第2話 ねこ

 唐突に、みゃーと鳴き声が聞こえる。

 驚いて声のする方を見る。するり、と尻尾を立てて黒猫がどこからともなく歩いてきた。


「みゃー」

「……」

「それ買うの?」

「……ん?」

「だからそれ欲しいにゃ?」


 出来事を脳内処理するのに時間がかかる。


「ええええっ?! 喋った! 猫が!!」


 ドシイイインッ


後ずさった影響で陳列棚にぶつかり、盛大にハートクッキーをぶちまける。


「驚きすぎにゃ。天国にゃ羊と狼がにこにこ暮らしてるにゃ。人間も会話できるかもにゃにゃん」

「天国て……壮大な。てか、ごめんにゃねこちゃん。クッキー買い取るな」

「驚きすぎて口調がおかしくなってるにゃ。まぁねここの可愛さにはみんなメロメロ骨抜きにゃにゃん」


みゃあ、とまた猫は甘い声で鳴く。


「クッキー買い取らなくてもいいにゃん。プレゼントするにゃにゃん。ちなみにわたちはねここ。名前は何にゃん?」

「俺の名前?」


ねここは頷く。


「俺は川澄かわすみ大吾だいご

「大吾にゃん、きみは神様に愛されてるにゃ。だからねここもクッキー割ったどぢな大吾を赦すにゃん」

「……ありがとう」

「だから大吾にゃんも、赦せない人を赦すにゃん。そうじゃないとわたちも大吾にゃんを化け猫になって憎むにゃん」

「それは怖いからやめてくれ」

「なら大吾にゃんも人を愛して生きるにゃん」


 そう言われてもできることとできないことがある。


「俺には無理だ」


 僕は正直に答える。


「わかったにゃん。だけどねここはやっぱり大吾を赦すにゃん。大吾は愛されるために生まれてきたから」


 代金の100円を払い、名残惜しいが僕は店をあとにする。

 家に着き、イチゴクッキーを食べながら愛されたいと僕は希求し、

 でも愛されない現実に乾き切り、

 また砕けたクッキーを口にした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

あいしてる茶 空沢 来 @kaidukainaho2seram

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る