいるのは自分だけだと思っていた。

 しかし、俺が気づいていなかっただけなのだ。

 上位三名の順位が不動のままだということに……。


「その様子だと、ようやく気付いたようだな。そうさ、お前は古村南央を羨んでいるようだが、私だってお前を羨んでいるのは同じだ」


 凜花も俺と同じで、抜けない二人に対して、ずっと悔しい思いをし続けているのだ。


「正直、テスト範囲の決まっている期末試験では分が悪い。だがしかし、学習範囲が無限にある模試では勝手が違う。今まで培ってきた基礎学力がものをいう戦いだ。まずはそこで、お前よりもいい成績を取ってみせる!」

「なるほど。そう言うことか」


 ようやく完全に理解した。

 今度の全国共通模試の合計点で、凜花は俺よりも高い点数を取ってみせると言い張っているのだ。


「面白れぇ。その勝負、受けてやるよ」

「そうこなくっちゃ」


 俺がにやりと笑うと、凜花もまた、にやりと口角を吊り上げた。

 二人の間に、バチバチと火花が飛び交う。


 正直、期末試験は南央以外の生徒に負ける気はしない。

 けれど、全国模試となれば話は別。

 今まで培ってきた学習能力がものを言う。

 だからこそ、凜花にも、勝てる見込みがあるということ。

 本番一発勝負は、一つのケアレスミスが、運命を左右するのだ。


 逆に言うと、俺がここで凜花に勝てば、後ろを一蹴するチャンス。

 今後気兼ねなく、南央一本に標的対象を絞ることが出来る。

 それに、俺だってその場凌ぎの勉強をしてきたわけではない。

 南央に追いつけ追い抜けと努力してきた自負がある。

 この勝負、絶対に負けるわけにはいかなかった。


「ねぇ……何も掛けないのもつまらないから、負けた方が相手の言うことを何でも聞くというのはどうかしら?」

「いいぜ。そっちの方が俄然やる気が出るぜ」

「なら決まりね」


 こうして、模試の勝敗により、賭け事が成立した。


「ちなみに俺は、『もう二度と、花壇でのトレーニングに関して注意してこない事』を条件にさせてもらうぜ」

「あら、そんな軽い事でいいの? していいのよ?」

「まあ、一度も負けたことない奴には、いつでも勝てるからな」

「ふっ、言ってくれるじゃない。それほど自信があるということね」

「まあな」


 今回の模試だって、目標は打倒南央。

 凜花相手に負けている場合ではない。


「しかとその目で、一発勝負の怖さをしかと味わうがいいわ」

「その言葉、そっくりそのままお返ししてやんよ」


 再び、俺と凜花がバチバチ火花を散らす。


「そんで、万が一お前が勝った場合、俺に何をさせるつもりなんだ?」

「ふふっ……勝った時まで秘密にしておきますわ」

「ほう、随分余裕だな。せいぜい永遠に達成できない課題として記憶に残しておくんだな」

「……決まりですね」

「あぁ」


 俺と凜花は、がっちりと握手を交わす。

 思い切り握りしめて、もうバトルは始まっているんだというけん制をしておく。

 こうして、凜花との模試での成績バトルが幕を開けるのであった。

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