第5話 日本一になった幼馴染
新年を越して、一週間ほどが経過した。
世間は正月気分もなくなり、普段の日常に戻りつつある。
俺が通う
登校初日、体育館で行われた始業式は、活気に溢れている。
ステージ上には、南央を含めた、忍高校バスケットボール部のメンバーが登壇していた。
今は、ウィンターカップでの功績が称えられて、表彰を受けている最中。
ステージ後ろの壁には、デカデカと、『祝 忍高校ウィンターカップ制覇』という弾幕が掛けられている。
表彰状が読まれて、優勝トロフィーを代表して南央が受け取ると、全校生徒からの盛大な拍手が沸き上がった。
ステージ上でトロフィーを掲げて、声援に応える南央を見つめながら、俺は乾いた拍手を送ることしか出来ない。
どうして……どうしてこうなった……⁉
初出場のウィンターカップで、忍高校はなんと初優勝。
まさに、奇跡のサクセスストーリーとは、このことを言うのだろう。
「はぁっ……なんでこうなっちまったんだ」
思わず、ため息交じりの声が漏れてしまう。
南央は今まさに、時の人となってしまったのだ。
始業式が終わり教室へ戻ると、俺はそのまま机に突っ伏して項垂れていた。
「古村さん! 優勝おめでとう!」
すると、本日の主役である南央が遅れて教室へと戻ってくる。
南央は、一斉にほとんどのクラスメイト達に囲まれてしまう。
「観てたぞ! 一人で五十得点とか、どうやったら取れるんだよ⁉」
「最優秀選手にも選ばれたんだよね! 凄い、凄い!」
「今日のニャフーニュースで見たけど、日本代表の合宿メンバーにも選出されるんじゃないかって噂になってるぞ!」
クラス内は、南央の話題で持ち切り状態。
「みんなありがとう! 私も頑張って来た甲斐があったよ!」
南央もクラスメイト達から盛大な祝福を受け、嬉しそうな笑みを浮かべている。
そんな中、俺はその輪から外れた自席で、一人突っ伏しながらどんよりしていた。
「また負けた……」
ウィンターカップでの南央の活躍は凄まじかった。
相手チームが三人がかりで立ち向かってこようとも、物怖じすることなく果敢に攻撃を繰り返して、相手を一網打尽。
圧巻という言葉は、南央のためにあるのだと実感させられた。
そして、迎えた決勝戦。
体格差がある留学生プレイヤー相手にも、引けを取らないパフォーマンス。
というか、南央の方が優勢で、留学生プレイヤーを押し込み続けていた。
まさに、『圧倒的無双ゲー』とはこのこと。
留学生プレイヤーの攻撃を完全に封じ込み、逆に自身の攻撃で、完膚なきまでに叩きのめした。
その結果、南央はなんと決勝戦で、五十得点の大活躍。
見事、忍高校初のウィンターカップ優勝と、大会最優秀選手を受賞したのである。
さらにさらに、来週末行われる現役日本代表の合宿にも召集されるという、まさにシンデレラストーリーをやってのけたのだ。
そして何より、その生まれながらの美しい美貌が話題となり、メディアに大々的に取り上げられ、『バスケット界に現れた未来のプリンセス』という異名を付けられるほどに、今最も時の人となってしまった。
一方の俺は、サスケ3rdステージまで進出してメディア出演を果たしたにも関わらず、声をかけて来る者は誰一人としていない。
今までと変わらぬ陰キャ生活を、絶賛継続していた。
おかしい……。
俺だって、そこそこ活躍はしたはずなのに、全く相手にもされないなんて……!
今の若者世代がテレビ離れが進み、そもそもサスケを観ていないということもあるだろう。
しかし南央は、それを凌駕してしまうほどの活躍を見せたということになる。
これこそ、俺にとって、今までとはけた違いの圧倒的敗北と屈辱だった。
俺はギギギっと歯噛みして、南央へ羨望の眼差しを向けることしか出来ない。
クソ……クソ……クソ……!!!!
どうして俺はいつも、
これじゃあ、今までと何も変わらないじゃないか……!
南央をぎゃふんと言わせるどころか、逆に負かされてしまうという始末。
こんなの、俺が願った結末じゃない!
「慶悟ー!」
とそこで、南央が満面の笑顔で俺の元へとやってくる。
クラスの連中は、南央についていくことなく距離を取った。
「ねぇねぇ! 私凄いでしょ!」
顔が褒めて、褒めて! と尻尾を振ってくる。
俺はふぅっと重い息を吐きて、南央の頭へ手を伸ばす。
南央は俺が手を置きやすいようじゃがみ込んでいる。
「よしよし、よく頑張ったな」
「えへへっ……私頑張ったー!」
撫でられて嬉しそうな表情を浮かべる南央。
一方の俺は、南央の功績を素直に喜べない自分がいる。
本当なら、幼馴染として鼻が高いはずなのに……。
自分のプライドが許せないのだ。
南央と対等な立場になったと思ったのに、またも先を越されてしまったのだから。
そんな複雑な感情を心に抱きながら、南央が満足するまで撫で続けてあげた。
クラスメイト達は相変わらず、『古村さんがあんなに嬉しそうにしてるのに、もっと喜んであげてもいいのにね。佐野君って愛想悪いよね』と、俺も気持ちも知らずに言いたい放題。
クソ……今に見てろよ……。
絶対に南央に勝ってやるんだからな!
俺は周りからの言葉に、さらに闘志を燃やすのであった。
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