あいしてる茶

空沢 来

第1話 ハートクッキー

「あなたは愛されるために生まれてきた」


 そんな看板のあるカフェらしき建物を見つけた週末。

 仕事をせずに周りに押し付け、事務員の女の子にオヤツでご機嫌取りがルーティンワークの上司と、出来の悪い問題児後輩(1週間に1回以上トラブルを起こす)、無茶ぶりでサービス出勤必須の顧客に囲まれヘトヘトで、一日中寝てたけど、お腹が空いたからスーパーに出かけた。コンビニは近いけど高いから。休日は寝たりゲームで彼女もできないしたまに風俗に行くくらいで。1時間に4回はヤる僕はクズだ。

 ……はぁ。


 歩いてたら、新しい看板を見かけた。

 軒下のブラックボードにピンクのチョークで書かれてる。

 見上げると店名は「あいしてる茶」。


「あいしてる……茶?」


 茶屋は行かないけど、喫茶店なら。

 疲弊した僕だけど、気になったから覗いてみる。


 カランカラン

 

 ドア縁の上のベルが鳴る。店内にはゆったりとしたBGMが流れている。

 いらっしゃいませ、とかは何もなくて。店員の姿もない。

 「♡こんにちは♡」と書かれた天井から吊り下げられた横断幕。店内は明るい木目調で、癒し効果を演出している。

 テーブル席が奥に広がっているけれど、ひとまず近くの棚に並べられてる商品を眺めていく。


「あっ……」


 ハート型のクッキーが一枚ずつ個包装になっていて。袋にメッセージが書いてある。


「あいしてる……(笑)」


 クッキーはチョコ味とかプレーン味とかいろいろあるけど全部メッセージはそれ。


「あいしてるかよ」


 遠く離れた場所に住んでる弟を思い出した。弟にもこの場所のことを伝えようと思ったけど、やめた。恥ずすぎる。


 寄ったのに何も買わないのは忍ばず、イチゴ味を一枚手に取る。辺りを見回しても客は誰もいない。貸し切り状態、僕がピンク色のクッキーを買っても誰にもバレない、よし。

 

 いま流行りの無人店舗かもと思い、会計場所を探す。店員にもバレないならなおいい。……ラブホかよ。






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