第2話 秘策

 テストを終えて、冬休みに突入。

 今年もあと数日で終わりに差し掛かった十二月下旬。


 俺はリビングのこたつで、ぬくぬくとしながらテレビを観ていた。


『さぁ今年も始まりました。スポーツバラエティ番組サスケ! 今年の100人の挑戦者たちは、どんな活躍を見せてくれるのでしょうか? まもなくスタートです!』


 実況アナウンサーの声が鳴り響き、オープニングが流れ始める。

 俺が見ているのは、スポーツバラエティ番組、通称『サスケ』。

 100人の挑戦者が、1st、2nd、3rd、FINALステージと、四つのアスレチックエリアをクリアしていき、完全制覇を目指すといういたってシンプルな番組。


 放送開始から四半世紀たったサスケ。

 今や世界各地で、ニンジャウォーリアーとして絶大な人気を誇っている。

 近年ではなんと、オリンピック競技に選ばれるなど、目覚ましい発展を続けている。


 俺は、毎年サスケを楽しみにしている。

 しかし、今年は違った意味で、緊張していた。

 なぜなら――


 ピンポーン。


 とそこで、インターフォンの音が鳴り響く。


「おっ、来たかな?」


 俺はこたつから出て、玄関へと向かって行く。

 廊下に出ると、凍えるような寒さが襲ってくる。

 振るえる身体を抑えながら、玄関の扉を開け放つと、そこには幼馴染の南央が、白い息を吐きながら立っていた。


「よっ!」


 俺が手を上げて挨拶を交わすと、南央は駆け込むようにして玄関へと入って来た。


「さっむーい! もう……こんな寒い日に呼び出すなんて何のつもり?」

「悪い悪い、どうしても南央に見せたいものがあって」

「手短に済ませてよね? 私明日から試合だし、この後CanonカノンちゃんのTikT○kライブ視聴するんだから」

「そんなに時間は掛けさせないよ。ささっ、上がって上がって」

「お邪魔しまーす」


 南央は渋々納得してくれたらしく、靴を脱いで上がりかまちへと上がり込む。


「なんか、慶悟の家に来るのも久しぶりだね」

「だな。ここ最近学校以外で話すことなかったもんな」


 幼馴染とはいえ、それぞれの生活があるので、頻繁に顔を合わせているわけではない。

 こうして、学外で顔を合わせるのは、文化祭の準備期間以来だろうか?

 そんな他愛のない話をしつつ、俺は南央をリビングへと案内した。


「こたつの中が温かいから、適当にくつろいじゃって」

「わぁーこたつー! お邪魔しまーす! はぁっ……あったかーい! こたつ考えた人ってマジ天才だと思うわ」


 南央はこたつに足を入れるなり、至福の声を上げた。

 身体を丸めて、暖を取り始める。

 俺はキッチンで湯呑みに温かい緑茶を注ぎ込み、南央の元へと運んで行く。


「どうぞ」

「ありがとー」


 南央は俺から湯呑を受け取ると、手を温めるように両手で抱え込む。

 そして、フーフーっと何度か息で冷ましてから、チビチビと緑茶を啜る。


「はぁ……体の芯から温まるぅー!」

「寒さも和らいだか?」

「うん、大分温まった! やっぱり慶悟の家は第二の実家だねぇー。めっちゃくつろげるし、何時間でも入り浸れる自信ある」

「まっ、小さい頃からの仲だしな、適当にくつろいでくれ」

「はぁーい」


 間延びした声を上げるなり、南央は早速ゴローンとカーペットの上に寝転んでしまう。

 俺も足をこたつの中に入れて、用意した緑茶を啜っていく。


 両親は、年末で仕事が忙しいらしく、まだ帰ってきていない。

 今家にいるのは、俺と南央のだけ。

 年頃の異性が、一つ屋根の下で二人きりだというのに、緊張感はまるでなく、むしろゆったりとした空気感が流れている。

 これも、俺と南央が小さい頃から培ってきた幼馴染という関係性だからこそなせる業だ。


『あぁーっと転落ぅぅぅ!!! どうした心理学者中西ぃ!!』 


 すると、テレビからアナウンサーの絶叫が聞こえてくる。

 その声に、南央はちらりと視線をテレビへ向けた。


「何の番組これ?」

「サスケだよ」

「あぁ、サスケか。慶悟めっちゃ好きだもんね。ってか出場目指して、身体絞り始めたんだもんね」

「……覚えてたのか?」

「そりゃまあ、慶悟には無理とか言っちゃったし……」


 ばつが悪そうに言ってくる南央。

 正直、覚えているとは驚きだ。

 すると、南央はむくりと身体を起き上がらせ、申し訳なさそうに頭を下げてきた。


「あの時はごめん。幼いながらに、慶悟に嫌な思いさせちゃって」


 謝罪の言葉を口にしてくる南央に対して、俺はふっと破願した。


「もういいよ。怒ってないなら。それより、今日南央を家に招いたのは、俺の成果を見て欲しかったからなんだ」

「慶悟の成果……?」

「あぁ……見てくれ、ほら」


 俺がテレビを指差すと、南央がそちらへ視線を向ける。


「……えっ?」


 刹那、南央が驚いたように目を見開いた。

 南央の反応を見て、俺はにやりとほくそ笑む。

 無理もない。

 なぜなら、今テレビの画面に映っているのは、紛れもなく俺なのだから。

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