第4話 空の代弁者

「皆さん、空が応えてくれました! 雨を絶やさないために、捧げ物を行うのです!」


「待ちに待った雨だ……捧げ物を……」


「これでもう最後だ……雨を、雨をもっと!」


 儀式場で大きく声を上げるギギーラ。

 ギギーラはウルルを使い、大雨を降らせて住民達を先導していた。


 住民達はなけなしの金品や価値のある物を差出し、ひたすらに雨を乞い続ける。そんな彼らを見て、ウルルは雨に隠れながら涙を流す。


「ああ……私に必要なのはそんな物では無いのに。空の精霊は、人に危害を加えるため、存在するのではありません……」


「フン、生活を精霊なんぞに託すから簡単に奪われる。だから私が変えよう。片田舎の寂れた街はこれから、集めた大金によって大陸有数の娯楽都市に成るのだ!」


 歪んだ町長の野望。それは街を開発し、大金を得るための都市に作り変える事であった。集まった捧げ物を前にニタニタと笑みを零すギギーラ。しかし。



「そこまでだよ」



「あぁ? お、お前は昨日の賊……。どうやってあの保管庫から抜け出した!?」


 突如として儀式場に現れたアマギ。彼女の周りには白い雪煙と共に、今までギギーラの奪ってきた捧げ物の数々が散らばっていた。


「お、おいあれ、俺達の渡した捧げ物じゃないか? なんであいつが持っている?」


「捧げ物は空の精霊に渡されて、もう返って来ないって話じゃ無かったか……?」


 騒然とする儀式場の住民達。立ち尽くす彼らを見て、ギギーラは声を荒げる。


「何をやっている! そいつは盗賊だ! さっさと捕らえないと、捧げ物を奪われ貴重な雨が止んでしまうぞ!」


「全く。本当に盗ったのは、どっちだろうね」


 町長に言われ、現れた盗賊を捕まえようとする住民達。

 走り回りながら逃げるアマギに向けて、フロロは願いを託す。


「中央にいるウルルに触れるっフル! アマギ、オイラの代わりに空の精霊を、大事な仲間を助けて欲しいっフロー!」


 フロロの叫びと共に、アマギは白い雪煙に包まれる。

 直後。雪煙の中から、真っ白なヴェールを纏ったアマギが飛び出した。



「馬鹿な! 精霊と融合した……!?」


 フロロの力を借りたアマギは、雪の精霊の力を使い、辺り一面を凍らせる。そして氷上を滑るように住民達を避け、中央で涙を流すウルルへと近づく。


「アマギさん!? どうして!?」


「助けてって言ったのはウルルだよ。それに、助けを呼んでくれたのもね」


 アマギとウルルの距離が近づく。二人を止めるため、町長は追手を急がせる。


「そいつを中央へ行かせるなぁ! クソっ、奪われてたまるか。雨もこの街も、私のものだあああ!」


 戸惑う住民達を避けて、アマギは中央のウルルを囲む見張りの中を突き進む。


「な、なんだこいつは!?」


「どうして急に氷が……ぐわっ!」


 アマギの進む道が、全て凍っていく。



「アマギ、ウルルと契約するっヒュー!」



「アマギさん、本当に私を……!」



「うん。助けるって、言ったよ!」



 アマギとウルルの手が、ついに触れ合う。

 その瞬間、叫び声のような大雨が降り止んだ。


「雨が、止んだ? 俺達の水が、消えた?」


「……違う。もっと空を見て見ろ!」


 儀式場に居た全ての者が、自然と天を仰ぎ空に意識を奪われる。


「空が、真っ白に染まった?」


「雪だ。雪が降ってる。この街に雪が降るなんて、こんな事生まれて初めてだ」


 雨が雪に塗り替えられる。無理やりに降っていた大雨が、優しい雪へと姿を変える。


 皆が雪に見とれる中、ただ一人だけは違っていた。

 全てを手に入れるはずだったギギーラは、一人中央に立つアマギへと襲い掛かる。


「お前、空を奪ったな!? 返せ。返せ返せ返せ返せ。私の野望を、私の雨を返せ、この空泥棒めがぁ!」


「空泥棒じゃないよ。私はただ、空の想いを感じ、空の想いを伝える代弁者」




「『ウェザーリポーター』だっフロ!」




 アマギの身体から、精霊の真っ白な雪が溢れ出す。


 雪はギギーラの身体を、道を違えた者を浄化するように覆い込む。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る