第3話 サプライズの成果

『さぁ、20〇〇年、第××大会サスケ。現在二十人の挑戦者が競技を終えましたが、未だにクリア者はゼロ。その中で、今大会予選会から勝ち上がった現役高校生の登場です。予選会第三位で突破、しのぶ高校二年生、佐野慶悟十七歳ぃぃぃぃ!』


 実況アナウンサーの紹介が終わり、カメラが俺をアップで映し出す。

 俺はカメラに手を振り、続いて会場の声援に応えるようにして手を上げた。

 スタート台に立つ画面の中の俺は、とても楽しそうな笑みを浮かべている。


 プッ、プッ、プッ、プゥー!


 お馴染みのスタート音が鳴り響き、画面の中の俺は、一つ息を吐いてから1STステージへと挑んでいく。


 サプライズ大成功。

 そう、これこそ、俺が南央に用意していた秘策。

 俺は子供の頃からの夢であった、サスケ出場という夢を叶えたのである。

 しかも、テレビでのオンエア。

 今俺の雄姿が、世界中で放送されているのだ。


「慶悟、これって……」

「どうだ? ついに叶えたんだぜ。サスケ出場」


 俺が南央へ事実を告げると、彼女は目をウルっと潤わせた。


「そっか……夢、叶ったんだね」

「あぁ……」

「おめでとう」

「ありがとう」


 夢を追い続けて早十年。

 俺はようやく、一つ目標であったサスケ出場を手にして、夢に見ていた舞台に立つことが出来たのだ。


「けど、お礼を言われるのはまだ早いぜ」

「えっ?」


 顎でテレビの方を指し示すと、南央はテレビに映る俺に視線を向けた。

 画面の中でサスケに挑戦する俺は、軽やかな足取りで、次々とステージをクリアしていく。

 初出場とは思えぬ足捌きに、常連選手たちも驚きの歓声を上げている。

 南央の視線は、テレビの中の俺に釘付けになっていた。

 俺の雄姿を、南央はどう見てくれているのだろうか?


 そんなことを思いつつ、俺もテレビの画面へ視線を移す。

 俺は順調に難関エリアをクリアしていき、終盤の【押し込みタックル】をクリアして、最後のエリアである【二連そそり立つ壁】へと差し掛かっていた。

 一つ目の壁を軽やかに登り切り、テレビの中の俺は、二つ目の壁と対峙する。


 ブーッ、ブーッ。


 そこで、残り時間十秒を告げる警告音が鳴り始めた。


『さぁ警告音だ。ここは一発で行かなければならない』


 実況のアナウンサーの実況が入る中、俺は一つ息を吐き、意を決して二つ目のそびえ立つ壁に挑んでいく。

 ほぼ垂直の壁を這い上がり、最後は思い切り足を蹴り込み、手を懸命に伸ばした。

 がしかし、無情にも俺の手は頂上を掴むことが出来ず、尻餅をつきながら壁を滑り落ちて行ってしまう。


「あぁっ!?」

『あぁー!』


 隣で見ている南央と、会場にいるお客さんの悲鳴が重なる。


『急げ!』 


 隣で並走してくれている選手から声が掛けられる。


『うわっ、マジか……』


 レジェンド選手の諦めに近い声が漏れる。

 再びテレビの画面は、立ち上がって壁へと対峙する俺へと切り替わっていた。

 肩で息をしていて、体力も限界に近い。


 ブーッ、ブーッ。


 無情にも警告音は鳴り響く。

 もうダメか、誰しもが諦めかけたその時――


「いけぇぇぇぇぇー慶悟!!!」


 隣で見ていた南央が、俺を叫ぶ声がリビングに響き渡る。

 刹那、テレビの中の俺が、最後の力を振り絞るようにして足を踏み出した。

 傾斜のついた壁を登って行き、ジャンプするように踏み込んで、力いっぱい手を伸ばす。


 ガシッ! 


 運よく、テレビの中の俺は、右手一本で壁の頂上を掴むことに成功した。

 最後の力を振り絞るようにして必死に身体を持ち上げて壁をよじ登り、俺は倒れ込むようにしてフィニッシュボタンを押し――


 バンッ!


 たとほぼ同時に、タイムアップの音が鳴り響く。


『さぁ、これは行ったのか? どうだ!?』


 会場中が固唾を飲む中、状況を理解できていない俺の様子が映し出される。

 直後、プシューっと煙幕が噴射されて、フィニッシュ地点の扉が開かれた。


『いったぁぁぁぁー!! クリア! これはギリギリクリアです!』


 クリアを告げるスモークが噴射して、状況を理解した画面内の俺は、飛び跳ねるようにして喜びを爆発させた。


『よっしゃぁ!!!』


 画面中の俺は、両手でガッツポーズしながら雄たけびを上げる。


『クリアあぁぁぁー!!!! なんと、この1ST最初のクリア者は、予選会から参加の高校生だぁ!!!』


 テロップには【ゼッケン番号21番 佐野慶悟 残り0.07秒 1STステージクリア】と書かれていた。


『わぁぁぁー!』


 湧き上がる観客席。


『すげぇ』

『高校生でもクリアできるんすね』


 常連選手たちの驚きと喜びの表情が映し出される。

 まさに、俺がクリアしたことを、今テレビを観ている人たち全員が祝福している瞬間だった。


 そして、テレビに映っている俺は、後ろのカメラに気が付くと、カメラを指さして――


『見たかこの野郎!』


 と、今まで見返してやりたかった学校の人達への感情を爆発させた。

 陰キャ生活がこれで終わるかどうかは分からない。

 ただ、今まで俺を散々馬鹿にしてきた奴らの心が、少しでも揺らいでくれればと思う。 

 それにしても、この時の俺、はっちゃけ過ぎだろ……。

 クリアの喜びで気分が高揚していたのもあり、自分でもイキってたなと思う。

 ほんと、恥ずかしいったらありゃしない。


 ガシッ!


 するといきなり、俺は横から抱き締められた。

 見れば、南央が俺の首に手を回してきて、肩に顔を埋めている。


「な、南央⁉」

「おめでとう……本当におめでとう……」


 南央は鼻を啜りながら、俺に祝福の言葉を送って来てくれた。


「おう……ありがとな」


 俺は涙を流す南央の頭を優しくポンポンと撫でてやる。

 正直、ここまで南央が感動してくれるとは思ってなかった。

 サプライズ的には大成功かな?



 涙を流してクリアを祝福してくれている南央。

 これで対等な立場に並べたかは分からないけど、南央が感動してくれている姿を見て、今までの努力が報われて良かったと、しみじみ感じた。

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