第九話 師弟誕生?

意気揚々と勝手口を飛び出し、城の外周を走り出した俺は、


「ハァ、ハァ、クソ!」


草むらの上に倒れこんでいた。


文字通り倒れるまで走り込んだがしかし、魔眼が開かれた気配はない。一体どこまで自分を追い込めば手に入るのだろうか。


「気は済んだ?」


いつの間にか母さんが俺のそばに立っていた。


「・・・さっきはごめんなさい」


「良いんだ、私も冷静じゃなかった。立てるか?」


「なんとか」


母さんと一緒に城の玄関まで歩き出した俺だが、未だに魔眼には未練が残ったままだ。










「アルバーン様、なんで居るの?」


「貴様に用があってな、小僧」


部屋に戻ったら爺が椅子に座っていた。彼は徐に懐から何かを取り出す。ガラスでできたペンだろうか。


「ペン先の反対側に穴が開いておろう、思い切り息を吹き込め」


俺は取り合えず母さんの顔を見上げたが、彼女は訳知り顔で頷くだけだ。


「はい・・・」


何だか分からんが、取り合えずやってみるか。ガラスのペンを受け取った俺は、言われるがまま思い切り息を吹き込む。


「ふぅーーーー!」


「よし、寄越せ」


爺にペンを手渡す。すると、爺はインクも何も付いていないペンで紙に何かを書きだした。当然何も書けていない。


「ほぉ、少々風変わりな反応だな」


「私は見たことがありません」


「時代だな」


見えてないのは俺だけか・・・。これも魔眼があれば見えるのだろうか、益々欲しくなったな。


爺は俺に向き直り、見えない何かが書かれた紙を手渡す。


「今儂は貴様の魔力を増幅し、その魔力でもって魔法陣を書いた。その陣の反応で魔法の適性を測るのは非常に一般的な技術だ。覚えておくように」


「はい」


急に講義が始まった。そうか、爺は俺の魔法の適正を測ってくれたのか。どんな魔法が使えるのだろうか。わくわく。


「そして、貴様に適性が無いことが分かった」


「嘘、だろ・・・??」


俺は膝から崩れ落ちた。ああ、だからぶっ倒れるまで走り回っても魔眼を開眼することができなかったのか・・・。これじゃピエロもいいとこだ。




「一般的に言えば、の話だがな」


「え?」


どういうことだ?


「少々長くなる。座るが良い」


爺はベッドの方を指さした。俺は母さんと一緒にベッドに腰かける。




「小僧、魔素は知っておるな」


俺は首を縦に振った。魔法を使うための素みたいなものだと、魔法理論初級編に書いてあったはずだ




「よろしい。魔素を体内に取り込み、思うがままに扱うことは誰もが出来るようになるのだ。獣ですらな。その取り込んだ魔素に指令を与えること、これが魔法だ。そして貴様はこの指令を与える部分の能力が欠落しておる」




な、なんということだ。一瞬希望が見えた気がしたのに、結局魔法使えないのかよ・・・。


「早合点せずに話を聞け小僧」


どうやら顔に出ていたらしい。


「あい」


「・・・まぁ、よい、続けるぞ。貴様の望む魔眼、それ自体は魔法ではなく人間の身体機能でしかない故、手に入る。それにだ。適性がなくともある程度は魔法が使える。」




「え」




「魔法理論はな、小僧。生まれ持って魔法を行使する者に、追いつくために作られたのだよ。今は適性のない者がほぼ絶滅したので、そうは思われておらんがな。」




「俺でも使えるようになるの?」


「無論」


よっしゃ!才能は無いみたいだが魔法は使えるようになるし、魔眼も手に入るときた!


「少女よ、儂の顔を殴れ」


え?


「・・・!ああ、なるほど。分かりました」


「母さん!?」


分かっちゃダメでしょ母さん!アブノーマルな趣味に付き合っても良いことないって!急に何を言い出すんだこの爺は!


「え、ちょっと!」


「小僧、しかと見ておけよ」


母さんは爺から見て右側に立った。




「それでは、失礼します」


母さんが右手を引き絞り、


「ああ」


拳を放った。バチン、ともベチンともつかない、人を殴ったときの独特な音がした。


俺の目には、母さんは思い切り爺の右頬を打ったように見えたが、爺の表情は全く変化していない。


そういう一発芸なのか・・・?殴られても痛くないよ~、的な?


「魔素のコントロールを応用すると、このように常軌を逸した頑健さを手に入れることができる」


「は、はい」


もうちょっと説明してくれてもいいだろ、爺さん・・・。実演を終えた母さんは俺の隣に戻ってくる。


「さて小僧ここで貴様に問題を出す」


な、なんだろう。


「今の技術は魔法か否か、答えよ」




なるほど、難しいな。先ほど爺は魔素に指令を与えることが魔法だと言っていた。身体を丈夫にしろ、という指令を魔素に与えていたのだとすると、この技術は魔法だ。


しかし爺は呪文を唱えていない。となると、ただ魔素をコントロールすれば良い?果たしてそんな理屈がまかり通るのだろうか。例えば、魔素の量が増えれば体が頑丈になるとしよう。これでは少々都合が良すぎる気がしないでもない。身体の表面を魔素で覆ったらどうだ?いや、魔素は空気中に漂う分子みたいなもの。そこまでの抵抗力を持たせることは可能だろうか?




「呪文を唱えなくていい魔法、ですか?」




「及第点だ」


ほっ、どうやら俺の返答は悪くなかったようだ。


「我々人間に備わっている、言わば本能の魔法。それが身体強化だ。呪文や陣を使わずとも、無意識の内に使うことが出来る。この魔法を意識化することは、協会の魔法使いの必須事項である」




我々人間に、ということは俺にも備わっている魔法なのだろう。俺は一言一句逃さぬよう、集中して話を聞く。




「貴様の父の得意技、というか、まともに出来た魔法はこれくらいだった。」


「父さんも適性がなかったんですか?」


「ああ、貴様の血族は少々特殊でな。魔法の適性を持たぬ者には、特殊な魔法が宿るのだ。」


「それは?」


「知りたいか」


「はい」


爺は、不敵に笑った。金色の瞳と相まって、まるで猛獣のようだった。




「儂の教えを受け継げば、教えてやらんでもない」

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