第7話 お褒めの言葉からの宣戦布告!?
迎えた放課後、俺は凛花に言われた通り、生徒会室を訪れた。
コンコンと二回扉をノックすると、中から『どうぞ』と声が聞こえてくる。
緊張しつつ、俺は生徒会室の扉を開け放つ。
「失礼します」
恐る恐る中を覗き込むと、正面の椅子に、凜花は座っていた。
手前には、簡易的な応接用のソファとローテーブルが設置されている。
奥にある生徒会長専用机は、重厚な作りになっていた。
他の役員席との差を目の当たりにして、改めて生徒会長という立場の重みを痛感させられる。
「座って待ってて頂戴」
凛花は、机に積み上げられた書類に目を通しながら、俺に向かってそう一言告げた。
「し、失礼します……」
俺はきょろきょろと生徒会室を見渡しながら、後ろ手で扉を閉める。
生徒会室の中には、凛花以外は誰もいない。
他の役員は、どこかへ駆り出されているみたいだ。
室内には、紙を捲る音と、凛花が書類にペンを走らせる音しか聞こえてこない。
重苦しい雰囲気に押し潰されそうになりつつ、俺は腰を低くしながら、ゆっくりと応接用のソファへと腰かけた。
意外にもソファの座り心地は良く、お尻がズンっと沈み込む。
座っていても落ち着かないので、凛花が作業している様子を覗き見ることにした。
凛花は赤縁の眼鏡をかけており、普段よりさらにエリート感が増している。
耳に掛けていた前髪が前に垂れてきたのを、スッと手で掛けなおす。
その所作が妙に大人っぽい。
俺じゃなかったら、恋に落ちてしまう奴がいてもおかしくないと思う。
すると、ようやく作業がひと段落したのか、凛花が書類から目を外して、ふぅっと息
を吐いた。
「お、終わったの?」
「あぁ、ひとまず、最低限のものはな」
そう言って、凛花は椅子から立ち上がり、そばにあった給湯器の近くの紙コップを手に取る。
「温かい緑茶と紅茶、どっちがいい?」
「じゃあ緑茶で」
俺が答えると、凛花は手際よく緑茶を用意し始める。
「あの……他の役員の人たちは?」
「ん? あぁ、他の子たちは部をかけ持ちしてやってる子が多くてな。何か重大な会議がない限り、部活を優先させるようにしてるんだ」
「そうなんすね」
生徒会に入る人は、部活動に入らないイメージがあったけど、どうやら
「ほれ、緑茶だ」
「あ、ありがとう」
手渡してきてくれた紙コップを受け取ると、温かい緑茶の熱が伝わってくる。
ずっと持っていると火傷しそうだったので、ひとまずテーブルに置いて冷ますことにした。
凛花も、自身の飲み物を片手に持ちながら、俺の向かい側のソファに腰かけた。
そして、コップを口許へと近づけていき、何度かフーッ、フーッと息を吹きかけて冷ましてから、ズズズっと緑茶を一口飲んでいく。
ゴクリと喉を潤して、コップをテーブルに置いたところで、居住まいを正してこちらを見据えてきた。
「それで、今日あなたを呼び出した理由なのだけれど……」
「は、はい……」
唐突に真剣な口調で話しかけてきたので、俺も無意識に姿勢を正してしまう。
すると、凛花は軽く微笑んだ。
「そう畏まらなくていいわ。今日は褒めるために呼び出したのだから」
「へっ……? 説教されるんじゃなかったの?」
「あれは、ただの口実だ……」
少々ばつが悪そうに視線を逸らして喉を鳴らす凛花。
そして、凜花はもう一度俺の方を見据えると、ふっと柔和な笑みを浮かべた。
「ひとまず、年度末にテレビで放送されたサスケを拝見したわ。まずは、初出場で第三ステージ進出、おめでとう」
「あ、ありがとう……凜花も見てたのか」
「えぇ」
凜花がサスケを見ていたのも驚きだけど、褒められるとは予想外だ。
てっきり、トレーニングの事で怒られるとばかり思ってたから、俺の返事もしどろもどろになってしまう。
「まあそれは良いとして、あの意気込みはなんだ? 『サスケでいいところを見せて、学校の奴らを見返してやる』っていうのは?」
褒められたのは一瞬のことで、すぐに咎められた。
やっぱり説教じゃねぇか。
「そ、それはまあ、舐められないようにというか、俺は出来るんだってところを知らしめたかったから……」
「馬鹿タレ! うちの学校の評判が下がったらどうしてくれるんだ⁉」
「そ、それに関しては……すいません」
ぺこりと平謝りすると、凛花は足を組んだ。
「まあ、それはいい。とにかく、お前は今、サスケ界では注目の的だ。そう言う意味では、全国区と言っても過言ではないだろう」
「全国区……そうっすね」
「なんだ? 嬉しくないのか?」
「そりゃもちろん、一人のサスケプレイヤーとして全国に名を知らしめることが出来たのは嬉しいよ。でも、やっぱり上には上がいるというか……」
「当たり前だろ。むしろ、初出場であそこまで行けたことが凄いじゃないか。聞いた話によれば、初出場で1STステージクリアできる確率は、1%にも満たないそうじゃないか」
「それはそうなんだけど……ほら、校内ではそんなに目立ってないというか、比べる対象が偉大過ぎてね」
「あぁ、もしかして、バスケ部の全国制覇と比べているのか?」
「だってねぇ、全国制覇と比べたら、俺の成し遂げた事なんて足元にも及ばないなって思うでしょ? 忍高校のバスケ部はメディアに引っ張りだこ。それに比べて俺は、どこにでもいる普通の一般人で、サスケ界というニッチなジャンルでしか有名じゃない」
「なるほど。お前の悩みもよく分かる。実際、学校側がらすれば、校外活動で活躍した人より、校内活動で活躍した人を評価するからな」
「そうっすよね」
「だが、私はその努力と功績に、優劣は付けられないと思ってる。確かに全国制覇は凄いが、お前だって全国に名をとどろかせたという意味では、素晴らしい功績だと私は思っているぞ」
「……そうっすか?」
「あぁ。それに、バスケ部は全国制覇したかもしれないが、古村が抜ければ弱小チームに逆戻りだ。そう言う意味で言えば、お前は個人で結果を残し続ければ、この後何十年と同じ舞台で活躍することが出来る可能性を秘めてるんだ。それを考えたら、お前の方が結果として全国に名が知れ渡る可能性だって十分にあり得るだろ」
「……」
俺は口をあんぐりと開けて、凛花を見つめてしまう。
「ん、どうかしたか?」
「いや……意外と凛香って、物事を客観的に捉えてるんだなと思って」
「そりゃそうだ。確かに私は生徒会長で、学校の代表として活動しているが、これだって一年天下に過ぎない。任期が終わればそこで終わりだ。後は忘れ去られるだけで、残るものなんて何もないからな」
「そっか……」
凛花の言葉を聞いた俺は、何度も首を縦に振り、スッと顔を前に向けた。
「ありがとう凛花。なんだか俺、凄いやる気に満ち溢れてきたよ」
「そうか。なら良かった」
「それじゃ、俺はそろそろ教室に戻るね」
「待て待て待て! 本題はまだ終わってない」
すると、凛花が慌てた様子で、もう一度座り直すようソファを叩いた。
「えっ? 俺を励ましてくれるために呼び出したんじゃないんですか?」
「違う! 私はお前に、挑戦状を叩きつけるために呼び出したんだ!」
「ちょ、挑戦状!?」
俺に対して何を挑むと⁉
「佐野慶悟! お前は来週の全国共通テストの模擬試験は受けるか?」
「えっ? まあ、受ける予定だけど……」
えっ、何⁉
怖いんですけど……。
俺が身構えていると、凜花はビシっと指差して宣言する。
「佐野慶悟! 来週の模擬試験、私と勝負しろ!」
凜花は俺に、模試での勝負を申し込んできた。
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