第4話 南央の出番

 サスケの放送が終わり、深夜のニュース番組が始まったところで、俺はテレビを消した。

 ちなみに今回、俺は史上最年少で3rdステージ進出という快挙を成し遂げた。


 全体的な成績はというと、なんとファイナルステージ進出者はゼロ。

 100人全員が、3rdステージ脱落という結果に終わった。

 やはり、サスケの世界は厳しいと実感させられた。


 時刻を見れば、既に夜の十一時を回っている。


「ほら南央、お前はそろそろ家に帰れ」

「えぇー」

「明日からウィンターカップ本戦だろ? ちゃんと体調整えないと」


 南央は、明日から開催されるバスケットボールの冬の全国大会であるウィンターカップに出場するのだ。


「ヤダー! まだ起きてたいー! Canonかのんちゃんのライブ配信観るのー!」

「はいはい、ブーブー言わない」


 俺は、南央が手に持っていたスマートフォンを強制的に取り上げて没収する。


「あっ、ちょっと⁉」

「ライブ配信なんて、アーカイブで見ればいいだろ?」

「見れないし! TikT○kライブはアーカイブ残らないの!」

「そのTikなんちゃらライブがどーたらこーたら知らんけど、今は自分のコンディションを優先しろ。明日これでパフォーマンス悪くてチームに迷惑かける方がダメだろ?」

「うぅ……分かったってばぁ……」


 南央は渋々といった様子で観念する。


「家まで送ってやるから。帰り支度済ませとけ」

「はーい」


 南央を説得させて、俺は一度リビングから自室に向かい、コートを取りに行く。

 部屋の中で羽織り、その足で階段を降りると、玄関前で南央がコートを羽織り、靴を履き終えた状態で待っていた。


「ほれ、スマートフォン」

「やっと返してくれた」

「もう観るなよ」

「観ませんよーだっ!」


 不貞腐れたように唇を尖らせ、南央はコートのポケットにスマートフォンを仕舞い込んだ。


「それじゃ、行くか」


 俺も靴を履き終え、玄関の扉を開け放つ。

 直後、真冬の突き刺さるような冷たい北風が、俺たちの身体を一気に冷やしにかかる。


「うぅっ……寒っ」


 思わず俺は、自身の身体を抱いて身震いしてしまう。


「寒いねー」


 南央もはぁーっと白い吐息を履き、その熱で自身の手元を温めている。


「身体冷えないうちにとっとと行こうぜ」

「うん」


 俺たちは佐野家を後にして、歩いて五分もかからない所にある古村家へと向かう。

 夜闇に包まれた住宅街を、びゅぅーっと凍えるような風が通り抜けていく。


「ねぇ慶悟」

「あっ、なんだ?」


 俺が身を屈めながら南央に尋ねると、彼女はすっと前を見据えたまま尋ねてくる。


「もし今回の大会で優勝したらさ、何かご褒美くれる?」

「優勝ってお前……凄い大見得切ったな」

「そりゃ、せっかく出場できるのに、優勝狙わないとかありえなくない?」

「そうかもしれないけど、うちの高校、今回が初出場だろ? それに明日の試合だって、去年ベスト8まで勝ち進んだ強豪校って聞いてるぞ?」


 俺たちの通うしのぶ高校は、元々スポーツが活発な学校ではない。

 バスケ部も、南央が加入してから一気に強くなっただけの、いわゆるパッと出チームだ。

 全国的な知名度で言えば底辺であり、いわば新参者。

 ウィンターカップへ優勝など程遠い夢みたいなものだ。


 それに、いくら南央がスーパーな選手とはいえ、バスケは五人で行う競技。

 チームプレイが必要とされるため、南央一人の力でどうにかなるものでもない。


「でも……やっぱり何かご褒美がないと、モチベーション湧かなくない?」

「お前な……」


 なんて現金な奴だ。


「まあでも、本当に優勝したら、考えてやらなくもねぇよ」

「ほんとに⁉」

「あぁ、絶対に無理だろうから。優勝した暁には、何でもしてやるよ」

「今、何でもって言ったね? 言質取ったからね⁉」

「あぁ。俺が出来る範囲でな」

「よっしゃぁ! 俄然燃えてきた!」


 先ほどまでとは見違えるように、南央は握りこぶしを作り、メラメラと闘志を燃やしている。

 まあ、俺みたいな奴のご褒美一つでモチベーションが上がるのであれば、お安い御用だ。

 約束を交わしたところで、あっという間に古村家の前に到着。

 南央はくるりとこちらを振り返り、にこりと微笑んだ。


「慶悟の頑張り、しかとこの目で受け止めたよ。今度は私が頑張ってくるね!」

「おう……頑張れよ」


 俺はポケットに突っ込んでいた手を出して、握りこぶしを作って前に差し出した。


「お前の実力、全国の奴らに知らしめて来い!」

「うん、慶悟も期待してて! 絶対にてっぺん取ってくるから!」

「まっ、期待しないで待っとくわ」

「そこは、期待してるって言う所じゃないの?」

「悪い悪い。まっ、せいぜい頑張ってくれ」


 お互いに拳を突き合わせて、明日の南央の試合に向けて闘志を注入した。


「送ってくれてありがとね。それじゃ、バイバーイ」

「おう、またな」


 俺が手を振りながら見送ると、南央はガチャリと玄関の扉を開き、家の中へと入って行った。

 南央が家に入ったのを見届けてから、俺は踵を返して、来た道を戻っていく。


「さてと……幼馴染のお手並み拝見と行きましょうかね」


 正直、サスケで3rdステージ進出は、ウィンターカップ初出場校でいうと、ベスト4並みの快挙だと思う。

 だからこそ俺も、自分の功績に自信と誇りをもって、南央の応援を全力でしようと心に決めた。


 しかし、俺は侮っていた。

 俺の幼馴染が、どういう存在かということを……。

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